出生率の西高東低はなぜ生まれたのか―東京・福岡・仙台を結ぶ人口移動の半世紀

1970年と2024年の都道府県別合計特殊出生率の比較地図

現在の都道府県別の合計特殊出生率を見ると、上位には西日本の県が目立ちます。反対に、東京都や北海道、東北の多くは低い水準にあります。

合計特殊出生率は、英語のTotal Fertility Rateを略して「TFR」と表記されます。ある年の15~49歳女性の年齢別出生率を合計し、その年の出生状況が将来も続くと仮定した場合に、一人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する指標です。実際の女性を生涯追跡した人数ではなく、その年の出生状況を示す期間指標です。この記事では、以降「TFR」と記載します。

この地域差は、しばしば「西高東低」と呼ばれています。しかし、約半世紀前には東日本の方が高い「東高西低」でした。

1970年は、東日本の都道府県平均が西日本を上回っていました。それが1975年には逆転し、その後は西日本が相対的に高い状態が続いています。

なぜ、出生率の地理は入れ替わったのでしょうか。

政府統計をさかのぼって調べていくと、同じ1970~1975年に、もう一つ興味深い逆転が見つかりました。九州6県から移動する人の行き先が、東京圏より福岡県の方が多くなったのです。

一方、東北では現在も、宮城県へ向かう人より東京圏へ向かう人の方が多くなっています。

もちろん、この一致だけで「福岡が出生率を上げた」と結論付けることはできません。出生率には、婚姻、所得、雇用、教育、住宅、子育て支援、家族観など、数多くの要因が関係しています。

ただし、若い人が地元から遠く離れず、進学・就職から結婚、住み替え、子育てまでを同じ地域内で組み立てられる環境は、家族形成に何らかの影響を与えている可能性があります。

この記事では、人口動態統計、国勢調査、住民基本台帳人口移動報告、住宅・土地統計調査、地価公示などを組み合わせ、出生率が「東高西低」から「西高東低」へ変わった背景を考えます。

なお、この記事は特定の政策が出生率を高めたと証明するものではありません。政府統計から確認できる事実、事実と整合する仮説、現時点では分からないことを分けて記載します。

この記事の問いと仮説
問い出生率の「東高西低」は、なぜ「西高東低」へ転換したのか
仮説125~29歳までの婚姻・同居世帯形成の地域差
仮説2地域中枢都市による進学・就職人口の地域内吸収
仮説3雇用・住宅・交通をつなぐ家族形成期の生活経路

検証姿勢:政府統計による事実確認/反証結果の併記/因果関係と相関関係の区別

出生率の東西逆転なぜ起きたのか確認する時期1970年 → 2024年人口移動東京・大阪・福岡・仙台生活条件婚姻・雇用・住宅
記事冒頭の問いの整理


現在の出生率における「西高東低」

1970年と2024年の都道府県別TFR比較地図

1970年と2024年の都道府県別合計特殊出生率を、同じ縮尺、同じ階級、同じ色で比較します。

1970年の地図では、東北をはじめとする東日本側に相対的に高い地域が見られます。2024年になると、九州、中国、四国などの西日本側が相対的に高くなっています。

ただし、二つの地図を比較するときには注意が必要です。1970年から2024年までの間に、日本全体の出生率が低下しているからです。

現在の西日本の出生率が、1970年の東日本より高いという意味ではありません。全国的に低下するなかで、西日本側の低下が相対的に緩やかだったということです。

東京都・沖縄県を除いても残る東西差

東京都は2024年の出生率が0.96と全国で最も低く、沖縄県は1.54と最も高くなっています。この両都県だけで東西差が生じているようにも見えます。

しかし、東京都と沖縄県を除いて計算しても、2024年は西日本の方が高い状態が残ります。現在の「西高東低」は、二つの極端な地域だけによるものではありません。

この図表で分かること: 現在の東西差は、東京都と沖縄県を除いても確認できます。

注意点: ここで用いる東西の値は、各都道府県のTFRを単純平均したものです。女性人口で加重した全国的な出生率とは異なります。

約半世紀前の「東高西低」

1970~2024年の東日本・西日本TFRの推移

都道府県の単純平均では、1970年の西日本と東日本の差はマイナス0.069でした。つまり、東日本の方が高い状態です。

1975年には差がプラス0.034となり、符号が逆転しました。1980年はプラス0.040、2000年はプラス0.064、2024年にはプラス0.198まで広がっています。

