避難階とは?傾斜地での判断と確認申請図書の記載事項

上下の道路に接する傾斜地に建つコンクリート造建築物

確認申請の平面図では、1階を避難階として避難距離を記入している。ところが断面図を見ると、2階にも上側の地上へ直接出られる出口がある――。このような傾斜地の計画では、どの階を避難階として扱えばよいのでしょうか。

この記事は、確認申請、用途変更、既存建物の改修で防火避難規定を確認する建築士・設計者を主な読者としています。避難階の定義だけでなく、傾斜地の断面での判定、直通階段・屋外出口・敷地内通路のつなぎ方、建築基準法施行規則に基づく確認申請図書の記載事項まで整理します。

先に答えると、建築基準法の避難階は「直接地上へ通ずる出入口のある階」です。1階という名称、主玄関の位置、道路に面する階という呼び方では決まりません。したがって傾斜地では、1階と2階の両方が避難階になることがあります。

避難階の判定は、単なる階名の整理ではありません。直通階段の到達先、2以上の直通階段の要否、避難階での屋外出口までの歩行距離が、ここから連動して決まります。平面図へ避難距離を書き込む前に、まず断面図で地上との接点を確定させる必要があります。

この記事の要点

  • 避難階は、建築基準法施行令第13条第一号の「直接地上へ通ずる出入口のある階」です。
  • 1階、主玄関のある階、道路に面する階が自動的に避難階になるわけではありません。
  • 傾斜地では、異なる階にそれぞれ地上へ直接出られる出口があり、避難階が複数になることがあります。
  • 避難階を決めた後は、非避難階からの直通階段、避難階の屋外出口、出口から道等までの敷地内通路を一続きで確認します。
  • デッキ、連絡通路、屋外階段を介して地上へ出る案は、名称だけで判断せず、特定行政庁の取扱いを事前に確認します。


避難階の定義と傾斜地での判断

避難階の定義は、建築基準法施行令第13条第一号にあります。定義は驚くほど短く、次の一文です。

避難階(直接地上へ通ずる出入口のある階をいう。以下同じ。)

建築基準法施行令第13条第一号

ここで見るのは、階数の表示ではなく、その階に、建物の外へ出て地上へ直接つながる出入口があるかです。

「地上」は「道路」と同じ意味ではありません。建物から地上へ出た後、道または公園・広場その他の空地へ避難する屋外通路は、施行令第128条で別に確認します。つまり、避難計画は次の3区間に分けると混乱しません。

避難経路を3区間で確認

① 建物内
居室 → 廊下 → 直通階段
主に令120条・121条
② 避難階
階段・居室 → 屋外出口
令125条
③ 屋外
出口 → 敷地内通路 → 道等
令128条

避難階はゴールではありません。建物内から地上へ出て、さらに道等へ離脱できるところまでつながって、初めて避難経路になります。

平地の一般的な建物では、1階の出口がそのまま地上へ開くため、1階が避難階です。2階以上は、直通階段で1階へ下り、1階の屋外出口から外へ出ます。

一方、傾斜地では建物の上側と下側で地盤の高さが違います。たとえば、1階は下側の地上へ、2階は上側の地上へ直接出られる断面なら、1階と2階の両方が避難階になり得ます。

傾斜地に建つ3階建て建築物で、1階と2階の出口が地上へつながり、直通階段が各階床に着床する避難階断面図
傾斜地の避難階断面例。1FLと下側GL、2FLと上側GLを一致させ、各階床に着床する直通階段と屋外出口から地上への避難方向を示した概念図。

複数の避難階は、机上の特殊例ではありません。佐賀県が2026年4月に公表した建築基準法の取扱いでも、「大規模店舗で避難階が複数ある場合」の取扱いを掲載しています。東京都建築安全条例の見直しに対する意見募集でも、斜面地では避難階が1階でない場合や、複数の避難階を有する場合があるという論点が示されています。

ただし、「外へ出られる扉が2階にもある」だけでは判断できません。扉の外がバルコニーで、その先に屋外階段があるのか。地上と同じ高さの広いデッキへ出るのか。デッキが常時公開され、地上へ安全につながるのか。この違いを断面で見ます。

