小さな住宅や店舗の設計なら、契約書を交わさなくてもよい――。建築士法に「300㎡超」という線があるため、そう読まれてきた面があります。
ところが、2026年7月31日に公布された改正建築士法は、この面積の線を外しました。施行後は、建築士が行う設計・工事監理の受託契約について、建物の面積等を問わず契約書面の相互交付が必要になります。
ただし、公布と施行は同じ日ではありません。今回の契約関係の改正は、公布日から1年以内に政令で定める日から施行され、施行日前の契約は従前の扱いです。ここを飛ばして「もう全部義務化された」と読むのは早いです。
2026年8月28日時点で具体的な施行日は公表されていません。法律上の期限から見れば、遅くとも2027年7月末頃までには施行されます。前回、書面契約を300㎡超へ義務化した2014年改正は、2014年6月27日の公布からほぼ1年後の2015年6月25日に施行されました。今回も実務上は2027年春から夏を想定して準備するのが安全ですが、これは過去の施行実績を踏まえた見通しであり、国が示した正式な目標日ではありません。正式日は今後の施行期日政令で決まります。
こんにちは、Yamakenです。今回は、契約書を作るかどうかという事務手続だけではなく、なぜ300㎡という境界をなくすのか、見積書の努力義務が設計料の考え方をどこまで変えるのかを整理します。
現在の300㎡基準と改正後
2026年8月28日時点の現行法は、延べ面積300㎡を超える建築物の新築に係る契約を対象にしています。e-Gov法令APIで取得した現行条文は次のとおりです。
延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
建築士法第22条の3の3第1項(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-28/法令基準日:2026-08-28)
| 論点 | 2026年8月28日時点 | 改正法施行後 |
|---|---|---|
| 契約書面の相互交付 | 300㎡超の新築が中心 | 建築士が行う設計・工事監理の全契約 |
| 面積・工事種別 | 面積と新築等の範囲で判定 | 面積等を問わない |
| 見積書 | 新設される努力義務は未施行 | 報酬算定の根拠を示す見積書の作成に努力義務 |
| 施行 | 具体日未公表 | 遅くとも2027年7月末頃までの政令指定日 |
改正法は、第22条の3の3にある「延べ面積が300㎡を超える建築物の新築に係る」という文言を削ります。住宅の設計だから、改修だから、小規模だからという理由だけでは、書面の相互交付義務から外れなくなるわけです。
当事者による契約書の相互交付義務の対象となる契約の範囲について、現行の「延べ面積が300平方メートルを超える建築物の新築等に係る設計受託契約又は工事監理受託契約」から、その延べ面積等を問わず、建築士が行う設計又は工事監理に係る「設計受託契約又は工事監理受託契約」の全てに拡大する。
国土交通省「建築士法の一部を改正する法律 要綱」(令和8年法律第74号/2026年8月28日確認)
なお、将来施行条文は2026年8月28日時点のe-Gov法令APIでは現行本文として取得できないため、改正内容は国土交通省が公表した成立法、要綱、新旧対照表で照合しました。現行条文と将来の改正文を混ぜずに読む必要があります。
重要事項説明・契約書・24条の8書面の違い
実務で混ざりやすいのが、重要事項説明書と契約書です。今でも、建築士事務所が建築主と設計・工事監理契約を結ぼうとするときは、契約前に重要事項を記載した書面を交付して、建築士が説明しなければなりません。
建築士事務所の開設者は、設計受託契約又は工事監理受託契約を建築主と締結しようとするときは、あらかじめ、当該建築主に対し、管理建築士その他の当該建築士事務所に属する建築士をして、設計受託契約又は工事監理受託契約の内容及びその履行に関する次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない。
建築士法第24条の7第1項(e-Gov法令API Version 2取得:2026-08-28/法令基準日:2026-08-28)
| 書面 | 時点 | 中心となる役割 |
|---|---|---|
| 重要事項説明書 | 契約前 | 作成図書、監理方法、担当建築士、報酬、解除等を建築主へ説明 |
| 契約書面 | 契約締結時 | 当事者が合意内容を署名等の上で相互に保有 |
| 第24条の8の書面 | 契約締結後、遅滞なく | 建築士事務所の開設者が委託者へ法定事項を交付 |
改正の中心は、真ん中の契約書面を小規模案件まで広げることです。重要事項説明そのものを新設する改正ではありません。また、建築工事の請負契約、測量だけの委託、建築士が行う設計・工事監理に当たらない相談業務まで一律に同じ条文へ入るわけでもありません。契約名ではなく、委託の実質を分けておく必要があります。
見積書の努力義務が示すもの
もう一つの改正は、建築士事務所の開設者が、報酬の算定根拠を明らかにする見積書を作るよう努めることです。委託者と受託者にも、その内容等を考慮し、業務内容に応じた適正な代金で契約する努力義務が置かれます。
ここは「見積書を出せば適正価格になる」とまでは読めません。設計料は、床面積だけでなく、用途、構造、難易度、既存図書の有無、申請や協議、工事監理の頻度、追加変更の扱いで変わります。大切なのは、総額の安さよりも、何を何回、どこまで行う金額なのかが比較できることだと思います。
例えば同じ「住宅設計一式」でも、基本設計、実施設計、省エネ計算、構造検討、確認申請、現場確認、変更対応が含まれるかで意味は変わります。今回の改正は、設計料の下限を法定するものではありませんが、曖昧な一式表示を見直すきっかけにはなりそうです。
業務量の考え方を確認したい方は、国土交通省告示第8号の略算方法を使った「建築設計・工事監理の報酬計算ツール」も参考にしてください。実際の契約額を決めるものではなく、業務範囲を言葉にするための目安です。
施行までに確認したい境界
- 施行日:具体日は未公表。遅くとも2027年7月末頃までに政令で指定
- 契約日:改正規定は施行日以後に締結される契約へ適用
- 業務範囲:建築士が行う設計・工事監理と、それ以外の相談・調査・申請代理等を区分
- 変更契約:図書、期間、報酬、監理方法等の変更を口頭のまま残さない
- 電子交付:相手方の承諾と省令所定の方法を確認
既に小規模案件でも契約書を交わしている事務所にとって、形式だけなら大きな変化ではないかもしれません。むしろ問題は、追加変更や申請補正、現場確認の回数が契約の外へこぼれたときです。書面義務の対象拡大を「ハンコを増やす改正」で終わらせず、業務と責任の境界を双方で確認する機会にできるかが実務上のポイントです。
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まとめです。改正法施行後は、建築士が行う設計・工事監理の契約書面が面積等を問わず必要になります。見積書は努力義務ですが、報酬算定の根拠を示す方向が明確になりました。一方、2026年8月28日時点ではまだ現行の300㎡基準が施行中で、具体的な施行日は未公表です。遅くとも2027年7月末頃までという法定期限を見ながら、政令による正式日と省令・標準様式の更新を確認し、施行日前後の契約を混同しないようにしてください。














