建設技能者不足は1.2%だけ?建設労働需給調査が示す範囲

建設労働需給調査の1.2%が手持現場8職種の一日断面であり、対象外職種・地域・将来・雇用形態と賃金を別に見る図
1.2%は手持現場・8職種・1日の断面。対象外職種、地域と将来、雇用形態と賃金は別に確認します。

先に結論です。2026年7月の建設技能労働者の不足率は全国8職種で1.2%でした。しかし、この数字を「建設業の人手は1.2%しか足りない」と読むのは違います。

こんにちは。やまけんです。

「建設業は深刻な人手不足」と聞く一方で、国の調査を見ると不足率は1.2%。しかも、職人の年収は上がっている。ここだけを並べると、「本当に人手不足なの?」と思いますよね。

この違和感を解く鍵は、数字の大きさではなく誰を、どの場面で数えたのかです。1.2%は、調査に回答した企業が、すでに持っている現場で、ある1日に確保したかった8職種の一般工がどれだけ足りなかったかを示す月次の断面です。大工、屋根工、内装工、施工管理技術者、建築士、未熟練工などは、この8職種計に入っていません。

同じ調査でも、新規募集の不足率は5.1%、2か月後の確保見通しで「困難」「やや困難」とした回答は26.3%でした。数字が矛盾しているのではなく、測っている場面が違います。


1.2%という不足率の分母

国土交通省の建設労働需給調査は、建設業法上の許可を受けた資本金300万円以上の法人企業のうち、対象職種を直用する建設業者約3,000社を対象としています。2026年7月調査の有効回答は1,076店社、手持現場6,385箇所、対象となった一般工は13,846人でした。

不足率は、手持現場で「確保したかったができなかった労働者数」から「確保したが過剰となった労働者数」を引き、確保済みと確保できなかった人数の合計で割って求めます。全国で不足の現場と過剰の現場があれば、差し引かれます。

1.2%手持現場における8職種の現在不足率
5.1%最近1か月以内に確保した新規募集の不足率
26.3%9月の確保見通しを困難・やや困難とした割合

ここが大事です。1.2%は小さく見えますが、過不足が均された全国値です。しかも、新規に人を探す局面では5.1%、少し先の見通しでは4社に1社ほどが難しさを感じています。現場が回っている現在と、次の現場へ人を増やせるかは、同じではありません。

8職種の外側にいる技能者

調査対象は、型わく工(土木・建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木・建築)、電工、配管工の8職種です。一般工は、職長、世話役、熟練工、半熟練工などを指し、未熟練工、手元、見習いは含みません。

戸建住宅で読者がまず心配する大工は、8職種に入っていません。屋根、板金、内装、建具、塗装、防水、設備機器の据付、運転手、現場監督、設計・審査側の人員も別です。建設労働需給調査は重要ですが、住宅1棟を完成させる全職種の不足率ではありません。

さらに、調査はすでに受注し「手持現場」になっている工事が中心です。人を確保できないため受注を見送った工事、着工時期を遅らせた計画、設計や見積の段階で止まった案件は、そのまま同じ分母には現れません。

不足率は「建設業に何人足りないか」ではなく、「現在の手持現場で対象8職種をどれだけ確保できなかったか」です。
長期の担い手不足、住宅大工の減少、設計・施工管理の不足を判断するときは、別の統計と組み合わせる必要があります。

全国平均の内側にある職種差・地域差

2026年7月は、配管工が3.5%不足する一方、鉄筋工(建築)は0.3%の過剰でした。地域別では関東2.0%、四国1.6%、九州1.3%の不足に対し、東北は0.2%の過剰です。

見る単位2026年7月実務での読み方
8職種計・全国1.2%不足全国の月次方向をつかむ入口
配管工3.5%不足設備工程は全国平均より厳しい
鉄筋工(建築)0.3%過剰職種によって逆方向があり得る
関東2.0%不足地域の案件集中や供給条件を別途確認
東北0.2%過剰全国値だけで全地域を語れない

