あなたが何も悪いことをしていないのに、自分の家が建築基準法令に違反してしまうことがあるとしたら驚きますよね。
役所時代には意図的に道路側に越境する事例に遭遇しても「またか〜」くらいに処理していたのですが、最近、たまたま同様の事例に遭遇したのでブログにまとめてみました。元役所職員としての経験を踏まえながら、この道路への越境問題について解説していきたいと思います。
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目次
道路に越境するのは故意・過失?
一般的な話として、公図上の道路幅員と道路台帳上の道路幅員、現地の道路幅員が完全に一致することは稀です。少なくとも数㎝以上は違ったりします。
そのため、境界査定を行っていない敷地では、境界が分からずに道路に越境して塀等を築造してしまうことがあります。なお、道路内建築制限は44条で制限されているので本来はOUTです。
関連記事:道路内工作物は法第44条違反
官民・民民の境界査定が実施済だったり、平成中期以降の開発行為や道路位置指定によって地積測量図が備えられている場合には誤差が生じることはほぼないのでそうした土地の方は安心してください。
市町村の道路台帳図は必ずしも境界査定や測量成果によってつくられているわけではなく、道路認定された時期が古かったり、住家が少ない郊外では空撮画像を使いそれをもとにつくられていることもあり、精度が高いとは言えない場合があります。
また、市町村道では道路内民有地といって道路法上の道路内に私有地が含まれる場合などもあり、道路台帳は官民境界を示したものではないのが実態です。
以上から、境界杭が設置されていない道路は現地と一致していないことが多いです。
また、法務局が所管する公図は、地域によって精度が異なるため、精度が低いエリア(1,000分の1など)はでは、多少の誤差が生じることがあります。
明らかな境界杭の移動
そのような中でも、誤差が数㎝ではなく、数十㎝から数mほど公図や道路台帳図と一致していないことがごくたまにあります。
その多くが人為的な境界杭の移動や埋設です。
「杭なんて移動しちゃえ〜〜」っていうやつと、「埋めてしまぇ〜」ですね。
特に、市街地から外れた郊外では、周囲の目が少ないのも理由の一つだと思いますが、道路部分に越境して塀や擁壁が建てられている事例に遭遇することがあります。
もちろん違法であり、境界杭の違法な移動は刑法により5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
建築基準法でも最大で3年以下の懲役刑なので5年というのは相当重い刑ですよね。
(境界損壊)
刑法第262条の2
第262条の2 境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
良識ある人なら当然にやらないのですが事例としてはあります。
驚きなのは、行政職員や建築士として様々な境界トラブルを経験してきた身として言えることとして、ごく普通の人でもそうした行為を行っていることがあります。
杭を移動して塀や擁壁を築造
市街化区域や中心市街地ですと、境界標を大胆に移動する行為は近隣住民にバレて道路管理者に通報されるので杭の勝手な移動を大胆に行うことはないのですが、ところが・・・
市街化調整区域や白地のような住家が少ない地域ではちょっと違います。というのも、道路境界が曖昧であることが多く、公図や道路台帳の精度も低いからです。
今回の事例では、昭和後期に集落から要望を出して道路拡幅をお願いしていたケースで、その後、用地買収まで完了して道路区域のみは変更したものの、舗装や側溝移設などの道路整備が進まず数十年以上放置されていました。
そのことも要因の一つとなり、側溝端部を道路境界と認識してしまうことで法面などに塀を建築してしまったようでした。
この場合、境界杭が設置されていないのであれば確認不足かな?と想定できます。ところが、境界杭があっても無視して塀や擁壁を築造することがあるんです。
確信犯は怖っとなるのですが、市街化調整区域や白地ですと市街地とは異なり維持管理も疎かになざるを得ないのか、道路管理者が気づかないまま放置され続けることがあります。
問題なのは、仮に管理者がそのことに気づかずの20年以上も放置してしまった場合、時効取得される可能性があります。その場合に道路挟んで反対側の敷地で実害が発生します。
その理由を次項で解説します。
道路幅員の減少により建てられる最高高さが低くなる
建物が建てられる高さは道路幅員によって異なります。