ただし、東京都と沖縄県を除くと、1975年はまだ東日本がわずかに高く、1980年はほぼ同じです。広域的な逆転時期には多少の幅があり、おおむね1970年代後半から1980年代前半に転換したと捉えるのが適切です。

西日本-東日本TFR差の推移

この図表で分かること: 出生率の東西差は固定された地域特性ではなく、1970年代から1980年代前半に入れ替わりました。

考えられること: 現在の差を気候や地理だけで説明するのは困難です。短期間に変化し得る婚姻、人口移動、産業、雇用、教育などを見る必要があります。

出生率に最も近い説明としての「婚姻」

出生率の地域差を調べるとき、「その地域で一年間に何件の婚姻があったか」を示す粗婚姻率が使われることがあります。

しかし、粗婚姻率だけでは出生率をうまく説明できません。2024年の都道府県データでは、粗婚姻率とTFRの相関はマイナス0.164でした。東京都は若者が多く集まり婚姻件数も多い一方で、TFRは低いためです。

そこで、国勢調査から年齢別の女性有配偶率を計算しました。配偶関係不詳を除き、有配偶者数を未婚、有配偶、死別、離別の合計で割っています。

指標2020年TFRとの相関
25~29歳女性有配偶率+0.641
30~34歳女性有配偶率+0.297
35~39歳女性有配偶率+0.048
25~39歳女性有配偶率+0.418
20~24歳女性転入超過率-0.363

最も強い関係があったのは、25~29歳女性の有配偶率でした。35~39歳になると、都道府県間の出生率差との関係はほとんど見られません。

ここで重要なのは、単純に「最終的に結婚するか」ではなく、家族形成へ移る時期です。20代後半までに婚姻・同居世帯を形成できることが、第1子だけでなく、第2子、第3子を考えられる期間にも関係している可能性があります。

「早婚地域」という表現の注意点

地域の女性有配偶率は、その地域で育った人の結婚時期だけでは決まりません。

  • 未婚者と既婚者のどちらが転入・転出するか
  • 結婚するときに、夫婦のどちらの地域へ住所を移すか
  • 進学や就職によって年齢構成がどう変わるか

こうした人口移動の影響も受けます。そのため、この記事では「結婚を急ぐ地域」という意味に受け取られやすい早婚地域ではなく、「25~29歳までに婚姻・同居世帯を形成しやすい地域」と表現します。

結婚後の出生に残る東西差

婚姻時期だけですべて説明できるわけではありません。

内閣府の都道府県別要因分解を東西別に集計すると、東日本は有配偶出生率要因がマイナス0.075、西日本はプラス0.049でした。東日本では、結婚している女性から生まれる子どもの数に関係する部分も低くなっています。

地域別に見ると、低出生率の構造も異なります。

地域有配偶率要因有配偶出生率要因主な特徴
東京都-0.279+0.073主に婚姻形成の遅さ・少なさ
宮城県+0.014-0.113主に婚姻後出生の低さ
秋田県+0.087-0.187主に婚姻後出生の低さ
福岡県+0.092婚姻後出生が相対的に高い
大阪府-0.064+0.022婚姻形成の遅さ・少なさ

東京都と東北を、同じ「東日本の低出生率」として一括りにはできません。東京都は主に婚姻形成、宮城県や秋田県は主に婚姻後の出生に課題が表れています。

この図表で分かること: 現在の東西差を「西日本は早く結婚するから」だけで説明することはできません。

考えられること: 婚姻前に世帯を形成できる条件と、婚姻後に子どもを持てる条件を分けて考える必要があります。

若年女性の人口移動だけでは説明できない西高東低

東京圏には、進学・就職期の若年女性が集中しています。そこで当初は、「西日本では若年女性が地域に残るため、出生率が高いのではないか」と考えました。

しかし、都道府県別データはこの単純な仮説を支持しませんでした。

20~24歳女性転入超過率とTFRの散布図

2024年の20~24歳女性転入超過率とTFRには、マイナス0.377の相関がありました。若い女性を強く集める都道府県ほどTFRが低い傾向はあります。ただし東京都を除くと、関係は約マイナス0.251まで弱くなります。

