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既存不適格でも設置が望ましい『戸開走行保護装置』と『地震時管制運転装置』

この記事では、エレベーター付き物件を購入される不動産オーナー向けとして、エレベーターの保守点検とエレベーターの既存不適格について分かりやすく解説を行います。

先日、楽待さんからエレベーターのリニューアルに関する取材を受けましてお答えさせて頂きましたが、もう少し詳細に知りたいというお声を頂きましたので、こちらの記事でまとめてみました。

どうも、YamakenBlogです。

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建築基準法や都市計画法といった都市づくりに欠かせない法律は、複雑かつ難解なため理解するのに苦しみますよね(私自身が苦しみました。)。このことを解決するために法律を上手に活用してビジネスや生活に活用してもらいたいと思いつくったブログです。

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不動産オーナーが厳守する保守点検業務

エレベーターを所有する不動産オーナーが厳守する必要がある建築基準法上の規定は次の2つです。

  1. 保守点検業務(建築基準法第8条)
  2. 定期調査報告(建築基準法第12条第3項)

まず、1つ目の保守点検業務ですが、建築基準法第8条では、建築物の所有者、管理者又は占有者は、建築物の敷地、構造、エレベーターが該当する建築設備について、常時適法な状態に維持するよう努めなければならないとされています。

この建築基準法第8条に対しての罰則規定はありませんが、過去には保守点検の不良などを要因の一つとする死亡事故(平成18年 シティハイツ竹芝エレベーター事故)も発生しているため、 不動産オーナーは必ず遵守しなければならない法の内容です。

補足情報としまして、国土交通省(外部リンク)では、エレベーターの安全性の維持の向上を目的として、平成28年2月に「昇降機の適切な維持管理に関する指針」及び「エレベーター保守・点検業務標準契約書」を公式ページで公表しています。

エレベーターの保守管理はコストがかかりますが、事故発生による損害賠償や社会的責任などを考慮すると、専門的な知識を有していない所有者等の方にとっては、保守管理契約は必須です。

まず持って保守管理契約をメーカー等と結んでいないことはないと思いますが、万が一保守管理契約を結ばれていない方は、この国交省の方針を契約する際の検討資料としてご覧になることを推奨します。

続いて、2つ目が定期調査報告です。

この定期調査報告は、エレベーターの所有者に課せられる法規制で、一級建築士・二級建築士・建築設備等検査員資格者による年1年の検査(損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を)を実施し、特定行政庁に提出しなければないと定められています。
*戸建て住宅に設置されるホームエレベーターは除かれます。

通称で法的点検とも呼ばれるもので、建築基準法第12条第3項に定められています。

この定期調査報告を提出しなかった場合や虚偽の報告をした者は100万円以下の罰金に処されます。

また、自動車の法定点検と同じでエレベーターを常時良好な状態にするメンテナンスの必要箇所なども把握できるので利用者の安全性を考慮すれば必ず実施する必要があります。

私も一時期、業務として建築設備の定期調査報告を担当していたことがありますが、エレベーターは機械設備というだけありロープが摩耗するため定期的なメンテナンスが必要不可欠ですので、このメンテナンスを疎かにすると大事故につながりますので、定期調査報告は100%実施が求められます。

リニューアル時の建築確認申請の要否

建築基準法第6条第1項第1〜3号建築物にエレベーターを設置する場合4号建築物の新築時にエレベーターも設置する場合のみ建築確認申請が必要となります。
*4号建築物については、後から設置する場合は確認申請は不要です。

通常、アパートであれば特殊建築物のため建築基準法第6条第1項第一号建築物に該当するため、新たにエレベーターを設置する場合や既存物件をリニューアルする場合には建築確認申請が必要となります。

エレベーターの部分的な改修については、建築基準法上では明確にどのようなケースで確認申請が必要かどうかの判断を行っていないため特定行政庁毎に判断しています。

ただし、建築確認申請が必要かどうかの改修については、特定行政庁が判断するにあたっては、「昇降機技術基準の解説(編集発行:一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター一般社団法人 日本エレベーター協会)」を参酌していることが多いため、一般的には次のケースで確認申請が必要となります。

既存EVの改修で建築確認申請が必要なケース

・ 機械室を移設するとき
・ エレベーターを全部取り換えるとき
 (乗場戸、三方枠、レールのみを残す場合も全部取替)
・ エレベータの用途を変更するとき(荷物→乗用)
・ 定員、積載荷重又は速度を変更するとき
・ 昇降行程を延長するとき

