一律に地震といいましても、内陸型(直下型)と海溝型(プレート型)とで地震に揺れ方(固有周期)の性質が異なる。東日本大震災を経験した方なら、最大震度7の強い揺れを感じたにも関わらず建築物への被害はあまり無かったことに驚いた方も多いのではないでしょうか。
一方で熊本地震や新潟中越地震、兵庫県南部地震を経験された方は、マグニチュードが6クラスとそこまで大きくなくても、倒壊した建築物への被害を目の当たりにしているはずです。
人にも個性があるように建物にも固有周期といういうものがあり、建物に影響を及ぼす地震の周期があります。これらの違いは、内陸型と海溝型の違いによる地震の周期の違いです。
この記事では、この違いについて解説しています。
内陸型地震と海溝型地震の違い
内陸型地震とは、活断層型の地震ともいい、地表面から概ね5km〜20km以内で発生する地震です。マグニチュードは最大でも7程度と平成23年に発生した東北太平洋沖地震M9に比べるとM2以上も離れているのでエネルギーも違いますが、震源が浅いことで、エネルギーがダイレクトに地表面に伝わります。また、地表が軟弱地盤(湿地帯や埋立地など)の場合ですと揺れが増幅します。
近年ですと2016年の熊本地震、1995年の兵庫県南部地震が代表的でして、皆さんがご存知のように建築物や構造物への被害が甚大でした。
一方で海溝型地震は、プレート間地震と呼ばれていまして、比較的深いところで発生する地震なのですが、平成23年に発生した東北太平洋沖地震では、M9と内陸型に比べてエネルギーが大きいのが特徴となります。しかしながら、東北・関東の太平洋沖で多く発生しているように震源が内陸から離れていることもあって、内陸に伝わるまで地震力が減衰する特徴もあります。
なお、過去には大正時代に発生した関東大震災(相模トラフで発生した海溝型地震)では、震源が浅いこともあって神奈川、千葉、東京での建築物の倒壊が多く発生しかつ津波も発生しており、海溝型で震源が浅いケースの場合には内陸型と海溝型の両方の性質を持っている可能性があります。
ではでは、どういった地震が建築物に被害をもたらすのかです。
特に国内の大部分を占める低層建築物の被害を受ける建築物の説明です。
中低層建築物が被害を受ける地震の特徴
結論から言うと、木造や鉄骨造、鉄筋コンクリート造などで10階程度以下の中低層建築物については、地震の周期1〜2秒が大きく影響を及ぼしていることが分かっています。
加速度応答スペクトルというと、ちょっとだけ専門性が高くなってしまいますが、兵庫県南部地震や熊本地震ではこの1〜2秒の周期の地震動であることが分かっていて、一方で東北太平洋沖地震は、0.5秒以下の周期が卓越した地震動であったことが分かっています。
ちなみに1〜2秒周期の揺れは兵庫県南部地震の方が東日本大震災よりも5倍高いことが分かっていまして、さらに、熊本地震は、兵庫県南部地震よりも大きかったことが分かっています。
一方で、東日本大震災では実際に感じる震度は大きい(最大震度7)けれども建物への被害は小さい地震であったということが分かっています。
次の表は、過去地震における全壊棟数の被害状況です。
発生年 | 名称 | M | 周期1~2秒 | 全壊数 |
---|---|---|---|---|
2018年 | 北海道胆振東部地震 | 6.7 | ○ | 469棟 |
2016年 | 熊本地震 | 7.3 | ○ | 8,667棟 |
2011年 | 東北太平洋沖地震 | 9.0 | 121,996棟 *津波被害 | |
2008年 | 岩手・宮城内陸地震 | 7.2 | 30棟 | |
2007年 | 新潟県中越沖地震 | 6.8 | ○ | 1,331棟 |
2007年 | 能登半島地震 | 6.9 | ○ | 686棟 |
2004年 | 新潟県中越地震 | 6.8 | ○ | 3,175棟 |
2003年 | 十勝沖地震 | 8.0 | 116棟 | |
2003年 | 宮城県北部地震 | 6.4 | 1,276棟 *震度6弱 前震と余震で計3回 | |
2001年 | 芸予地震 | 6.7 | 70棟 | |
2000年 | 鳥取県西部地震 | 7.3 | ○ | 435棟 |
1995年 | 兵庫県南部地震 | 7.2 | ○ | 110,457棟 |
上記を見てみると、周期1〜2秒を観測している地震において建築物に対して大きな被害をもたらしているのが分かります。特に兵庫県南部地震と熊本地震は特に壊滅的です。
兵庫県南部地震は人口も多い地域だったので尚更被害が大きい感じです。
つまり、震源が浅く直下型で地震が発生すると中低層建築物への被害が甚大となることが分かりますよね。
ですので東日本大震災に耐えたから安全というわけでは無くて、たまたま建築物に対して大きな被害をもたらした地震ではないために地震被害がこの程度で済んだと思った方がいいと思います。
建築基準法で守られているんじゃないの?!って思うかもしれないのですが、建築基準法の基準では、数百年に1度といった極めてまれに発生する地震(震度6強から7)による力に対して倒壊や崩壊しないこととしていますが、熊本地震では耐震基準が変わった1981年、2000年以降の建築物でも倒壊する被害を受けていますし、倒壊を避けられても地震保険で修繕できるような状況(全壊被害)にはなかったみたいです。
>>熊本地震における被害状況から住宅に耐震対策について書いている記事です。
【15%という数値】熊本地震のような大規模地震から生命と財産を守るための住宅建築の基礎知識。
>>今後、注意した方がいい地震(内陸型・海溝型)について書いている記事です。
【内陸型(直下型)地震のSランク地域をリサーチ】住宅建築において必要な地震の豆知識
【発生確率が高い海溝型地震をリサーチ】住宅建築において必要となる地震の豆知識
まとめ
ということで、内陸型地震と海溝型地震における建物被害の違いについて解説しました。
中低層建築物にとって甚大が被害をもたらす周期1〜2秒の地震発生確率が高い内陸型に注意しなければならない(つまり、活断層型で発生する確率が高い地域で地震対策を行う)です。
一方で、海溝型でも東日本大震災のように津波によって甚大な被害を受けることもあります。その場合、被害は全壊や半壊のレベルではなくて流失になる可能性があるので、津波被害対策の場合には生命以外を捨てて避難を前提とするか、津波の被害を受けない地域へ移住(住宅建築)するしかないとは思いますが、
なお、近年ですと、昭和南海地震や関東大震災といった日本に近いプレート付近で起きている災害では津波の他に地震被害が多いので、今後、発生することが考えられている南海トラフ地震への対策は早急に進めた方がいいと思います。
ということで以上となります。住宅建築の参考になれば幸いです。
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