さらに、20~24歳女性の平均転入超過率は、西日本の方が東日本より低くなっていました。つまり、西日本でも若年女性の流出は大きいのです。

また、年齢別の女性有配偶率を統計モデルへ加えると、若年女性移動の独立した説明力はほぼ消えました。

この図表で分かること: 東京圏への女性集中は大都市圏の低出生率と関係しますが、西高東低全体の説明にはなりません。

考えられること: 問題は若い時期に移動すること自体ではなく、移動した後、又は地域に残った後に、婚姻・家族形成へ移りやすい環境があるかもしれません。

ここから分析の問いを、次のように変更しました。

若年女性の流出が西日本でも大きいのに、なぜ家族形成期の出生率は西日本の方が高いのでしょうか。

25~29歳までの婚姻世帯形成を支える条件

「地域の文化が違うから」と説明することは簡単です。しかし、文化という言葉だけでは、何が違い、どこまで変えられるのかが分かりません。

内閣府の分析では、地域の有配偶率を押し下げる要素として、非正規雇用者割合、教育費、家賃の高さが示されています。

結婚後の固定費を負担できる見通しが立つか、出産を想定した住宅を確保できるか、教育費まで含めて将来を見通せるかが、婚姻時期に関係していると考えられます。

このほかにも、次の条件が考えられます。

  • 若年男性・女性の安定雇用と所得
  • 大学進学期間と初職に入る年齢
  • 同年代の未婚男女比と出会いの機会
  • 親世代との距離と将来の育児支援
  • 周囲の友人や同僚が世帯を形成する時期
  • 出産を見込める住宅の広さと費用

大都市から遠ければよいわけでもありません。中枢都市から遠い地域では、住宅費が低くても、若者の流出や雇用、出会いの不足によって婚姻形成が難しくなる可能性があります。

一方、大都市中心部では雇用や出会いが多くても、住宅費、教育期間、職業形成期間が婚姻を遅らせる可能性があります。

その中間にある地域中枢都市の近郊は、雇用へアクセスしながら住宅を確保し、親との距離も維持できる可能性があります。距離と家族形成の関係は、単純な直線ではなく、中間で条件がよくなる逆U字型かもしれません。

「福岡で止まる九州、東京へ向かう東北」

ここで、地方中枢都市として福岡と仙台を比較します。

両市は、地方ブロックを代表する政令指定都市です。大学、企業、商業、文化、医療などの高次都市機能が集まり、周辺県から進学・就職期の若者を集めています。

ところが、周辺県から移動する人の行き先には明瞭な違いがありました。

出発地域県外転出者地域中枢県へ東京圏へ中枢県/東京圏
東北5県101,140人宮城県17,675人(17.5%)40,269人(39.8%)0.44倍
九州6県147,332人福岡県41,087人(27.9%)31,165人(21.2%)1.32倍

東北5県は、青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県です。九州6県は、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県です。東京圏は埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県としました。

東北5県から県外へ移動した人は、宮城県へ向かう人より東京圏へ向かう人が約2.3倍多くなっています。

これに対し、九州6県から移動する人は、東京圏より福岡県へ向かう人の方が約1.3倍多くなっています。

東北5県すべてで東京圏が宮城県を上回る移動構造

出発県宮城県へ東京圏へ宮城/東京圏
青森県2,995人8,347人0.36倍
岩手県4,675人7,212人0.65倍
秋田県2,141人5,188人0.41倍
山形県3,315人6,159人0.54倍
福島県4,549人13,363人0.34倍

東北5県のすべてで、東京圏向けが宮城県向けを上回っています。仙台の影響圏は存在しますが、東京圏も東北全域から直接人口を吸収しています。

北部・中部九州ほど強い福岡の影響

出発県福岡県へ東京圏へ福岡/東京圏
佐賀県7,349人2,777人2.65倍
長崎県8,632人5,536人1.56倍
熊本県8,247人6,927人1.19倍
大分県7,132人4,291人1.66倍
宮崎県3,885人4,448人0.87倍
鹿児島県5,842人7,186人0.81倍

北部・中部九州では福岡県が東京圏を上回ります。一方、宮崎県と鹿児島県では東京圏の方が多くなっています。九州全体が一様に福岡へ向かうわけではありません。

この図表で分かること: 九州では福岡が東京圏の代替目的地になっていますが、東北では仙台と東京が競合し、東京圏の影響が大きく残っています。

考えられること: 仙台は東北新幹線によって東京と同じ南北軸上にあり、東北の若者にとって仙台と東京が比較可能な選択肢になりやすいと考えられます。福岡は東京から遠く、九州内で高度な雇用、教育、商業、文化、医療を得られる最終的な地域選択肢になりやすい可能性があります。

