今回は「多極ネットワーク型コンパクトシティ」の形成を進める立地適正化計画(都市再生特別措置法第81条に規定)に関連するちょっとマニアックな話です。
こんにちは!建築士のYAMAKEN(やまけん)です。
最近、耳にすることが多くなった「立地適正化計画」ですが、簡単に言うと、これから地方都市では、急速に人口減少や超高齢化社会が進むので、これまで人口密度に支えられてきた医療、商業、福祉等の日常生活サービス施設が維持できなくなる可能性があるから、今のうちに人口密度を維持するエリアを定めておいて、将来人口が減っても、ある程度の人口密度は維持できるようにしようとするものです。
つまり、冒頭でも言ったようにコンパクトシティの形成を進めるものです。
ちなみに以前(10〜20年前)からコンパクトシティという概念はありましたが、これまでと異なる点は、”ネットワーク”という単語が入っていることです。
ようは一箇所に人口や都市機能を集約させようとするのではなくて、複数の拠点を設けて、それらを公共交通ネットワークで結ぼうとする考えが加えられています。
それでは、本日のタイトルにある内容「立地適正化計画(立適)は都市計画マスタープラン(都市マス)の一部とみなされる」について解説していきます。
目次
「立地適正化計画」が都市マスの一部とみなされる理由
はじめに正解をお伝えします。
[都市再生特別措置法第82条]
前条第2項第一号に掲げる事項が記載された立地適正化計画が同条第18項(同条第19項において準用する場合を含む。)の規定により公表されたときは、当該事項は、都市計画法第18条の2第1項の規定により定められた市町村の都市計画に関する基本的な方針の一部とみなす。
都市再生特別措置法第81条第2項とは、市町村が立地適正化計画を作成した時は遅滞なく公表するという規定と都道府県知事に送付しなさいとする規定が書かれています。
都市計画法第18条の2第1項の規定が、都市計画マスタープランの規定となります。
(余談記事)
お時間がある方は次の記事をお読みくださいませ。結構面白いと思います。笑
それではここから、肝心の都市再生特別措置法第81条第2項第一号について解説していきます。
前条第2項第一号(都市再生特別措置法第81条第2項第一号)
[都市再生特別措置法第81条第2項第一号]
2 立地適正化計画には、その区域を記載するほか、おおむね次に掲げる事項を記載するものとする。
一 住宅及び都市機能増進施設の立地の適正化に関する基本的な方針
・住宅とは、一戸建て住宅や長屋、共同住宅のことです。
・都市機能増進施設とは、都市再生特別措置法第81条第1項に規定されており、「医療施設、福祉施設、商業施設その他の都市の居住者の共同の福祉又は利便のため必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するものをいう」とされています。
では、”立地の適正化に関する基本的な方針”とは何かですが、都市計画運用指針に規定されています。
立地の適正化に関する基本的な方針
都市計画運用指針に次のように考え方が示めされています。
立地適正化計画を策定する際は、当該市町村の現状の把握・分析を行い、課題を整理することがまず必要となる。その上で、中長期的に都市の生活を支えることが可能となるようなまちづくりの理念や目標、目指すべき都市像を設定することが必要である。あわせて、その実現のための主要課題を整理し、一定の人口密度の維持や、生活サービス機能の計画的配置及び公共交通の充実のための施策を実現するうえでの基本的な方向性を記載することが考えられる。
つまり、「まちづくりの方針」、「目指すべき都市の骨格構造(将来都市像)」、「誘導方針」が”立地の適正化に関する基本的な方針”となる考え方です。
なお、誘導方針とは、作成自治体によって若干異なりますが、基本的には、人口密度の維持を図る居住誘導区域や都市機能の誘導を図る都市機能誘導区域、それら区域を結ぶ公共交通をどのように配置等を行なっていくのか方向性を示したものです。
勘違いしてはならないのは、立地適正化計画で定めることとなる「居住誘導区域」、「都市機能誘導区域」、「誘導施策」は”立地の適正化に関する基本的な方針”には該当しないということです。
つまり、これらは都市計画マスタープランとはみなさないということです。
立地適正化計画の全てが都市計画マスタープランとみなすということではないことに注意しましょう。
とういうことで、立地適正化計画が都市計画マスタープランの一部とみなす理由を記事にしました。
最後に補足として、都市計画マスタープランとの役割の違いについて簡単にお伝えします。
補足:都市計画マスタープランと立地適正化計画の役割の違い
都市計画マスタープランとの違いについては、これまで少し触れたことがあったかもしれないですが、改めて書きます。
都市計画マスタープランは、都道府県が作成する都市計画区域マスタープランとも異なります。
都道府県が作成する都市計画区域マスタープランは、区域区分(市街化区域と市街化調整区域の区分け)をメインとしている部分が多く、市町村単独というよりは、都市圏を有する複数市町村をまとめて区域マスタープランとして、将来都市像を示し、どのようにして都市づくりを進めていくか基本的な方向性を示すことになっています。
一方で、都市計画マスタープランは、ひとつの市町村が作成するものです。
先ほど、市町村が定める都市計画に関する基本的な方針であるということをお伝えしましたが、基本的な考え方として、市町村が行う都市計画は、市町村都市計画マスタープランに即していることが求められます。
つまり、都市計画マスタープランとは、都市の将来ビジョンを定めるものですから、市町村の考えのもと、どのようにして都市を形成していくか定めることができる大きなメリットがあります。
ただし、都市計画マスタープランは、都市計画区域マスタープランに即することが求められますので、都市圏を構成する一(いち)自治体である場合には、自由な将来ビジョンというのは描きずらい部分もあります。
立地適正化計画は、市街化区域の中に視点が置かれており、今後の急速な人口減少下においても、一定の人口密度を維持するエリアや日常生活サービス施設を維持するエリアを定め、それらを公共交通で結ぶことで、コンパクト+ネットワークの実現を図ろうとするものです。
簡単にいうと、都市計画マスタープランが道路や公園、下水道といった都市施設の整備や郊外の開発抑制と言った規制的側面がある反面、立地適正化計画は誘導区域への誘導を図る観点から施策を講じることとされているなど誘導的側面を有しています。
都市計画マスタープラン | 立地適正化計画 | |
---|---|---|
法令 | 都市計画法第18条の2 | 都市再生特別措置法第81条 |
計画対象区域 | 都市計画区域 (市町村によっては、行政区域全域を対象としている場合もある) |
都市計画区域 (都市計画区域を対象とするものの、市街化区域(非線引き都市は用途地域内)の中に視点が置かれている) |
特徴 | 都市計画法の大半が規制に関する事項を定めており、規制的手法で土地利用をコントロールする考え方を踏まえながら、将来の土地利用に関するビジョンを示すものであり、あくまでも都市計画を行う上での基本的な方針に過ぎない。 | 都市(市街地)再生がポイントであり、市街地内に居住と都市機能を誘導する居住誘導区域と都市誘導区域を設定することになり、居住調整地域という規制的手法もあるものの、当該区域への誘導がメインとなり、都市マスの市街地部に特化した都市計画の実行計画に近い。 |