同じ1.2%でも、必要な職種と地域が合わなければ、その現場の工期は詰まります。全国平均が緩んだから、自分の地域の配管工や大工も確保しやすい、とは言えません。見積段階では、施工会社へ「人は足りていますか」と聞くだけでなく、支配しそうな職種と施工時期を具体的に確認する方が役に立ちます。

なお、残業・休日作業を強化している現場は手持現場の2.8%でした。理由は昼間時間帯の制約30.6%、前工程の遅延25.0%、天候不順9.7%、無理な受注6.9%などです。強化現場のすべてが人手不足で残業しているわけでもありません。

月次の不足率と構造的な担い手不足

国土交通省と厚生労働省の2026年度予算案資料では、建設技能者のうち60歳以上が約4分の1、29歳以下が約12%とされています。こちらは1日の現場需給ではなく、年齢構成という長期の供給力の問題です。

また、国交省の検討資料に掲載された住宅建設技能者数の予測では、2040年に約51万人、2020年比約63%まで減少し、とくに大工の減少が大きいというシナリオが示されています。これは確定した未来ではなく、前提を置いた推計です。それでも、大工が月次8職種調査の外にいることを考えると、1.2%と将来の危機感が両立する理由は分かります。

反対に、生産性向上、工場製作、工法の標準化、外国人材、就業継続、着工量の減少が進めば、技能者数が減っても不足が同じ割合で拡大するとは限りません。「人数が減るから必ず工期が延びる」と一方向に決めつけるのも避けるべきです。

賃金上昇と「誰の年収か」という範囲

人手不足の話をすると、「その分、職人の年収は上がっているのでは」と思う方もいるはずです。これは、雇用されている建設技能者の名目年収については事実です。国土交通省が賃金構造基本統計調査から作成した系列では、建設業の生産労働者の年収は2012年の359万円から、2024年443万円、2025年465万円へ上がりました。2025年は前年比4.9%増です。

ただし、この465万円は常用労働者10人以上の事業所を対象に、建設・採掘、生産工程、輸送・機械運転の各従事者を加重平均して推計した数字です。全産業労働者(非正規を除く)の545万円より約80万円低く、すべての職人が465万円を受け取っているという意味でもありません。

数字対象ここまで言えること
年収465万円10人以上事業所の建設技能者を推計した2025年値雇用技能者の名目年収は上昇傾向。ただし全産業平均との差は残る
月28万5,897円+特別給与38万2,266円常用労働者1~4人の建設業事業所。職人以外も含む単純年換算は約381万円。ただし職人だけの公式年収ではない
一人親方雇人のない自営業者雇用者向け賃金統計の対象外。請負売上と経費控除後の所得を分ける必要がある
CCUSレベル別年収技能・経験レベル別の標準値と目標値実績平均ではなく、適正な処遇の目安。支払いを義務付ける金額ではない

10人未満がまったく分からないわけではありません。5~9人事業所は毎月勤労統計の「5人以上」に含まれ、1~4人事業所は年1回の特別調査があります。2025年の1~4人事業所では、建設業の「きまって支給する現金給与額」は月28万5,897円、過去1年間の特別給与は38万2,266円でした。前者を12倍して後者を加えると約381万円ですが、これは筆者による単純換算です。建設業の常用労働者全体の数字であり、技能者だけの公式年収として465万円と並べることはできません。

さらに、一人親方は雇用者ではありません。受け取った請負代金から、材料、工具、車両、燃料、保険、外注費などを引いた後の所得と、会社員の税・社会保険料控除前の賃金は別物です。国土交通省も、一人親方と労働者は請負代金か賃金か、課税方法も異なるため、一概に比較できないと整理しています。職種・地域別に、経費控除後の所得を継続比較できる新しい全国統計は乏しく、賃上げが一人親方まで同じように届いたとは断定できません。