島という地形だけでは説明できない九州の完結性

九州の地域内完結性を、島であることだけで説明することはできません。

北海道も島であり、札幌という大きな中枢都市を持っています。しかし、北海道から県外へ転出する人の49.8%は東京圏へ向かっています。

沖縄県は東京圏への転出割合が38.5%でもTFRが高く、移動構造だけでは説明できません。香川県の東京圏向け割合は低いものの、大阪圏への移動も考慮する必要があります。

したがって重要なのは島という地形そのものではなく、東京との距離、地域内市場の規模、地域中枢都市の機能、周辺県からの到達可能性が組み合わさった構造だと考えられます。

大阪圏を加えて明瞭になる福岡の地域中枢性

西日本の人口移動を考える場合、東京圏だけでなく大阪圏も確認する必要があります。この記事では、大阪圏を京都府、大阪府、兵庫県、奈良県の4府県としました。

九州6県から福岡県へ東京圏へ大阪圏へ福岡県/大阪圏
1970年61,933人84,804人108,269人0.57倍
1975年59,090人57,127人60,026人0.98倍
1980年56,458人48,536人39,785人1.42倍
2000年51,691人33,434人19,365人2.67倍
2024年41,087人31,165人13,222人3.11倍

1970年の九州6県では、大阪圏が三つの行き先の中で最多でした。1975年には福岡県と大阪圏がほぼ同数となり、1980年には福岡県が明瞭に上回っています。2024年の福岡県向けは大阪圏向けの約3.1倍です。

この結果から、九州の地域内完結性は、東京圏から福岡県への転換だけで生じたのではありません。かつて強かった大阪圏への移動も縮小し、福岡県が九州内の進学・就職先として相対的に強くなった可能性があります。

この図表で分かること: 九州の主な移動先における大阪圏優位から福岡県優位への転換

注意点: 各年の総移動者数は大きく異なり、移動統計の仕様にも変更があります。人数の単純比較ではなく、行き先の構成変化として読み取る必要があります。

1970~1975年に重なる二つの逆転

ここまでの分析は2024年の人口移動です。現在の移動構造が、出生率の東西逆転より後に生まれたのであれば、逆転の説明にはなりません。

そこで、総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告を1970年までさかのぼり、東北5県から宮城県・東京圏へ向かった人数と、九州6県から福岡県・東京圏へ向かった人数を同じ方法で集計しました。

1970~2024年の地域中枢県/東京圏比
西-東TFR東北:宮城/東京圏九州:福岡/東京圏
1970-0.0690.15倍0.73倍
1975+0.0340.21倍1.03倍
1980+0.0400.27倍1.16倍
1990+0.0500.35倍1.03倍
2000+0.0640.47倍1.55倍
20100.39倍1.40倍
2024+0.1980.44倍1.32倍

1970年、九州6県から福岡県へ向かった人は、東京圏へ向かった人の0.73倍でした。この時点では東京圏の方が多かったことになります。

1975年には1.03倍となり、福岡県向けが東京圏向けをわずかに上回りました。1980年には1.16倍です。

出生率の東西差も、1970年のマイナスから1975年のプラスへ変わっています。

つまり、1970~1975年に、次の二つの転換が重なっています。

  1. 出生率が東高西低から西高東低へ変わりました。
  2. 九州6県の主な移動先が、東京圏優位から福岡県優位へ変わりました。

一方、東北5県の宮城県/東京圏比も0.15倍から0.21倍へ上昇しましたが、現在まで1倍を超えていません。

福岡への移動急増ではなく他地域向け移動の減少

この結果は慎重に読む必要があります。

1970年から1975年にかけて、九州6県から福岡県へ向かった人数は61,933人から59,090人へ少し減っています。それでも福岡県向けの割合は14.9%から20.1%へ上昇しました。

同じ期間に、九州6県の県外移動総数が414,599人から293,508人へ大きく減ったからです。

したがって、「福岡への移動が突然増えた」というより、全国的な遠距離移動が沈静化するなかでも、福岡への地域内移動が相対的に残ったと表現する方が正確です。

東北でも宮城県向け割合は8.6%から11.3%へ上昇し、東京圏向けは58.2%から53.6%へ低下しました。しかし、1975年時点でも東京圏向けは宮城県向けの約4.8倍でした。

