今回は以前書いた記事の詳細版です。
こんにちは!建築士のやまけんです^ ^
ということで、今回は「建築基準法で規定される擁壁の構造計算」を解説していきます。
この記事でわかる内容
○建築基準法で定める擁壁の構造計算基準
目次
擁壁の構造計算基準
はじめに、、、
擁壁の構造計算基準は、次の告示に規定されています。
▪️平成12年5月31日建設省告示第1449号
「煙突、鉄筋コンクリート造の柱等、広告塔又は高架水槽及び擁壁並びに乗用エレベーター又はエスカレーターの構造計算を改める件」
上記の告示のうち、第3に規定されており、次のように規定されています。
[H12建告1449第3]
令第138条第1項に規定する工作物のうち同項第五号に掲げる擁壁の構造計算の基準は、宅地造成等規制法施行令(昭和37年政令第16号)第7条に定めるととおりとする。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合又は実験その他の特別な研究による場合にあっては、この限りではない。
一 宅地造成等規制法施行令第6条第1項各号のいずれかに該当するがけ面に設ける擁壁
二 土質試験等に基づき地盤の安定計算をした結果がけの安全を保つために擁壁の設置が必要でないことが確かめられたがけ面に設ける擁壁
三 宅地造成等規制法施行令第8条に定める練積み造の擁壁の構造方法に適合する擁壁
四 宅地造成等規制法施行令第14条の規定に基づき、同令第6条第1項第二号及び第7条から第10条までの規定による擁壁と同等以上の効力があると国土交通大臣が認める擁壁
この法令をまとると、「擁壁」の構造計算の基準については、宅造法施行令第7条に規定されていますが、次の擁壁については宅造法施行令第7条は適用しないこととなります。
☑️宅造法施行令第6条第1項各号のがけ面に設ける擁壁
がけの勾配と土質、高さに応じて定められている規定
☑️安定計算により擁壁の設置が不要のがけ面に設ける擁壁
円弧滑り等によるがけの安定計算
☑️宅造法施行令第8条の構造方法に適合する擁壁
練積み造の擁壁
☑️国土交通大臣認定品
上記の上から3つについては、がけ下やがけ上に建築する際に使用することが多いので、時間があるときは法令集だったり、「宅地防災マニュアル」などを確認しておくといいですね。
なお、宅地防災マニュアルは解説版を読むようにしましょう!!
宅造法施行令第7条の規定
宅造法施行令第7条は、第1項から第3項まで規定されており、構造計算の方法等について詳細に記載されています。では、第1項から順をおって解説していきます。
第1項(構造計算により確認する内容)
鉄筋コンクリート造(無筋コンクリート造を含む)の擁壁の構造に求める水準が定められている。
一号:土圧・水圧・自重によって擁壁が破壊されないこと。
二号:土圧・水圧・自重によって擁壁が転倒しないこと。
三号:土圧・水圧・自重によって擁壁の基礎が滑らないこと。
四号:土圧・水圧・自重によって擁壁が沈下しないこと。
まとめると、構造計算により「破壊」「転倒」「滑動」「沈下」の4つに対して安全性を確かめる必要がある。では、構造計算の方法ですが、第2項に定められています。
第2項(構造計算)・第3項(構造計算に用いる数値)
土圧・水圧・自重
土圧・水圧・自重は、原則として実況に応じて計算された数値とされています。
よって、基本的には地盤調査を行ない、土質の状況を把握します。
ただし、盛土の土圧は、令別表第2の単位体積重量や土圧係数を用いることが可能です。
土質 | 単位体積重量(1㎥) | 土圧係数 |
---|---|---|
砂利又は砂 | 1.8t | 0.35 |
砂質土 | 1.7t | 0.40 |
シルト、粘土又はそれらを多量に含む土 | 1.6t | 0.50 |
破壊
土圧・水圧・自重によって擁壁の各部に生ずる応力度が、擁壁の材料である鋼材又はコンクリートの許容応力度を超えないことを確かめること。
*許容応力度とは、建築基準法施行令第89条〜94条に規定されているものです。なお、擁壁の構造計算においては、次の施行令を使用します。
・令第90条(表1を除く):鋼材等
・令第91条:コンクリート
・令第93条:地盤及び基礎ぐい
・令第94条:補則規定(国土交通大臣告示)
転倒
土圧・水圧・自重による擁壁の転倒モーメントが擁壁の安定モーメントの3分の2以下であることを確かめること。
*転倒モーメントとは、その名のとおり擁壁を転倒させようとする力(土圧によって横向きにかかる力とイメージするといいのかも)のこと。でもって、安定モーメントは自重による下向きに働く力です。
当然、「転倒モーメント<安定モーメント」であれば構造物は転倒しません。
法律では、その安全率を1.5に設定しています。
滑動
土圧・水圧・自重による擁壁の基礎の滑り出す力が擁壁の基礎の地盤に対する最大摩擦抵抗力その他の抵抗力の3分の2以下であることを確かめること。
*滑動に対する安全率は1.5に設定されています。
沈下
土圧・水圧・自重によって擁壁の地盤に生ずる応力度が当該地盤の許容応力度を超えないことを確かめること。ただし、基礎ぐいを用いた場合においては、土圧等によって基礎ぐいに生ずる応力が基礎ぐいの許容支持力を超えないことを確かめること。
*単純に沈下しない地盤にしなさいとするものです。なお、最大摩擦抵抗力原則として実況に応じて計算された数値とされています。よって、基本的には地盤調査を行ない、土質の状況を把握します。
ただし、地盤の土質に応じ令別表第3の摩擦係数を用いることも可能となっています。
土質 | 摩擦係数 |
---|---|
岩、岩屑、砂利又は砂 | 0.5 |
砂質土 | 0.4 |
シルト、粘土又はそれらを多量に含む土(擁壁の基礎底面から少なくとも15㎝までの深さの土を砂利又は砂に置き換えた場合に限る。) | 0.3 |
構造計算に必要な知識
建築士の方でも、擁壁の構造計算は苦手と感じる方も少なからずいるかなと思います。
そのような方は、基本的に擁壁の設置が必要となる宅地の設計は行わないことが重要です。
これから人口減少社会に到来するのに、需要が低くなる安全性の低い宅地をあえて設計する必要はありませんからね。それでも設計しなくてはいけない状況であれば、外部委託しましょう。
外部委託する資金が少ない場合には、架空の設定で設計してみるといいですよ。
その際には先人達の知恵が蓄積されている書籍を活用しましょう!!
最近の書籍でわかりやすいのがあったので紹介しておきます。
ちなみこちらの書籍のポイントは、「建築士のための」としているところです。
よく土木用の擁壁で設計してしまう方がいますけど、宅地造成用は道路工とは厳密には違いますからね。
注意しましょう。
以前書いた記事とは次の内容です。→『建築基準法でいう擁壁の規定は?』
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