結論:2026年6月15日施行の国土交通省告示第693号は、「3Dプリンターで作る建物」を一般的に認めたものではありません。制度化されたのは、造形したモルタル型枠の中へ鉄筋とコンクリートを納め、一体化と品質の反復再現を説明できる平屋・延べ面積200㎡以内・階高3.5m以下の壁式RC造です。告示が開いた道と、なお個別検証が残る範囲を分けて見る必要があります。
3Dプリンター住宅と聞くと、機械が建物を丸ごと印刷し、そのまま完成する様子を想像しやすいと思います。今回の告示が定めたのは、もう少し限定された構造です。
モルタルを積層して造るのは、鉄筋とコンクリートを納める型枠です。その型枠も構造耐力に働かせるため、形の自由度より先に、内部の鉄筋コンクリートと一体に働くか、同じ品質を現場で再現できるかが問われます。ここが、広告やニュースで見る「3Dプリンター建築」と、告示適合として扱える構造の大きな違いです。
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充填コンクリート
告示第693号で建てられる3Dプリンター建築
告示の正式名称は「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準等を定める件」です。長い名称ですが、押さえるところは次の4点です。
- 建設用3Dプリンターでモルタルを積層し、空洞のある型枠を造形する
- 空洞へ縦横に鉄筋を配置し、コンクリートを充填する
- 型枠と内部の鉄筋コンクリートを一体化し、耐力壁に用いる
- 令第80条の2第1号に基づく特殊な壁式鉄筋コンクリート造として扱う
一 木造、組積造、補強コンクリートブロック造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分で、特殊の構造方法によるもの
建築基準法施行令第80条の2第1号(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-22/法令基準日:2026-08-22)
告示693号は、この「特殊の構造方法」に対する技術基準です。つまり、3Dプリンターという機械の種類を認めたのではなく、特定の構造方法を安全基準の中へ組み込んだ、と読むべきです。
積層造形型枠を非構造の外装材・型枠として使うだけなら、この告示の対象外です。その場合も自由になるわけではなく、令第39条の脱落防止や令第82条の4の風圧に対する安全性などを、従来どおり検討します。
平屋・200㎡以内・階高3.5m以下という対象条件
| 項目 | 告示の基準 | 設計時の注意 |
|---|---|---|
| 階数 | 1 | 2階建ては仕様基準の対象外 |
| 延べ面積 | 200㎡以内 | 建築物全体または採用する建築物部分の計画条件を整理 |
| 階高 | 3.5m以下 | 床版上面から、壁と屋根版が接する最も低い部分の屋根版上面まで |
| 使用できる主な部分 | 耐力壁、基礎ばり、床版・屋根版、壁ばり | 柱には使用できない |
告示693号と確認審査特例の関係
告示693号の制定根拠は、施行令第80条の2第1号です。鉄筋コンクリート造の建築物または構造部分のうち「特殊の構造方法」に対する技術基準として定められました。一方、建築確認で審査を要しない規定は、法第6条の4と施行令第10条で別に定められています。
2 前項の規定により読み替えて適用される第六条第一項に規定する政令のうち建築基準法令の規定を定めるものにおいては、建築士の技術水準、建築物の敷地、構造及び用途その他の事情を勘案して、建築士及び建築物の区分に応じ、建築主事等の審査を要しないこととしても建築物の安全上、防火上及び衛生上支障がないと認められる規定を定めるものとする。
建築基準法第6条の4第2項(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-22/法令基準日:2026-08-22)
この委任を受けた施行令第10条第3号ロ・第4号ロは、令第80条の2の技術基準のうち、国土交通大臣が別に指定した基準だけを特例の対象にしています。第3号は一定の一戸建て住宅、第4号はそれ以外の建築物についての区分ですが、令第80条の2に関する限定は共通です。
ロ 次章(第一節の三、第三十二条及び第三十五条を除く。)、第三章(第八節を除き、第八十条の二にあつては国土交通大臣が定めた安全上必要な技術的基準のうちその指定する基準に係る部分に限る。)、第四章から第五章の二まで、第五章の四(第二節を除く。)及び第百四十四条の三の規定
