この記事では、2025年4月1日の建築基準法改正に伴う「大規模の修繕・大規模の模様替」の遡及しない条項をまとめています。
新たに「新2号建築物」となる木造2階建て住宅については、大規模の修繕・模様替えに該当する工事を行う場合、従前とは異なり着手する前に建築確認申請が必要となります。
※すでに準備されている方もいるとは思いますが事業者様向けに作成したブログ記事なので、業務の参考の参考になれば幸いです。
目次
既存不適格条項は理解が難しい。
リフォームであっても2025年4月1日以降、建築確認申請が必要となることに伴い、検査済証が無い建物や既往工事履歴が不明なケースを含め設計者が調査し、既存不適格調書の作成や図面の復元などが必要となります。
これに加えて、従来では、既存不適格建築物の大規模修繕・大規模模様替えを行う場合に遡及適用をチェックすることになります。この場合、遡及されるものについては修繕等にあわせて現行法へ適合させる必要があります。
がしかしです。この遡及適用ですが、建築行政職員でも読みこなすのは難しい法文です。(私も役所に入りたての頃は苦手が意識がありました)。
2025年4月1日以降に着工するリフォーム(大規模の修繕・大規模の模様替え)工事には、行為の着手前に建築確認申請が必要となるため、既存不適格建築物に対する制限の緩和を読み解いておくことはリフォームを受注する上で大切な業務の一つとなります。
大規模の修繕・模様替えとは?
- 大規模の修繕:建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕
- 大規模の模様替:建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替
- 主要構造部:壁、柱、床、はり、屋根、階段。
※建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除く。
(注)木造2階建ての1階床や耐力壁ではない間仕切り壁などは主要構造部には該当しません。
大規模の修繕・大規模の模様替とは?
既存不適格建築物に対する制限の緩和は、法第86条の7に規定。
既存不適格建築物に対する制限の緩和は、法第86条の7に規定されます。
同法では政令で定める範囲内において行う増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替のことを「増築等」としています。
同法は、第1項から第4項まで定められています。
第1項が、最も重要な構造をはじめとする全体的な遡及に関して、第2項が独立部分に対して、第3項が増築等以外の部分適用、第4項が移転に対する適用 というふうになります。
この記事では、木造住宅の増築及び改築については触れません。
ですので、増築及び改築時における遡及適用や、法第20条の構造耐力規定の適用に関して詳しく知りたい方は、国土交通省の公表している「建築確認手続き等の運用改善マニュアル(小規模建築物用(木造住宅等))」をご確認ください。
また、今回の改正により増築及び改築時においても遡及適用に関して大幅な緩和措置が設けられています。次回以降、記事にする予定です。
新木造2号建築物のリフォームは建築確認申請が必要に。
2025年4月1日以降に「大規模の修繕または模様替」に該当する工事に着工する新2号建築物については、着工する前に「建築確認申請」を行い、済証の交付を受けなければなりません。
例えば、木造2階建て住宅については、2025年3月末までの着工については、大規模の修善・模様替に該当する場合であっても建築確認申請は不要です
木造住宅の新2号建築物についてはこちらの記事をご覧ください。
大規模の修繕・模様替え時において遡及適用しないリスト
大規模の修繕・模様替えについては、原則として全て遡及適用を受けます。
※遡って適用される。
このため、例えば、住宅であれば、屋根不燃や採光、換気、接道、道路内建築制限、延焼の恐れある外壁の構造や開口部などは遡及適用を受けます。
(注)接道及び道路内建築制限については、特定行政庁の認定を受けることで遡及を受けない。
その上で、政令で定める範囲であれば一部の法令についてのみ遡及適用を受けない(緩和)です。その遡及適用を受けないリストは次のとおりとなります。
遡及適用を受けないリスト
(注)下表に記載のない条項については全て適用される。
非遡及条項 | 概要 | 補足 |
---|---|---|
法第20条 | 構造耐力規定 | 構造耐力上の危険性を増大させないものは遡及しない。 →屋根重量増や外壁重量増などが生じなければ壁量・バランス計算は不要 |
法第26条 | 防火壁 | |
法第27条 | 耐火建築物等の要求がある特殊建築物 | |