補足:CCUSとは

CCUSは「建設キャリアアップシステム」の略称です。技能者一人ひとりの資格や現場での就業履歴などを業界横断で登録・蓄積し、技能・経験に応じた評価や処遇へつなげるための仕組みです。

ただし、CCUSへ登録したことと、能力評価でレベル判定を受けたことは同じではありません。能力評価は、CCUSで把握できる就業日数、保有資格、職長・班長としての就業日数などを、職種ごとの認定基準に照らして評価する別の手続です。レベル1は初級技能者、レベル2は中堅技能者、レベル3は職長として現場に従事できる技能者、レベル4は高度なマネジメント能力を持つ技能者が目安です。

したがって、次に示す「CCUSレベル別年収」は、登録者全員の実際の平均年収でも、カードを持てば自動的に支払われる賃金でもありません。能力評価のレベルに対応させた処遇の目安です。

2026年4月改定のCCUSレベル別年収も、実際の平均年収と混同しない方がよい数字です。全国の全分野平均では、レベル1が395万円から535万円以上、レベル4が572万円から754万円以上と示されていますが、前者は標準値、後者は目標値です。資料自体に法的拘束力はなく、支払いを義務付けるものではないと明記されています。

「雇用技能者の名目年収は上がっている」は言えます。しかし、「職人全員の手取りが増えた」「一人親方も同じだけ豊かになった」とまでは言えません。
1.2%の不足率、465万円の年収、CCUSの目標年収は、対象も期間も意味も違う数字です。小さな不足率と賃金上昇が同時に現れても矛盾ではありません。

発注者・設計者が確認する指標

  • 現在の温度感:8職種計の不足率と新規募集不足率を分けて見る
  • 職種:工程を支配する大工、設備、型枠、鉄筋、内装などを個別に聞く
  • 地域:全国値ではなく施工地と協力会社の商圏で確認する
  • 時期:着工月だけでなく、上棟・設備・仕上げが集中する月を確認する
  • 見積:人員不足を単価上昇の唯一原因とせず、資材、仕様、規模、受注量も分ける
  • 賃金:会社員の年収、小規模事業所の給与、一人親方の請負所得、CCUS目標値を混同しない
  • 長期:年齢構成、入職・離職、生産性、住宅着工量を一緒に追う

ここまで見てくると、建設労働需給調査の1.2%を否定する必要はありません。むしろ、現場の短期需給を見る数字として、正しい場所へ戻せば役に立ちます。ただし、その小ささだけで「人手不足は大げさ」と結論づけることも、逆に長期推計だけで「もう建てられない」と煽ることもできません。

私が気になるのは、小さな全国値だけが独り歩きして、目の前の現場で必要な職種や、一人親方まで含めた処遇の違いが見えなくなることです。手持現場の一日、8職種、一般工、全国平均という範囲を外さずに読む。そのうえで、新規募集、数か月先の見通し、対象外職種、地域差、年齢構成、雇用形態を重ねる。発注時期や工期を考える材料になるのは、1つの大きな数字より、この違いの方だと思います。

一次資料:国土交通省・建設労働需給調査結果(2026年7月調査)国土交通省・建設労働需給調査の概要国土交通省・厚生労働省・建設業の人材確保・育成に向けて(2026年度予算案)国土交通省掲載資料・住宅建設技能者数の予測国土交通省・建設技能者の賃金の推移厚生労働省・2025年毎月勤労統計特別調査国土交通省・CCUS能力評価制度国土交通省・建設技能者の能力評価制度における申請の手引き国土交通省・2026年4月改定CCUSレベル別年収国土交通省・一人親方と労働者の所得比較上の注意


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それでは以上となります。最後までご覧いただきありがとうございました。


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YamaKen都市と建築が好きな人
【資格】一級建築士、建築主事、宅建士、省エネ適合性判定員など /【実績・現在】元役人:土木行政・建築行政・都市計画行政・公共交通行政・まちづくりなどを10年以上経験 / 都市づくりコンサル、建築設計、執筆、エンジニア/