建築基準法施行令第10条第3号ロ(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-22/法令基準日:2026-08-22)
ロ 次章(第二十条の三、第一節の三、第三十二条及び第三十五条を除く。)、第三章(第八節を除き、第八十条の二にあつては国土交通大臣が定めた安全上必要な技術的基準のうちその指定する基準に係る部分に限る。)、第百十九条、第五章の四(第百二十九条の二の四第一項第六号及び第七号並びに第二節を除く。)及び第百四十四条の三の規定
建築基準法施行令第10条第4号ロ(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-22/法令基準日:2026-08-22)
そして、ここでいう「国土交通大臣が指定する基準」を列挙するのが、平成19年国土交通省告示第1119号です。告示1119号が指定しているのは告示第1320号、告示第1026号、告示第1540号の各基準で、告示693号は含まれていません。したがって、確認対象となる計画では告示693号への適合確認を省略できません。国住指第150号の技術的助言も、この法令関係を明示して適合確認を求めています。
図面だけでは説明しきれない「一体化」
この工法で最も重要なのは、積層型枠と充填コンクリートの一体化です。国土技術政策総合研究所の解説案は、次の2点を確認する考え方を示しています。
- 耐力壁の終局強度が、同寸の通常の鉄筋コンクリート造と比べて同等以上であること
- 終局強度へ達する前に、積層造形型枠が充填コンクリートから剥離・脱落しないこと
計画する構造部材から、条件が厳しいものを含む試験体を選び、構造実験で確認することが基本で、第三者評価が原則とされています。一方、基準整備促進事業S46で一体化を確認済みの試験体と同じ仕様なら、改めて構造実験を行わなくてよいとされています。したがって、すべての計画で同じ試験を繰り返すのではなく、採用仕様がどの検証範囲に入るかを最初に整理する必要があります。
材料・施工記録の確認項目
- 型枠モルタル:設計基準強度を、充填コンクリートの設計基準強度以上とする
- 強度確認:同じ造形工程で作った供試体等の平均圧縮強度を、造形日から91日以内に確認する
- 充填コンクリート:設計基準強度18N/mm²以上
- 製造管理:印刷幅、速度、吐出量、積層厚さ、時間間隔、養生条件を記録する
- 施工管理:鉄筋間を通る骨材寸法、空洞への充填性、打設時の型枠安定性を確認する
- かぶり厚さ:令第79条のかぶりは、型枠を含めず、空洞へ充填するコンクリートで確保する
モルタル型枠は法第37条の指定建築材料には追加されていません。ただし「指定材料ではないから品質証明が不要」という意味ではありません。告示第693号が、材料、強度、欠陥、製造工程について固有の基準を置いています。
告示化された範囲と個別検証に残る判断
小規模の積層造形型枠一体型壁式RC造
一体化、造形条件、寸法、欠陥、施工の再現性
2階以上、200㎡超、柱への使用、異なる3D造形構造
- 法令上の答え:告示内の構造なら、従来の一般的な壁式RC造の規定と告示693号を組み合わせて適合を示す道があります。
- 設計・審査の扱い:「告示がある」ことと、採用するモルタル、造形ログ、断面、配筋、充填方法が検証済み条件の中に入ることは別の問題です。
- 見落としやすい点:プリンターの機種名や断面の見た目が同じでも、印刷速度、積層間隔、養生、空洞寸法、充填性が変われば品質の前提が変わります。
新しい技術を法令へ入れるとき、どこまでを仕様として共通化し、どこからを個別評価に残すかが問題になります。告示693号は、小規模の一構造に対して、その境界を初めて具体化したものと見ることができます。一方で、品質保証の中心は依然として、使うシステムの条件と現場記録にあります。
まとめ
告示第693号で、建設用3Dプリンターの建築利用は一歩進みました。しかし、認められたのは平屋・200㎡以内・階高3.5m以下の積層造形型枠一体型壁式RC造です。3D造形という外観ではなく、構造と品質の再現方法が告示の射程を決めます。
採用を検討する場合は、建物の形を決める前に、構造設計者、施工者、材料・造形システムの提供者、確認申請先で、実験・第三者評価・品質管理の資料を共有してください。「3Dプリンターで造れるか」ではなく、「告示の性能を同じ条件で再現し、記録できるか」が実務上の判断になります。
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一次資料:令和8年国土交通省告示第693号/国住指第150号(技術的助言)/国土技術政策総合研究所・告示解説案Ver.01/e-Gov意見募集結果