この図表で分かること: 出生率の逆転と九州の移動先逆転は、いずれも1970~1975年に確認できます。

考えられること: 九州では、福岡が東京圏の代替中心として早く確立し、その後の若年層・家族形成層を九州内に残す条件になった可能性があります。

注意点: 二つの変化が同じ時期に起きたことは、因果関係の証明ではありません。オイルショック、産業構造、進学率、女性就業、婚姻年齢、家族規範なども同時に変化しています。

単純ではない仙台市と福岡市の比較

宮城県と福岡県では、内閣府の有配偶出生率要因に0.205の差があります。この差を住宅費、住宅面積、通勤時間、親との近居、保育条件で説明できるか検討しました。

ところが、「福岡市の方が明らかに暮らしやすい」という単純な結果にはなりませんでした。

指標仙台市福岡市読み方
民営借家月額家賃58,242円59,187円福岡市が約945円高い
1畳当たり家賃3,772円3,697円福岡市が約2%低い
全住宅平均延べ面積78.37㎡64.08㎡仙台市の方が広い
借家平均面積42.12㎡41.99㎡ほぼ同じ
通勤時間中位数28.8分28.6分ほぼ同じ
子が1時間未満に居住66.9%69.7%福岡市が約3ポイント高い

福岡市中心部の家賃は仙台市より安くありません。平均住宅面積はむしろ仙台市の方が広く、通勤時間もほぼ同じです。

両市とも、国の定義による待機児童はゼロでした。申込数に対する入所保留の割合にも大きな差はありません。

福岡側に確認できたのは、県全体の1畳当たり家賃がやや低いことと、親子が1時間以内に住む割合が3~4ポイント高いことです。しかし、これだけで出生差を説明するのは困難です。

この図表で分かること: 福岡市の住宅が安い、住宅が広い、通勤時間が短いという三つの単純仮説は支持されませんでした。

事業所と雇用の厚みの差

住宅や通勤だけでは差が見えにくかったため、令和3年経済センサス-活動調査から、両市の民営事業所数と従業者数を比較しました。

指標仙台市福岡市福岡市/仙台市
民営事業所数47,321事業所74,867事業所1.58倍
民営事業所従業者数568,963人923,521人1.62倍
情報通信業事業所数985事業所2,348事業所2.38倍
情報通信業従業者数20,539人54,119人2.63倍
学術研究・専門・技術サービス業事業所数3,058事業所5,690事業所1.86倍
同従業者数25,413人44,893人1.77倍

2020年国勢調査人口は、仙台市が1,096,704人、福岡市が1,612,392人で、福岡市は仙台市の約1.47倍です。これに対し、民営事業所数は約1.58倍、従業者数は約1.62倍でした。人口規模の違いを考慮しても、福岡市の雇用集積はやや厚いといえます。

特に差が大きいのは情報通信業です。従業者数は福岡市が仙台市の約2.63倍で、人口比を大きく上回ります。学術研究・専門・技術サービス業も、事業所数・従業者数とも福岡市の方が厚くなっています。

事業所数が多ければ出生率が上がるわけではありません。しかし、同じ地域内で転職先や職種を選びやすいことは、東京や大阪へ移らずに職業形成を続ける選択肢と関係する可能性があります。共働き世帯にとっては、夫婦双方の勤務先を地域内で見つけられるかという点も重要な視点といえそうです。

この図表で分かること: 人口差を上回る福岡市の民営事業所・雇用集積、とりわけ情報通信業の厚み

注意点: 事業所は企業数ではなく、支店や店舗を含む活動場所の単位です。令和3年調査は名簿整備方法が変更されているため、過去年との単純比較には注意が必要です。出典は仙台市統計書及び福岡市「令和3年経済センサス-活動調査」です。

ここで分析単位を「仙台市対福岡市」から、中心市と周辺自治体を含む広域的な生活圏へ変更しました。

仙塩・福岡広域における中心市の異なる動き

雇用、通勤、住宅供給、市街地形成は市町村境界を越えます。そこで、任意に近郊自治体を選ぶのではなく、都市計画法に基づく広域都市計画区域を比較単位としました。

仙塩広域都市計画区域は、仙台市、塩竈市、名取市、多賀城市、岩沼市、富谷市、松島町、七ヶ浜町、利府町、大和町、大衡村の11市町村です。

福岡広域都市計画区域は、福岡市、筑紫野市、春日市、大野城市、宗像市、太宰府市、古賀市、福津市、糸島市、那珂川市、篠栗町、志免町、新宮町、久山町、粕屋町の15市町です。