法第28条 | 採光・換気・火気使用室換気 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第28条の2 | 石綿規制・シックハウス | ・一号及び二号を遡及しないためには❶及び❷に適合 ❶修繕等の部分が施行令第137条の4の2に適合(石綿等の非使用) ❷修繕等以外の部分がH18年告示第1173号に適合(飛散防止措置) ・三号規定(シックハウス)は、修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第29条 | 地階の住宅の居室 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第30条 | 長屋及び共同住宅の界壁 | |
法第32条 | 電気設備 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第34条第1項 | 昇降機の構造 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第34条第2項 | 非常用昇降機 | |
法第35条 | 避難施設 排煙設備 敷地内通路など | ○外壁または屋根の修善及び模様替で、 かつ避難の安全上支障とならないものは以下を遡及しない。 ・令第137条の6の2第1項関係(第5章第2・3節,廊下幅規定を除く。) ・令第137条の6の3第1項関係(第5章第6節,地下街規定を除く。) ○第5章第4・5節は修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第35条の2 | 特殊建築物の内装 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第35条の3 | 無窓居室の主要構造部 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第36条 | 防火区画 防火上主要な間仕切り壁など | 外壁または屋根の修善及び模様替で、かつ避難の安全上支障とならないものは以下を遡及しない ・令第137条の6の4第1項関係 (防火区画、防火上主要な間仕切り壁。直通階段の竪穴区画を除く。) 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない。 ただし、防火壁、防火床、防火区画、消火設備及び避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く。 |
法第37条 | 建築材料の品質 | 修繕・模様替を行う部分以外は遡及しない |
法第43条第1項 | 接道 | 用途の変更(当該建築物の利用者の増加が見込まれないものを除く。)がない。 かつ、特定行政庁の認定を受けたもの。 |
法第44条第1項 | 道路内建築制限 | 形態の変更(他の建築物の利便その他周囲の環境の維持又は 向上のため必要なものを除く。)がない。かつ、特定行政庁の認定を受けたもの。 |
法第47条 | 壁面線による建築制限 | 参考記事 →「外壁後退」と「壁面線」、 「壁面の位置の制限」を同じ意味で使用してはダメ!!(物件調査のポイント) |
法第48条第1~14項 | 用途地域制限 | 用途の変更は遡及 ただし、令第137条の19第2項に掲げる変更を除く。 |
法第51条 | 迷惑施設の位置 | 参考記事 →【迷惑施設の建築】建築基準法第51条とは? 都市計画との関係性などを分かりやすく解説 |
法第52条第1・2・7項 | 容積率 | |
法第53条第1・2項 | 建蔽率 | |
法第54条第1項 | 低層住居地域内の外壁後退 | |
法第55条第1項 | 低層住居地域内の絶対高さ制限 | |
法第56条第1項 | 斜線制限(道路、隣地、北斜) | |
法第56条の2第1項 | 日影規制 | |
法第57条の4第1項 | 特例容積率適用地区内における高さの限度 | |
法第57条の5第1項 | 高層住居誘導地区の建蔽率の最高限度 | |
法第58条第1項 | 高度地区内の建築物の高さ | |
法第59条第1項 | 高度利用地区内の容積率等 | |
法第59条第2項 | 高度利用地区内の壁面の位置の制限 | |
法第60条第1・2項 | 特定街区 | |
法第60条の2第1・2項 | 都市再生特別地区 | |
法第60条の3第1・2項 | 特定用途誘導地区 | |
法第61条 | 防火地域・準防火地域 | ・以下の❶及び❷に該当する場合は遡及しない。 ❶修繕等を行う部分について、外壁開口部で延焼のおそれのある部分に、20分間防火設備 ❷修繕等を行う以外の部分について、外壁開口部で延焼のおそれのある部分に、20分間防火設備 |
法第67条第1・5・6・7項 | 特定防災街区整備地区 | |
法第68条第1・2項 | 景観地区 |
木造住宅の大規模の修繕等で注意したい遡及適用の内容
木造2階建ての住宅をリフォームをする場合に注意したい点としては、一般的な木造新築と同様に考えると次のような条項です。
※主な条項のみ記載しているので参考資料としてお使いください。
