平成31年4月26日から開始されたパブコメからの解説です。
こんにちは! 建築士のやまけんです!!
用途変更においては「階段」の規定が遡及適用されるため、用途変更時に階段の改修を行う必要があったわけですが、今回の改正により小規模建築物については緩和となる方向のようです。
それでは、用途変更における階段の遡及規定と合わせて解説していきます。
用途変更において階段が遡及適用される理由
もちろん、建築基準法第87条の規定です。
そのうち、既存不適格建築物については建築基準法第87条第3項に規定されています。
[建築基準法第87条第3項]
第3条第2項の規定により第27条、第28条第1項若しくは第3項、第29条、第30条、第35条から第35条の3まで、第36条中第28条第1項若しくは第35条に関する部分、第48条第1項から第14項まで若しくは第51条の規定又は第39条第2項、第40条、第43条第3項、第43条の2、第49条から第50条まで、第68条の2第1項若しくは第68条の9第1項の規定に基づく条例の規定の適用を受けない建築物の用途を変更する場合においては、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これらの規定を準用する。
一 増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替をする場合
二 当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものであつて、かつ、建築物の修繕若しくは模様替をしない場合又はその修繕若しくは模様替が大規模でない場合
三 第48条第1項から第14項までの規定に関しては、用途の変更が政令で定める範囲内である場合注)法律は、平成31年4月27日現在のもの。
法第36条に「階段の規定」が含まれており、法第35条に関する部分には、「階段」が規定されています。
そのため、既存建築物の用途を変更する場合(建築確認申請の有無は関係なく)には、「階段」の規定を準用することとなるため、建築物の用途や規模等によっては、階段の改修が必要になります。
令第23条(階段)の規定
建築基準法施行令第23条第1項のまとめ(概要版)
階段の種別 | 階段・踊場の幅 | 蹴上 | 踏面 | |
---|---|---|---|---|
⑴ | 小学校 | 140㎝以上 | 16㎝以下 | 26㎝以上 |
⑵ | 中学校、高等学校、中等教育学校、物品販売業(店舗面積1,500㎡超)、劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 | 140㎝以上 | 18㎝以下 | 26㎝以上 |
⑶ | 直上階の居室の床面積の合計が200㎡超の地上階、居室の床面積の合計が100㎡超の地階 | 120㎝以上 | 20㎝以下 | 24㎝以上 |
⑷ | 上記⑴〜⑶以外 | 75㎝以上 | 22㎝以下 | 21㎝以上 |
注1)令第120条・121条の規定による直通階段(屋外階段)の幅は90㎝以上
注2)注1以外のその他の階段の幅は60㎝以上
注3)住宅の階段(共同住宅を除く)の蹴上は23㎝以下、踏面は15㎝以上
例えば、床面積150㎡の住宅を住宅以外の用途(事務所)に変更する場合は、蹴上を1㎝短く、踏面を6㎝長くする必要があります。
ただし、令第23条第4項の規定による大臣告示に適合させれば、この表の規定を適用させないことができます(ただし、告示の内容は限定的な階段にとどまっています)。
告示階段とは
告示階段は、令第23条第4項に規定されています。
[建築基準法施行令第23条第4項]
第1項の規定は、同項の規定に適合する階段と同等以上に昇降を安全に行うことができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いる階段については、適用しない。
告示とは、「平成26年6月27日国土交通省告示第709号 建築基準法施行令第23条第1項の規定に適合する階段と同等以上に昇降を安全に行うことができる階段の構造方法を定める件」です。
現時点で最終改正は、平成29年9月26日ですが、この規定が、令和元年6月施行の平成30年建築基準法の改正に合わせて緩和されるようです。
今回の記事の本題となる部分です。
改正される階段告示の内容
パブリックコメント(外部リンク)では、改正の概要を掲載しているので、まずは背景からご覧ください。
重要かなと思われる部分に下線を引いておきました。
[建築基準法施行令第二十三条第一項の規定に適合する階段と同等以上に昇降を安全に行うことができる階段の構造方法を定める件の一部を改正する告示案に関する意見募集について(平成31年4月 国土交通省)より]
建築基準法施行令(昭和 25 年政令第 338 号。以下「令」という。)第23条において、建築物の用途や規模に応じた階段の寸法が定められているところ、近年、既存建築物の用途を変更して活用するニーズが拡大しており、このような計画に際し、変更後の用途に厳しい階段の寸法が適用されることにより、大規模な改修が必要となるケースがある。このような実情を踏まえ、既存ストックの有効活用の促進を図ることを目的に、日常安全性が確かめられた一定の階段について、寸法の基準を合理化するための所要の改正を行う。
では、改正の概要です。
次の⑴及び⑵が告示に追加されます。
(1) 階数が2以下で延べ面積が200m²未満の建築物における階段で、寸法が幅75cm以上、蹴上げ 23cm 以下、踏面 15cm 以上であり、以下の1~3の措置を講じたもの
1 階段の両側に手すりを設けたものであること。
2 踏面の表面を粗面とし、又は滑りにくい材料で仕上げたものであること。
3 階段又はその近くに、見やすい方法で、十分に注意して昇降を行う必要がある旨を表示したものであること。
→⑴を整理すると、次のような表になります。
対象となる建築物と階段 | 手すり | 踏面 | 表示 |
---|---|---|---|
・2階以下、延べ面積200㎡未満
・階段幅75㎝以上、蹴上23㎝以下、踏面15㎝以上(つまり住宅階段の基準) |
階段両側に手すりを設置 | 粗面又は滑りにくい材料で仕上げる | 階段又は近くに、「十分に注意して昇降を必要がある旨」の表示 |
これまでは、令第23条第1項の表⑷に適合させる場合の告示緩和でも、踏面は19㎝以上必要だったので、それが住宅の基準と同じで了となるのであれば、用途変更しやすくなりますね。(ただし、200㎡未満の小規模建築物に限定されていることに留意!)
なお、床面積が200㎡を超えない場合、用途変更確認申請が不要となる改正が今年の6月に行われますが、申請が不要になるだけで、法適合義務はありますから注意してくださいね。
(2) 令第23条第1項の表の(二)に掲げる階段で、寸法が幅140cm以上、蹴上げ20cm以下、踏面 24cm 以上であり、上記の1及び2の措置を講じたもの
改正前の告示と比較すると、蹴上及び踏面でそれぞれ2㎝の緩和となるようです。
用途変更するケースで考えると、令第23条第1項の表⑶に適合していた建築物で、表⑵の用途に変更する場合に使用できるかなと思いますが、表⑵に適合させる建築物自体が少ないので、あまり馴染みは少なそうですね。
令和元年6月24日
最終改正告示が国土交通省より公表されています。
おわりに
今回の告示の改正は、既存ストックの活用という社会的な流れに対応したものですが、今後も過度に負担にならないように経済合理性の高い法改正は順次進めていってほしいですね。
なお、今回の用途変更に係る一連の法改正は建築士に相談しないでも対応可能な部分が多いため、法律の知識に乏しい方が施工して違反建築物になってしまわないよう、できる限り建築士に相談して欲しいものです。
それでは最後までご覧いただきありがとうございました。
*タイトル写真(David MarkによるPixabayからの画像)