仙塩・福岡広域都市計画区域の25~39歳移動地図
区域区分25~39歳転入超過人口千人当たり0~4歳転入超過
仙塩広域仙台市-1,040人-5.39人-326人
仙塩広域周辺10市町村+581人+9.28人+319人
福岡広域福岡市+888人+2.91人-160人
福岡広域周辺14市町+1,540人+10.37人+377人
仙塩広域区域合計-459人-1.80人-7人
福岡広域区域合計+2,428人+5.36人+217人

人口千人当たりの値は、2024年の移動数を2020年国勢調査の25~39歳人口で割った参考値です。

意外だったのは、周辺自治体の吸収力には大きな差がなかったことです。25~39歳人口千人当たりでは、仙塩周辺がプラス9.28人、福岡周辺がプラス10.37人でした。

仙塩広域にも、富谷市、利府町、名取市など、家族形成期人口を受け止める強い郊外があります。

大きく異なるのは中心市です。仙台市は25~39歳が1,040人の純流出、福岡市は888人の純流入でした。

その結果、区域全体では仙塩広域が459人の純流出、福岡広域が2,428人の純流入となりました。

福岡市は進学・就職期の若者を集めるだけでなく、25~39歳でも純流入を維持し、その一部が福津市、糸島市、大野城市、篠栗町などへ住み替わっている可能性があります。

仙台市にも同じ郊外化は見られますが、周辺自治体の増加を合計しても、中心市から流出する家族形成期人口を埋め切れていません。

この図表で分かること: 仙塩広域の弱点は、家族向け郊外がないことではありません。中心市を含む区域全体で25~39歳を維持できていないことです。

考えられること: 福岡広域には、若者を中心市へ吸収し、家族形成期には中心市又は近郊へ住み替えながら、区域全体として人口を失いにくい二段階の受け皿がある可能性があります。

注意点: 2024年単年の移動です。また、都市計画区域が行政区域の一部だけの自治体でも、市町村全体の統計を使用しています。

安さではなく選択肢としての福岡の強み

2025年地価公示の住宅用途地点を使い、福岡・仙台と周辺自治体の住宅地価格、最寄り駅距離を比較しました。

自治体住宅地価格中央値100㎡相当額最寄り駅距離中央値1km以内の地点割合
福岡市179,000円/㎡1,790万円935m55.8%
大野城市132,000円/㎡1,320万円1,500m41.7%
篠栗町82,450円/㎡824.5万円860m66.7%
糸島市43,800円/㎡438万円700m66.7%
仙台市104,000円/㎡1,040万円1,300m41.3%
名取市93,300円/㎡933万円1,500m26.7%
富谷市76,000円/㎡760万円6,900m0.0%
利府町58,250円/㎡582.5万円2,450m20.0%

福岡市の住宅地価格中央値は17万9,000円/㎡で、仙台市の10万4,000円/㎡を約72%上回ります。福岡市中心部の住宅費が安いから家族形成しやすい、という説明はできません。

ただし、福岡広域では、福岡市から大野城市、篠栗町、糸島市などへ進むにつれて住宅地価格が低下します。篠栗町と糸島市の地価公示地点は、最寄り駅距離の中央値が1km以内です。

中心市で就職し、結婚や出産を機に、雇用への鉄道アクセスを保ったまま価格帯の異なる住宅地へ移る選択肢があります。

仙塩広域にも、富谷市や利府町など低価格帯の住宅地があります。ただし富谷市の公示地点は鉄道駅から遠く、道路交通への依存が強い構造です。名取市には鉄道アクセスがありますが、住宅地価格は仙台市との差が比較的小さくなっています。

ここで大切なのは、中心市の平均住宅費だけではありません。人生の段階や世帯所得に応じて、雇用へのアクセスを失わずに住宅を選び直せるかです。

類似する中心市依存度と異なる交通手段

2020年国勢調査から、近郊自治体に住む通勤・通学者のうち、中心市へ向かう割合を比較しました。

都市圏自治体中心市へ鉄道利用自家用車のみ
仙台名取市38.2%20.2%61.5%
仙台富谷市41.9%11.8%67.3%
仙台利府町38.5%14.8%69.6%
福岡大野城市34.2%31.9%39.9%
福岡糸島市40.0%23.0%53.6%
福岡篠栗町32.3%23.5%56.4%

