全国の自治体が観光交流人口の増加を図るため、既存観光資源のブラッシュアップや様々かつユニークな戦略により、国内外からの集客に取り組んでおり、その結果、国内の観光旅行者数も増加傾向となっています。
そのような中、今後も引き続き増加していく宿泊客数に対応していくため、国では都市計画において規定する容積率を緩和して「ホテル・旅館」の整備が促進されるよう指針(正式には通知)を示しています。
こんにちは!!建築士のやまけんです!
今回は、タイトルにもある通り、ホテル・旅館の容積率緩和について解説していきたいと思います。
なお、本記事については、主に民間事業者の方が旅館業で日本を盛り上げていこうと意識できるような視点で書いています。
目次
国内宿泊客数の伸びを知る
こちらは観光庁が公表している平成25年ー平成29年の宿泊客数の推移です。
年 | 延べ宿泊者数 (単位:百万人泊) |
うち外国人 (単位:百万人泊) |
---|---|---|
平成25年 | 465.9 | 33.5 |
平成26年 | 473.5 | 44.8 |
平成27年 | 504.1 | 65.6 |
平成28年 | 492.5 | 69.4 |
平成29年 | 509.6 | 79.7 |
※出典:宿泊旅行統計調査(平成30年7月31日)観光庁
こちらを見ると分かることがあります。
○外国人の宿泊者数が一貫して上昇しているということ。
なお、日本人の宿泊者数については、年間約430百万人泊で推移しているので、外国人の旅行者数が観光業全体を押し上げている感じです。
世界の人口は増加し続けているので、日本全体が魅力的ある限り、誰がどう考えも観光客数は増加することは明白です。
また、ホテル・旅館の稼働率をご覧ください。
※出典:宿泊旅行統計調査(平成30年7月31日)観光庁
稼働率も年々上昇しているんですよね。
平成25年をベースとすると、全体的に5ポイントも上昇しているので、すごい伸び率です。
さらに、シティホテルやビジネスホテルの稼働率は一貫して高いですよね。
平成25年を基準とすると、平成29年と比較して少なくとも5ポイント分について市場が押し上げられているので、単純に考えて、この5ポイント分の増加分のパイを取りに行くことが可能だったわけです。
とはいえ、ホテル・旅館は、建設されれば宿泊されるわけではなく、食事をはじめとするサービスによるところが大きいので、単純思考は浅はかでもあります。
では、一旦市場に関しての考察はここまでにして、都市計画制度について解説していきます。
なお、観光統計について、もっと詳しく知りたい方はご自身でお調べください。
※今後、折をみて観光統計についての考察記事をアップしていきたいと思います。
都市計画制度による容積率の緩和の概要
※出典:宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の創設に係る通知を発出(平成28年6月13日都市局都市計画課)から引用
容積率緩和のパターン | 都市計画制度 | 緩和の考え方 |
---|---|---|
誘導すべき区域を事前に定めて面的に緩和 | 高度利用型地区計画 | 指定容積率の1.5倍以下、かつ+300% |
個々のプロジェクト単位で緩和 | 再開発等促進区 | |
高度利用地区 | ||
特定街区 |
では、次から詳しく解説していきます。
新築だけが対象?
国からの通知文書(宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度の創設について「国都第34−1号 平成28年6月13日」)によると、「既存の宿泊施設の増築・改築・用途変更」についても、適用が可能である旨が明文化されています。
よって、新築のみならず、増築、改築、用途変更に適用されます。
どういった地域で活用?
○都市の中心部や交通結節点となっている地域など、観光まちづくりの拠点となる地域
▶︎都市の主要駅周辺など
○地域の観光資源等の賦存状況から見て、観光周遊や滞在の拠点となる地域
▶︎多方面の観光地にアクセスしやすい観光・滞在拠点地域など
○現に宿泊施設が集積し、それらの増進や更新を図るべき地域
▶︎都市の主要駅周辺や市街地内の温泉街など
大規模ホテルだけ対象?
国の通知によると、都市に誘導すべき宿泊施設は、必ずしも大規模な開発を伴うものに限らず、ビジネスホテル等の比較的小規模な宿泊施設である場合も想定されるとされています。
よって、大規模なホテルだけではなく、小規模なビジネスホテルや旅館などが容積率緩和の対象になりえることが考えられます。
容積率緩和の考え方
宿泊施設部分(一般の利用に供する集会場、店舗、飲食店等は除く)の床面積の合計の当該建築物の延べ面積に対する割合に応じて用途地域に関する都市計画に定められた建築物の容積率の最高限度の1.5倍以下、かつ+300%を上限して緩和することが可能となっています。
(例)
ホテルの用途部分が5割、それ以外が5割で指定容積率が400%の場合
▶︎400% * 0.5 * 1.5 * =300%+200% →500%
ホテルの用途部分が10割、指定容積率が400%
▶︎400% * 1.5 =600%
ホテルの用途部分が10割、指定容積率が800%
▶︎800% * 1.5 =1400%→1100%
その他の制限など
容積率の最高限度のほか、容積率の最低限度、建蔽率の最高限度、建築面積の最低限度、壁面の位置の制限などが指定されると考えておきましょう。
すでに取り組んでいる自治体では「緩和の方針」が定められている
仙台市やさいたま市、名古屋市などで既に方針が定められており、今後も大都市や観光交流人口が多い地域で緩和に向けた取り組みが進められるものと想定されます。
地方都市でも緩和の意味はあるの?
結論から言うとあります。
当然ながら商業地域などの市街地部に限定して適用されるべきだとは思いますが、観光交流人口が伸びている地域では当然ながらホテル・旅館重要は引き続き伸びていくことが考えられますので容積率の緩和を図って高い稼働率を維持していけることが現時点では可能かと思います。
ただし、観光交流人口の伸びておらず、ホテルの倒産も進んでいるような地域では慎重に判断していくべきです。ホテルや旅館の魅力に絶対的な自信がある場合は別ですが、観光やビジネス需要が限定的である場合には、パイの取り合いに終わってしまう可能性もなくはないです。
とはいえ、否定的なことも思いつつも、現代では、旧態である観光地に付属するホテル・旅館ではなく、「食事が美味しいホテルに泊まりたい」や「サービスが充実しているホテル・旅館に泊まりたい」などの、「このホテル・旅館に泊まる」こと自体が目的化されているケースも多いので、商圏が広い魅力を有していれば、供給量を増やしても需要はついてくるはずです。
最後に
今回は簡単に「ホテル・旅館に関する容積率の緩和」について解説しました。
容積率の緩和については、自治体との十分な協議時間が必要となるほか、実務上は街並みとの調和や市街地環境の改善などの地域貢献に資することが都市計画の要件となってたりするので、まずは企業として都市づくりの一躍を担う意識改革が必要となるのかなと感じているところです。
ホテル・旅館は第三次産業を牽引する産業の一つなので、今後の成長に期待ですね。
*タイトル写真
Michael SiebertによるPixabayからの画像