避難計画で連動する3つの確認

避難階は、単なる図面上の呼び名ではありません。防火避難規定の「どこから、どこまで測るか」を決める起点です。

確認する場面主な法令図面で追う経路よくある見落とし
非避難階から下りる・上る令120条・121条居室の各部分 → 直通階段 → 避難階または地上エレベーターやエスカレーターを避難経路に数える
避難階で建物外へ出る令125条階段または居室 → 屋外への出口避難階になった時点で歩行距離の確認を終える
敷地外へ離脱する令128条屋外出口 → 屋外通路 → 道・公園等設備、駐車、門扉、擁壁で必要な通路幅が消える

① 非避難階は直通階段まで

施行令第120条は、対象となる建築物について、居室の各部分から「避難階又は地上に通ずる直通階段」までの歩行距離を定めています。用途、主要構造部、内装によって数値が変わるため、先に避難階を確定しなければ、階段の終点を決められません。

また、施行令第121条の2以上の直通階段は、原則として「避難階以外の階」を対象にしています。傾斜地で2階も避難階と判断できるかどうかが、2階に対する規定の当て方へ影響する場合があります。だからこそ、平面図の階名だけで処理せず、断面から始めます。

② 避難階は屋外出口まで

避難階では、施行令第125条により、階段から屋外への出口、または避難上有効な開口部を有しない居室から屋外への出口までの歩行距離を確認します。「階段が避難階へ着いたので終わり」ではありません。

屋外出口の施錠装置は施行令第125条の2、劇場・集会場等の客用屋外出口の戸の開き方向は第125条第2項、大規模な物品販売店舗の出口幅は第125条第3項と、出口自体にも別の条件があります。

③ 屋外出口から道等までは敷地内通路

施行令第128条の対象建築物では、屋外への出口から道または公園・広場その他の空地へ通ずる敷地内通路を確保します。原則は幅員1.5m以上で、階数3以下かつ延べ面積200㎡未満の建築物には90cm以上となる緩和があります。

建物外に出た後の通路は、完成時だけでなく使用中も機能しなければなりません。室外機、ゴミ置場、駐輪、門扉、雪、植栽が通路を狭める計画は、図面上の線だけ残って実際には通れなくなります。

設計・確認申請の実務チェック

避難階を確認するとき、最初に平面図だけを眺めると、主玄関のある階へ引っ張られます。次の順番なら整理しやすいです。

  1. 配置図へ現況地盤、計画地盤、道路高さを記入
    道路が1本でも、敷地の奥で地盤が上がる建物があります。造成前後の高さを混ぜません。
  2. 断面図へ各階床、各屋外出口、出口前の地上高さを記入
    平面図の「±0」だけではなく、扉の外に段差、階段、スロープ、デッキがあるかを描きます。
  3. 地上へ直接出られる出口を色分け
    外気に開放された場所へ出ることと、地上へ直接通ずることを分けます。バルコニーや屋上へ出るだけなら、それだけで避難階とはいえません。
  4. 非避難階から直通階段までの経路を追う
    用途・規模に応じた歩行距離、2方向避難、重複区間、避難階段等の要否を確認します。
  5. 避難階の階段・居室から屋外出口までを追う
    令125条の歩行距離、出口幅、戸の開き方向、解錠方法を確認します。
  6. 屋外出口から道等までを追う
    通路幅、門扉、工作物、設備、駐車区画と干渉しないかを確認します。

確認申請図には「避難階」と書くだけでなく、判断できる高さを描きます。

地盤面、各階床、屋外出口、出口前の段差、道路までの経路が断面図と配置図でつながっていれば、審査側も同じ条件で確認できます。避難階の名称だけを書き、根拠となる断面がない図面は、あとで説明が増えます。

確認申請図書へ記載する事項

ここからは、設計者向けに申請図書の話へ進みます。建築基準法施行規則第1条の3第1項の表二は、法第35条や施行令第5章第2節・第6節が適用される建築物について、図書の種類と明示すべき事項を定めています。