中心市へ通勤・通学する割合は、いずれもおおむね3~4割で、決定的な差はありません。

一方、鉄道利用割合は福岡側が23~32%、仙台側が12~20%でした。自家用車だけを使う割合は、福岡側が40~56%、仙台側が61~70%です。

例えば、糸島市と富谷市では中心市へ向かう割合が40.0%と41.9%で似ています。しかし、鉄道利用は糸島市23.0%、富谷市11.8%です。

鉄道利用が出生率を高めるわけではありません。ただ、夫婦が別々の職場へ通う場合、自動車を2台保有する負担を抑えられる可能性があります。妊娠・育児期に運転を控える場合や、子どもが成長して自分で通学する場合にも、移動手段の選択肢が残ります。

この図表で分かること: 両広域の近郊は中心市との結び付きが強い一方、その結び付きを維持する交通手段に違いがあります。

考えられること: 福岡広域の特徴は、中心市が安いことではなく、複数方向の鉄道沿線に価格帯の異なる住宅地があり、地域内で住み替えを継続しやすいことかもしれません。

今回の分析で判明したこと・未解明のこと

今回の分析で確認できた主な事実を整理します。

  1. 都道府県平均の出生率は、1970年の東高西低から1975年には西高東低へ変わりました。
  2. 現在の西高東低は、東京都と沖縄県だけで生じているわけではありません。
  3. TFRとの関係が最も強かった婚姻指標は、25~29歳女性有配偶率でした。
  4. 東京都の低出生率は主に婚姻形成、宮城県や秋田県は主に婚姻後出生の低さと関係しています。
  5. 西日本でも若年女性の流出は大きく、「西日本は若者が残るから」という単純な説明は成立しません。
  6. 九州6県では福岡県が東京圏以上に人口を受け止めていますが、東北5県では東京圏への移動が宮城県向けを大きく上回ります。
  7. 九州6県では、1970年の大阪圏優位から1980年の福岡県優位へ移動先が転換しました。
  8. 1970~1975年に、出生率の東西逆転と、九州の移動先が東京圏優位から福岡県優位になる変化が重なりました。
  9. 福岡市は仙台市より住宅費や通勤時間で明瞭に有利ではありません。
  10. 福岡市の民営事業所・従業者の集積は人口差を上回り、情報通信業で特に大きな差があります。
  11. 仙塩広域と福岡広域の周辺自治体は、家族形成期人口の吸収力に大差がありません。差は中心市を含む区域全体の人口収支にあります。
  12. 福岡広域には、鉄道アクセスを保ちながら異なる価格帯の住宅地へ移れる選択肢が比較的多くあります。

一方、次のことはまだ分かりません。

  • 福岡の地域中枢性が出生率の東西逆転を直接起こしたか
  • 第1子、第2子、第3子のどこで東西差が大きくなるか
  • 1970年代の産業、所得、進学、女性就業の変化を考慮しても人口移動の関係が残るか
  • 親との近居が実際の育児支援につながっているか
  • 福岡広域の鉄道沿線住宅地が、家族形成期の転出抑制へどの程度寄与したか
  • 広島、札幌など他の地域中枢都市でも同じ関係が見られるか

政府統計・政府分析の読み方に関する注意点

政府統計の数値そのものが直ちに誤っているという意味ではありません。注意すべきなのは、統計の区分、母数、平均方法、時点、因果関係の読み方です。

都道府県平均は、中心市と郊外、市街地と農山村の違いを隠します。粗婚姻率は、若者が多く流入する東京都の人口構成を十分に表しません。単年の人口移動は、一時的な景気や災害の影響を含みます。

また、相関関係があっても、原因と結果の向きは分かりません。地域内に家族形成期人口が残るから出生率が高い可能性も、出生・子育てを選びやすい地域だから家族世帯が残る可能性もあります。

この記事では、複数の統計で同じ仮説と整合するかを確認し、反対方向の結果が出た場合も掲載しています。

地域づくりへの示唆

今回の結果から、出生率を高める単独の都市施策を示すことはできません。

ただし、若い人の人生設計を地域内で継続しやすくするための視点は得られます。

  • 進学・就職期の若者を地域中枢都市が受け止めること
  • 25~39歳になっても地域内に仕事と生活上の魅力があること
  • 結婚や出産に合わせ、中心市から近郊へ無理なく住み替えられること
  • 住み替え後も雇用、教育、医療、商業へアクセスできること
  • 親族との距離や地域内の人間関係を失わずに済むこと
  • 自動車だけに依存しない移動手段を選べること