リフォーム時に注意したい条項 | 概要 | 留意点 |
---|---|---|
法第20条 | 構造耐力 (木造住宅の場合は壁量・バランス計算等) | 危険性を増大させる修繕・模様替の場合には法第20条が適用となる。 ・板見張→窯業系(重量増) ・耐力壁の減少(壁量減) など ※基礎改修、壁量・バランス計算等の20条への適用が必要。 |
法第22条 | 屋根不燃区域 | ガルバリウム鋼板や瓦等の不燃材で葺く。 ※遡及 |
法第23条 | 延焼の恐れのある部分の外壁の準防火性能 | 延焼の恐れのある部分の外壁をPC030などの防火構造 |
法第28条 | 採光・換気・火気使用室 | 修善・模様替を行う部分に適用 |
法第28条の2 | シックハウス | 修善・模様替を行う部分に適用 |
法第35条の2 | 特殊建築物等の内装 | 火気使用室(キッチン、暖炉等)の修繕・模様替する場合には、天井・壁の仕上げを準不燃材料以上に。 |
法第36条 | 浄化槽 | 修善・模様替を行う部分に適用 ・下水道区域内は公共下水道へ接続する。 ・単独処理浄化槽は合併処理浄化槽に入換え。 |
法第36条 | 床の防湿・階段・手摺 | 修善・模様替を行う部分に適用 |
法第43条 | 接道・条例付加 | 原則遡及 ただし、用途の変更(当該変更後に当該建築物の利用者の増加が見込まれないものを除く。)がない。かつ、特定行政庁の認定を受けたものは不遡及。 |
法第44条 | 道路内建築制限 (セットバック) | 原則遡及 ただし、形態の変更(他の建築物の利便その他周囲の環境の維持又は向上のため必要なものを除く。)がない。かつ、特定行政庁の認定を受けたものは不遡及。 |
法第48条 | 用途変更 | 用途の変更は遡及 ただし、ただし、令第137条の19第2項に掲げる用途の変更を除く。 |
法第61条 | 防火地域・準防火地域 | 防火地域内の耐火要求、外壁や軒裏、開口部の防火構造等 ・ただし、以下の❶及び❷に該当する場合は遡及しない。 ❶修繕等を行う部分について、外壁開口部で延焼のおそれのある部分に、20分間防火設備 ❷修繕等を行う以外の部分について、外壁開口部で延焼のおそれのある部分に、20分間防火設備 |
上記に加えて、増築が伴う場合には、別途遡及適用を受ける・受けない条項が発生します。なお、減築する場合には、確認申請は不要です。
違法建築物ではないことの確認が重要!
木造住宅のリフォームにあたり既存不適格建築物であることの調査(=既存不適格調書の作成)や、図面の復元等が必要になることに留意です。
基本的に建築確認申請の可否に限らず既存不適格建築物への「大規模の修繕・大規模の模様替」については、改修内容に応じて遡及するのか、不遡及なのか確認する必要がありますが、不遡及とするためには違法建築物ではないことが前提となります。
この違法建築物であるかどうかの確認が最も重要で最も難しいポイントとなります。
以下の❶〜❹に加えて、過去の工事履歴の確認が必要となります。
- 確認済証あり(図面有)、検査済証あり。
- 確認済証あり(図面有)、検査済証なし。
- 確認済証あり(図面無)、検査済証あり。
- 確認済証なし。
上記のうち❶については、法適合性のチェックが容易(簡単)ですが、それ以外については、法適合状況のチェックが難しいです。
検査済証がない場合には指定確認検査機関において法適合状況調査などを実施していますので費用をかければ改修可能となります。
加えて、図面がない場合には復元費用がかかります。
個人的な話ですが、図面が無い場合には図面復元として、全く資料が残っていない場合、敷地調査から建物内部調査を含めて20~40万円ほど。
さらに、検査済証がない場合(≒違法建築物)には、第3者機関へ法適合審査を依頼するため20~30万円ほど見込んでおいた方が良いです。また、法第20条に係る改修(危険性が増大する改修)の場合には壁量等のチェックが必要となるためさらに別途費用が発生します。
検査済証が無い場合や図面が無い場合、確認申請が不要な規模にとどめることをお客さんに提案するのも一つの選択肢かなとは思います。
建築設計事務所へ協力を依頼
建築確認申請が必要な規模となる「大規模の修繕・大規模の模様替」については、既存不適格調書の作成や図面復元、役所との事前協議などが必要になります。
このため、そうした既存不適格建築物に対する調査等に精通した建築設計事務所へ依頼することをお勧めします。
公式HPなどで「大規模の修繕・大規模の模様替」に関して解説を行っている設計事務所を探してみてください。
訳分からん!と感じた方へ
遡及適用の意味が不明と感じた事業者の方は、設計事務所へ依頼ください。
または、大規模の修繕・模様替の規模に該当しない規模で工事を行うようにしてください。
省エネ適合性判定について
大規模の修繕、及び大規模の模様替については、省エネ適合性判定は不要です。詳細はこちらの記事をにまとめています。