避難階に関係する主な記載事項を抜き出すと、次のように整理できます。すべての建築物へ一律に求められる一覧ではなく、計画に適用される規定に応じて必要となる事項です。

図書施行規則上の主な明示事項避難階の判断に加えて描きたい情報
各階平面図階段の配置・構造、歩行距離、廊下幅、避難階段等へ通じる出入口幅、対象店舗の屋外出口幅、令118条の戸、令125条の2の施錠装置など避難階・非避難階の別、屋外出口、歩行距離の起終点、断面図との対応記号
二面以上の断面図直通階段の構造各階床レベル、現況・計画地盤、出口前の段差、上側・下側地上との接続
配置図令第5章第6節の対象建築物では、敷地内通路の幅員各屋外出口から道等までの経路、門扉・擁壁・設備・駐車区画との離隔

施行規則は「避難階と赤字で記入する」とまで書いているわけではありません。これは法令本文から一義的に決まる事項ではなく、申請図を読み違えさせないための実務上の工夫です。ただ、歩行距離や直通階段の到達先を審査する以上、どの階を避難階として設計したのかが図面間で追えなければなりません。平面図に避難階の別を示し、断面図でその根拠となる地盤・床・出口の高さを示す構成が分かりやすいです。

複数の避難階がある場合は、各階を個別に成立させるだけでは足りません。直通階段がどの避難階へ到達するのか、各避難階の屋外出口までの歩行距離をどこから測るのか、屋外出口から道等までの敷地内通路がそれぞれ確保されているかを、平面図・断面図・配置図で往復して確認します。

間違えやすい境界と既存建物

主玄関のある階と避難階は同じとは限らない

エントランスホール、受付、主玄関がある階は、利用上のメインフロアです。しかし、避難階は利用上の主従ではなく、地上へ直接通ずる出入口の有無で決まります。裏側のサービス出口が地上へ直接つながり、その階が避難階になることもあります。

1階なら必ず避難階、地階なら避難階ではない、とは言い切れない

「1階」「地階」と「避難階」は、判定の物差しが違います。階・地階は床と地盤面の関係などで判定し、避難階は地上へ直接通ずる出入口で判定します。傾斜地では、図面上の階名だけで結論を出さず、地盤面の算定と避難階の判定を分けて検討します。

デッキへ出られれば避難階、ではない

駅前ビルなどでは、ペデストリアンデッキと建物が同じ高さで接続します。ただし、デッキを「地上」と同じように扱えるかは、全国一律に自動で決まる話ではありません。

沖縄県の建築基準法取扱基準では、将来にわたり公共的に公開されること、常時出入りが自由であること、救出・消火活動や一時待避に使える広さ、地上へ安全に通ずる複数の階段・スロープ、接続階とのレベル差がほぼないことなどを条件として、ペデストリアンデッキを避難階として取り扱う例を示しています。

これは沖縄県の運用例です。他地域で同じ結論になるとは限りません。デッキの所有・管理、夜間閉鎖、将来の撤去可能性、消防活動、地上への経路を整理し、設計初期に特定行政庁へ相談します。

屋外階段で地上へ下りられる階は、そのまま避難階ではない

ある階の扉から屋外階段へ出て、階段を下りて地上へ到達する計画は、「その階から地上へ避難できる」計画ではあります。しかし、扉を出た位置が地上ではありません。地上へ直接通ずる出入口のある階なのか、屋外に設けた直通階段で避難階へ通ずる非避難階なのかを分けます。

エレベーターとエスカレーターは直通階段ではない

日常動線の中心がエレベーターやエスカレーターでも、施行令第120条・第121条でいう直通階段の代わりにはなりません。国土交通省の火災安全改修ガイドラインも、直通階段を各階から居室等を介さず地上または避難階へ直接通じるものと説明し、エスカレーター・エレベーターを含めていません。