重要なのは、若者を一時的に集めることだけではありません。単身期、結婚期、第1子、第2子、住宅取得という人生の変化を、同じ地域の中で受け止められるかです。

福岡広域で見られたのは、福岡市という強い中枢と、複数方向に広がる近郊住宅地との組合せです。九州内から福岡へ移り、福岡市又は周辺で働き、家族形成期には鉄道沿線を含む近郊へ住み替える経路が考えられます。

仙塩広域にも、富谷市、利府町、名取市などの受け皿があります。しかし、仙台市を含む区域全体では25~39歳が純流出となっており、東京圏の吸引力を強く受けています。

この違いは、個別の住宅団地や鉄道路線だけではなく、国土全体の都市階層と人口移動の中で考える必要があります。

現時点の見立て地域内で続く人生設計確認できた関係地域中枢・雇用・住み替え考えられること家族形成期の地域内定着未解明のこと出生行動までの因果関係
実線:統計と整合する関係 / 破線:今後の検証課題

地域中枢都市が進学・就職期の若者を受け止めます。雇用、住宅、交通、親族との距離を維持できれば、婚姻・出産期にも地域内に残りやすくなります。ただし、出生率までの経路には所得、雇用、教育、家族観、子育て支援など多くの要因が介在します。

まとめ

出生率の西高東低は、昔から変わらない地域性ではありません。約半世紀前には東高西低であり、1970年代後半から1980年代前半に位置関係が入れ替わりました。

現在の差に最も近い説明は、25~29歳までの婚姻形成と、婚姻後の出生行動です。しかし、その背景を地域の価値観だけで説明することはできません。

若者がどこへ進学・就職し、どこでパートナーと生活を始め、どのような住宅へ住み替え、親族や職場との関係を維持できるか。その一連の生活経路に、地域差があります。

九州では、東京まで行かなくても福岡で高度な雇用、教育、都市サービスを得られます。さらに福岡市の周辺には、雇用へのアクセスを保ちながら、価格帯の異なる住宅を選べる地域が広がっています。

東北では仙台が強い中枢都市である一方、東京圏への移動が宮城県向けを大きく上回ります。仙塩広域の周辺自治体は家族形成期人口を受け止めていますが、中心市を含む区域全体では流出を埋め切れていません。

そして興味深いことに、出生率が東高西低から西高東低へ変わった1970~1975年に、九州の主な移動先も東京圏優位から福岡県優位へ変わっていました。

この時期の一致だけで因果関係を断定することはできません。それでも、福岡のような地域中枢都市が、東京へ行かなくても人生設計を組み立てられる選択肢となり、西日本の出生率低下を相対的に緩めた可能性はあります。

出生率を直接操作しようとするのではなく、働く場所、住む場所、結婚後の住み替え、子育て、親族との距離を、一つの地域の中で無理なく選べる環境を整えることが重要といえそうです。

今回の分析は、その関係を証明する最終回答ではありません。東高西低から西高東低への変化を、人口移動と地域の生活構造から考えるための一つの手掛かりです。

主な出典

  • 厚生労働省「人口動態統計」都道府県別合計特殊出生率
  • 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」2024年及び長期時系列表
  • 総務省統計局「令和2年国勢調査」配偶関係、通勤・通学及び交通手段
  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
  • 内閣府「令和5年度年次経済財政報告」地域別の出生率要因分解
  • 国土交通省「国土数値情報 地価公示データ(2025年)」
  • 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」
  • 宮城県「仙塩広域都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」
  • 福岡県「福岡都市圏 都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」

集計上の注意

  • 合計特殊出生率の東・中央・西平均は都道府県の単純平均です。
  • TFRは期間合計特殊出生率であり、一人の女性が実際に生涯産む子どもの数を追跡した値ではありません。
  • 人口移動は日本人移動者を中心とする各統計表の定義に従っています。年次により公表表の仕様が異なる場合があります。
  • 2024年人口移動を2020年人口で割った値は参考率です。
  • 地価公示地点の中央値と駅距離は、全住宅地や全取引を示すものではありません。
  • 都市計画区域の比較では、市町村全体の統計を使用しています。
  • 記載した相関関係、同時期の変化、地域比較は、個人単位の因果関係を証明するものではありません。


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cat_yamaken
YamaKen都市と建築が好きな人
【資格】一級建築士、建築主事、宅建士、省エネ適合性判定員など /【実績・現在】元役人:土木行政・建築行政・都市計画行政・公共交通行政・まちづくりなどを10年以上経験 / 都市づくりコンサル、建築設計、執筆/