例えば住居系用途地域で道路幅員が6mの場合には、1.25*6mで、道路境界線の位置で最高高さは7.5mとなりますが、これが幅員4mの場合には、最高高さは5mに抑えられます。
そのため、道路境界線付近では2階建て以上とすることが難しくなります。
仮にですが、自分の建物が先に建っていて、その後、道路に越境した部分を悪意占用して自己所有地とした場合、道路幅員が縮小すると高さ制限にかかることになります(既存不適格建築物となるため現行法には適合しなくなる)。
自分が何も悪いことをしていなくても隣地者等が違法な行為を行ったことで実害を受ける可能性が十分にあります。
ちなみに、今回の事案ですが、道路台帳と公図と現地が明らかに一致していないので、Googleストリートビューで確認してみたところ、数年前までは越境部分には塀は築造されていませんでした。
また、ストリートビューでは、役所が設置した当時の境界杭も確認することができていました。
なお、越境された役所所有の土地の登記事項を確認してみたところ、所有者も変わらずでした。ほぼ間違いなく役所との協議もなく、自己都合で越境して塀を築造しています。
*土留め壁みると水抜き穴がないので違法だとすぐに判明・・・
道路幅員が公図や道路台帳と整合せず変だなー?と感じたらGoogleのストリートビューで確認するのはありですね。
また、重要事項説明の対象にもなっている法令としては容積率制限があげられます。仮に指定容積率が200%でもそのまま200%が使えるわけではなく、住居系用途地域の場合で道路幅員が4mの場合には、4m*0.4=160%となります。つまり、道路幅員の減少は本来使える容積率が40%減少することにもなります。
関連記事:前面道路幅員で容積率の上限が決まる。
補足:建築基準法第42条第1項第1号道路幅員は曖昧?
建築物を建てることができる建築基準法第42条第1項第一号道路とは、道路法上の道路で4m以上有するものをいいます。
道路管理者が管理する幅員=建築基準法上の道路幅員 となるため、建築設計や不動産取引においては最も重要な法令の一つです。
1項1号道路は、都道府県道や市区町村道がこれにあたりますが、道路幅員は、道路台帳や境界査定によって明らかであれば何も悩む必要はないですよね。
ところが、なかには道路台帳が曖昧であったり境界査定が行われていないこともあり、その場合には、道路管理者の考え方によって幅員の測り方が変わります。
公図上の幅を道路管理幅員とするときもあれば、現況の幅員(側溝〜側溝間)を道路管理幅員とするときもあります。
なお、特定行政庁としては法令上、1項1号道路の指定は行いませんので、道路管理者が管理しているとする幅員がそのまま1項1号道路の幅員となります。
幅員が不明なケースであっても官民境界査定を行うことで片側の境界は明らかにすることができますが、道路を挟んで反対側の敷地は建築する際でないと査定しないのが一般的なので、前面道路の幅員が不明なまま建築確認申請をせざるを得ない場合もあります。
道路について更に詳しく知る
補足:建築確認審査上は?
建築確認審査上は道路管理者による管理幅員が道路幅員となります。
ですので、道路反対側の敷地が越境して道路内に塀や擁壁が築造した事実が確認できたとしても所有権が変更しておらず道路管理者がそのことを認識して、本来の管理区域が道路管理幅員という管理者による回答が得られれば本来の幅員で申請することができます。
確認済証も交付されます。
問題は悪意占用されて時効取得した場合や、悪意占用の後、行政との協議で道路用地を用途廃止して、悪意占用者が買い取る場合です。この場合、道路幅員が減少します。
まとめ・対策
こうした事例に遭遇しないためにも注意した方が良いのは次のような土地です。
都市計画道路以外の道路拡幅予定のまま放置されている道路や法面等によって境界が曖昧となっている場合には、越境しているか、もしくは世代が変わると意図的に越境する可能性を否定できないです。
違法な行為を防ぐには、道路管理者である市町村が地先境界ブロックや道路側溝で境界を確実に明示することが必要だと改めて感じますが予算の関係からできないことが多いです。
自己防衛策としては、1〜3年に1回は自己所有地を中心に公図を取得し、あわせて隣接する土地周囲の登記事項を取得して、現地との状況の差異を確認して変化が追うことです。
公図や登記事項は、オンラインで情報を確認することが可能です。
公図は362円、登記事項は332円/筆で取得可能です。また、時間があれば役所に行って道路台帳をコピー・写真撮影して、道路の管理区域を確認しておくことが予防策になります。
塀や擁壁の築造などによる越境が確認できたらすぐに道路管理者に通報しましょう。