用途変更・既存建物の設計で見る資料

既存建物では、確認申請図に「避難階」と書いてあっても、現況が同じとは限りません。外構のかさ上げ、増築、デッキの撤去、出口の閉鎖、門扉の施錠、駐車区画の追加によって、当初の避難経路が使えなくなっていることがあります。

資料・現地確認すること判断につなげる相手
確認申請図・計画変更図避難階表示、断面、直通階段、屋外出口、敷地内通路防火避難規定に詳しい建築士
検査済証・定期調査報告竣工時の適合確認、出口・階段・通路の指摘履歴建築士、特定行政庁の定期報告窓口
現地の出口と外構段差、施錠、物品、設備、駐車、地盤変更建築士、建物管理者
自治体の取扱基準・条例傾斜地、デッキ、複数避難階、用途ごとの上乗せ特定行政庁

用途変更や改修を設計する場合は、確認済証・検査済証の有無だけで終わらせず、確認図書に記載された避難階と現況を照合します。図面と現況が違う、避難階の出口が閉鎖されている、外構変更で敷地内通路が狭くなっている場合は、既存部分の調査範囲と是正方針を先に整理します。

直通階段が1つの既存建物については、現行法へ直ちに適合させる義務が生じない既存不適格建築物もあります。しかし、適法に存続できることと、火災時に十分安全であることは同じではありません。国土交通省は、階段の増設、避難上有効なバルコニー、退避区画、直通階段の防火・防煙区画化を示した火災安全改修ガイドラインを公表しています。用途変更や改修では、法適合だけでなく安全改善の余地まで確認したいところです。

相談先

  • 建築士:配置図・断面図・各階平面図をそろえ、避難階、直通階段、屋外出口、敷地内通路を一枚の経路として整理します。用途変更や既存建物なら、現況と確認図書の差も見ます。
  • 特定行政庁:傾斜地、デッキ、地上の捉え方、自治体条例・取扱基準など、地域の行政運用を確認します。相談時は口頭説明だけでなく、高さ入りの断面図を持参します。
  • 指定確認検査機関:確認申請を依頼する計画なら、申請図書としての整合と適合性を事前相談します。ただし、自治体固有の条例解釈や行政運用の最終判断が必要な論点は、特定行政庁にも確認します。
  • 消防本部・消防署:消防法上の避難器具、誘導灯、防火管理、消防活動上の扱いを確認します。建築基準法の避難階判定と消防法の判断を混ぜません。

相談用の断面には、各階床レベル、現況・計画地盤、道路、屋外出口、段差・階段・スロープ、デッキの管理境界を書きます。「2階も避難階にできますか」だけでなく、判断条件を図面で見せる方が話は早いです。

まとめ

  • 避難階は「直接地上へ通ずる出入口のある階」で、1階という名称では決まりません。
  • 傾斜地では、1階と2階など複数の避難階が成立する場合があります。
  • 避難階の判定は、地盤・床・出口の高さを描いた断面図から始めます。
  • 確認申請では、施行規則第1条の3の表二に基づく平面図・断面図・配置図の記載事項を、避難経路として相互に対応させます。
  • 非避難階から直通階段、避難階から屋外出口、出口から道等までを一続きで確認します。
  • デッキや屋外階段を介する計画は、特定行政庁の取扱いを早い段階で確認します。

避難階は短い定義ですが、建物の避難計画を切り替える境目です。平面図の「1F」に丸を付けて終わりにせず、断面図で地上との接点を拾う。この一手間で、直通階段から屋外通路までの法チェックが一本につながります。

参考資料と次に読む記事

関連記事

避難階が決まった後は、直通階段、避難階での屋外出口、出口から道等までの通路の順に検討をつなげます。次の記事は、いま確認したい論点から選んでください。

階段・出口・敷地内通路を続けて確認する

2以上の直通階段と戸の扱いを確認する

条文番号から引き直す

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YamaKen都市と建築が好きな人
【資格】一級建築士、建築主事、宅建士、省エネ適合性判定員など /【実績・現在】元役人:土木行政・建築行政・都市計画行政・公共交通行政・まちづくりなどを10年以上経験 / 都市づくりコンサル、建築設計、執筆、エンジニア/