この記事では、用途地域のうち「準工業地域」に大規模集客施設の立地を制限する特別用途地区(大規模集客施設制限地区)が指定される理由を簡潔に解説しています。
このブログ(YamakenBlog)では、難解な建築基準法や都市計画法を解説しています。プロには役立つ知識を、一般の方には都市計画や建築が身近な存在であるかを伝えていければと考えています。よかったらブックマーク登録していただけますと嬉しいです!!
目次
理由:中心市街地活性化基本計画の認定を受けているか否か
はじめに背景として平成18年(2006年)の「まちづくり三法」改正が重要なキーワードです。
まちづくり三法とは、都市計画法、中心市街地活性化法、大規模小売店舗立地法のこと。
当時は、中心市街地の空洞化や衰退が取り上げられていた時代…
しきりに「シャッター街」という言葉をメディアが使いはじめたのはこの頃じゃないかなと思います。
そのような背景もあって、中心市街地の活性化を図ろうとする取り組みの一つとして、大規模集客施設の立地規制(誘導するエリアを限定)が導入されたのです
大規模集客施設の立地制限を受ける用途地域が変更
この改正により、第二住居地域、準住居地域、工業地域、非線引き白地への大規模集客施設の立地が制限されたのです。
この結果、大規模集客施設の立地が可能な地域(都市計画区域内)は、近隣商業地域、商業地域、準工業地域の3つとなります。
課題は「準工業地域」
問題は「準工業地域」です。
まちづくり三法改正時の制度設計として、準工業地域については、中心市街地活性化基本計画の内閣府認定を受ける都市に限り準工業地域への大規模集客施設の立地制限を行うことが義務付けられたのです。*その他は任意
準工業地域は一部の風俗系施設、環境悪化の影響が大きい工場を除いてなんでも建築することができます。”なんでもあり”とされます。
ある意味、大規模施設や複合用途を考えている事業者にとってはとても使い勝手の良い用途地域で、かつ中心市街地よりも地価が低いために工業という名前が付いていながらも、商業施設(モール型商業施設、パチンコ屋などの風俗系施設、ホテルなど)が立地しやすいわけです。
言い換えると地域にとって誘導したい施設の絶好の種地になります。一方で、郊外に点在しているケースが多い「準工業地域」へ一部の大規模集客施設が立地することで、中心市街地の空洞化を招いて、中心市街地活性化基本計画と矛盾する可能性が高くなります。
中心市街地の活性化を目指す自治体では大規模集客施設制限地区を指定
国では、法律上では、地方のまちづくりにおける自主性を尊重して近隣商業地域、商業地域、準工業地域の3つを立地可能な地域として残したわけです。準工業地域を制限するかどうかは地域の判断に委ねられています。
ということで、中心市街地活性化基本計画の認定を受けている地域は必ず大規模集客施設が制限されています。
手法としては、特別用途地区または地区計画です。都市内でエリアが広範囲に準工業地域が点在している場合には特別用途地区、スポット的なエリアにのみ準工業地域が指定されている場合には、地区計画が用いられています。
補足・余談(市街化調整区域)
制度設計上の課題もあります。
平成18年改正によって以前に比べて市街化調整区域での大規模開発行為が難しくなったものの、それでもなお自治体が誘導していくまちづくりの方針を立てて地区計画を指定すれば、市街化調整区域での大規模集客施設の立地が可能です。工場跡地やIC付近での地区計画によって、大規模商業施設の誘導例は現在でもあります。
また、中心市街地活性化基本計画は基礎自治体単位での認定であり、都市圏ごとではないため、中心市街地活性化基本計画を策定した自治体に隣接する同一都市圏の自治体へは大規模集客施設の立地制限は及ぼないため、隣接する自治体へ逃げて(もしくは競争性から公がアプローチ)立地することもあります。
基礎自治体の自主性を尊重しつつも広域的な視点からバランスのとれた都市計画運用を行うことが難しいというのが今の日本の都市政策上の課題の一つかと思います。地方分権改革もあって国全体の土地利用の最適化・適正化を図る仕組みが弱くなっているように感じられます。
個人的には都市圏としてまとまった拘束力のある方針が必要かなと思っています。
自治体から改正を求める要望も・・・
準工業地域への大規模集客施設の制限の効果が発揮できている例があります。
これまでにも地方分権改革に係る自治体提案においても何度かあったのですが、令和5年度の分権改革提案においてもあったので、効果の例として紹介です。
こちらは某自治体の提案ですが、簡単に言い換えると、国費を頂いて中心市街地活性化も図りたいけど、郊外の準工業地域で商業系事業者が大規模集客施設をつくりたいって言っているから、中心市街地活性化計画の認定基準自体を見直してよということです。
その裏には、用途地域を変更するのは県との協議や広域調整の過程で強く否定されそうだし、緩和型の地区計画等は大臣認定が必要で認められるわけないから、中活の制度自体を変更してよってことですね。
”各地域の特性に応じた拠点づくり(食と農など)を進めており、これに呼応する個別的な商業立地の相談もあり、地域経済力の向上や雇用の場の確保に向けて有効な土地利用として大規模集客施設の立地を進めたいが・・・”
郊外の地域拠点であれば床面積1万㎡超である必要はないと思いますけど、近隣自治体への影響も考慮されていないんだろうなと思います。南アルプス市のコストコのような地域拠点イメージなのかなと思います。夢がありますし気持ちは分かります。
仮に、準工業地域への大規模集客施設の立地制限を義務化していなければ、中心市街地活性化に取り組みつつ郊外へ大規模集客施設を積極誘導するまちづくりが実行されていたということです。そうしたまちづくりは否定されないですが、これまでの中活で得た国費の返還、地域住民や県民の理解を得ないとですね。
もちろんこの提案は採用されていません。