つまり、既設エレベーターを撤去し新たにエレベーターを新設する場合や、エレベーターの籠(かご)や制御盤、駆動装置などをリニューアルする場合には基本的に建築確認申請が必要になると考えてよいですが、上記に該当しない軽微な改修は、建築確認申請不要となります。

戸開走行保護装置・地震時管制運転装置を設置する場合の建築確認申請の要否

また、現在、国内のエレベーターで約7割が未設置の戸開走行保護装置(二重ブレーキ)を既設エレベーターに設置する場合や、地震時管制運転装置を設置する場合については、国交省から文書が発出されており、建築確認申請は不要(平成24年4月27日付け国住指第291号「戸開走行保護装置等の設置の促進について」 )となります。

戸開走行保護装置(とかいそうこうほごそうち)は、2009年9月から義務化されている通称二重ブレーキとされるもので、ドアの開閉状況を検出する乗り場戸スイッチに加えて、かごが乗り場から一定距離以上移動した場合に感知することができる特定距離感知装置を設けることで戸が開いた状態での走行を検知してブレーキをかけます。

2009年9月以前のエレベーターには設置義務はありませんが、安全管理上、設置するのが望ましい対策です。

戸開走行保護装置とは?*出典:国土交通省

エレベーターの既存不適格

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000105.html

現在、国内のエレベーターで既存不適格となる主な事項は次のとおりとなります。

戸開走行保護装置 平成21年9月28日施行(以下同じ)
 二重ブレーキにより戸が開いた状態での稼働防止

・地震時管制運転装置(予備電源の設置が必要)
 地震停電時の閉じ込め防止。地震発生時の初期微動を感知し、本震が到達する前にカゴを最寄り階に停止、開放する装置

・ かご及び釣合おもりがガイドレールから外れることを防止する措置 
・ ロープが滑車から外れることを防止する措置
・ 駆動装置・制御器が地震の震動により転倒又は移動しないようにする措置

・ 釣合おもりが脱落することを防止する措置 H26年4月1日施行(以下同じ)
・ かご及び主要な支持部分の耐震計算

このうち、国が特に特に力を入れて既存不適格の解消を目指しているのが、いわゆる二重ブレーキとされる「戸開走行保護装置」と、地震・停電時に自動的に最寄り階に着床する「地震時管制運転装置」です。

いずれも平成21年9月28日に施行されており、これ以降に着工したエレベーターには設置が義務付けられています。

特に戸開走行保護装置は過去の死亡事故を受けて設置が義務付けられたルールで、大きな事故を防ぐ観点から重要な改修事項です。

平成21年9月以前の既設エレベーターは改修必須ではないですが、なるべく改修した方が良いルールです。

入居者が挟まれて亡くなっただなんて想像するだけでも恐ろしいですよね。
加えて、いつきてもおかしくはない南海トラフ地震により利用者が長時間閉じ込められて亡くなってしまったといった事態にならないためにも、2つの対策は大切です。

なお、自治体によっては国の補助制度を活用できるように補助金を用意している場合がありますので最寄りの役所に相談することも考えられます。

まとめ・補足

エレベーターは年1回の定期報告が義務付けられているように、通常の建築物と異なり、金属疲労や摩耗損傷による消耗のある建築設備となりますので、メーカー等との保守管理契約、加えて、年に一度の定期調査報告は必須です。

また、平成21年9月28日以前に設置された建築物については、いわゆる二重ブレーキとされる「戸開走行保護装置」と、地震・停電時に自動的に最寄り階に着床する「地震時管制運転装置」の設置が行われていない物件が多くあります。

国の調査(令和5年1月10日公表)によると、定期調査報告を要する国内約74万台のエレベーターのうち、「戸開走行保護装置」の設置率は32.1%に留まっていますが、それでも令和2年度に比べて令和3年度では約6,600台の「戸開走行保護装置」の既存不適格が解消されているようです。

国では補助制度も用意していますので、過去の痛ましい死亡事故が再び起きることがないようになるべく早めに設置することを推奨したいところです。

加えて、地震時における長時間閉じ込めも課題となっており、平成30年に発生した大阪府北部地震(最大震度6弱)や令和3年に発生した千葉県北西部(最大震度5強)では、地震時管制運転装置が設置されていないことによる閉じ込め被害が発生しています。

法的には、既存不適格には改修義務はありませんが、万が一による事故により事故物件とならないように事前に対策を行っておくことが大切かと考えられます。

それでは以上となります。最後までご覧いただきありがとうございます。






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