この記事は、冬季に地盤が凍結する地域では必須の知識である凍結深度について、分かりやすく解説を行っています。
温暖な地域での設計では馴染みがないですが、北海道や北東北、山間部では建築物の基礎を設計する上で特に重要な規定となっています。国交省の基礎設計告示にも”凍結深度”という文言が登場します。
全国、様々な場所の設計を行う方(これから行おうとする方)にとっては予備知識として知っておけば、(私自身を含めて)便利なので記事にしてみました。
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ということで早速「凍結深度」という言葉をポイントに基礎設計において注意すべき事項について解説します。
地盤は凍結すると膨張
建築基準法で凍結深度という用語が使われているのは、基礎に関する告示の部分です。
「平成12年5月23日建設省告示第1347号 建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」に記載されています。
この告示では、基礎の根入れの深さ(GLから基礎の底部まで)を凍結深度よりも深いものとすることが定められています。
”四 根入れの深さは、〜(略)〜12センチメートル以上とし、かつ、凍結深度よりも深いものとすることその他凍上を防止するための有効な措置を講ずること。”
【参考】
建築基準法(平成12年告示1347号)では、基礎の根入れ深さについて、べた基礎の場合:12㎝以上、布基礎の場合:24㎝以上とする規定が定められています。
▷▷解説記事:建築基準法において規定する建築物の基礎構造を解説!
凍結深度とは、地盤が凍結する深さのことです。
土を触ると湿っていますよね。
土には、水分が含まれているので、寒冷地では冬期に地盤が凍結します。その凍結する深さを示したのが『凍結深度』です。
問題なのは、凍結すること自体ではなく、凍結により地盤が膨張することが建築物に悪影響を与えます。水が入ったペットボトルを冷凍庫に入れて凍らせると膨らむことを想定してもらえれば分かりやすいです。
水から氷になると体積が増えます。
これの凍結が地盤の中で起こると、建物の基礎底盤を持ち上げる力になり、建築物に傾きや基礎が割れる要因となります。
そのため、建築基準法では、凍結深度以深に基礎の底部を設置しなさいとしています。
なお、留意点として、凍結深度が定められている地域では基礎を凍結深度以深にするのは必要ですが、そうではない地域でも山間部では冬期には地盤が凍結する恐れがあるため、過去の気象状況からより安全側をみて判断した方が無難です。
凍結深度の調査方法は?
各自治体の、条例や規則、細則等において定められていますので、各自治体のホームページまたは直接問い合わせを行うことで確認することが可能です。
この凍結深度ですが、特に寒い地域である北海道や東北・北陸地方など(多雪区域)において定められています。
ただし、注意が必要なこととして、凍結深度は積雪深とは直接的な相関関係がないので、例えば、積雪が非常に少ない八戸市では、凍結深度として60㎝以上とされています。
また、長野市では、45㎝以上と規定されていたりします。
ちなみに北海道の一部地域では最大で120㎝以上としている行政庁もありました。
積雪についてはエリアごとに区分して公表している自治体がありますが、凍結深度については、地域にごとに区分して公表している例は稀なのが実態です。このため、繰り返しですが安全側に設計しておいた方が設計者の将来リスクを減らせます。
凍結深度一覧
全国の凍結深度をまとめました。
(注)できる限り最新情報を掲載するようにしていますが自治体によっては古い情報がある可能性がありますので、最終確認は各自治体の条例や規則等で確認してください。
あた、深度は記事執筆時点です。最終確認は特定行政庁に行うようにしてみてください。
また、表は寒冷地を有する地域のみ記載しています。
地域 | 凍結深度 | 備考・サイトリンク |
---|---|---|
北海道 | 50〜120㎝ *札幌市:60㎝、旭川市:80㎝、函館市:50~70㎝ | ・北海道庁まとめサイト (特定行政庁を含む) |
青森県 | 概ね55㎝以上 *八戸市:60㎝以上 *青森市:不明 | ・青森県(西北地域) ・八戸市 ・青森市(参考値は下表参照) |
岩手県 | 不明又は指導していない | ・盛岡市(参考値は下表参照) |
秋田県 | 不明又は指導していない *横手市HPでは凍結深度を定めていない記述あり | ・秋田市(参考値は下表参照) |
宮城県 | 不明又は指導していない なお、仙台市については、「仙台市が合理的な凍結深度の設定を行うことが不可能であるため、あくまで設計者が敷地の実況を調査し、自らの判断により凍結深度を設定」と記載 | ・仙台市 *参考値は下表参照 ・その他の宮城県内の参考値は、県農村振興課の農業農村整備事業における「凍結深の運用基準」を参照 |
山形県 | 不明又は指導していない | ・山形市(参考値は下表参照) |
福島県 | 指定なし *県HPにて、道路舗装時の凍結深を参考に記載 | ・福島県内の参考値 |
群馬県 | 指定なし | ・群馬県 |
栃木県 | 指定なし | ・宇都宮市 |
山梨県 | 一部不明 ・甲府市指定なし ・北杜市指定なし(参考標高のみ記載) | ・甲府市 ・北杜市 |
長野県(長野市・松本市を除く) | 指定なし *上下水道の参考値等を用いるようHPに記載 | ・長野県 |
長野県長野市 | 45cm以上 ただし、標高が概ね800mを超える地点においては60cm以上 | ・長野市 |
長野県松本市 | 20㎝〜70㎝(参考値) | ・松本市 |
新潟県 | 指定なし | ・新潟市 ・新潟県 |
富山県 | 指定なし | ・富山県 ・富山市 |
石川県・福井県 | 不明又は指定なし | |
京都府 | 指定なし | ・京都市 ・京都府 |
鳥取県 | 指定なし | ・鳥取県 |
島根県 | 不明又は指定なし |
上記の表をご覧になって頂くと東北地方では青森県以外では凍結深度の指定ないのが不思議に思われると思います。
参考となる指標として、国土交通省東北地方整備局営繕部さんで作成されている「東北地方多雪・寒冷地設備設計要領 」に参考値が記載されていたので、参考まで掲載しておきます(主要都市のみです)。
都市名 | F:凍結指数[℃・days] ( ):標高m | C:係数 (標準4) | 凍結深度:C√F (単位:㎝) |
---|---|---|---|
青森市 | 113(4m) | 4 | 43㎝ |
八戸市 | 104(27m) | 4 | 41㎝ |
盛岡市 | 154(115m) | 4 | 50㎝ |
秋田市 | 77(0m) | 4 | 35㎝ |
仙台市 | 13(39m) | 4 | 15㎝ |
山形市 | 59(152m) | 4 | 31㎝ |
福島市 | 9(67m) | 4 | 12㎝ |
郡山市 | 16(230m) | 4 | 16㎝ |
いわき市 | 指定無し | 4 | 0㎝ |
酸ヶ湯(すかゆ) *東北最大値 | 805(920m) | 4 | 114㎝ |
凍結深度が定められていない地域は気にしなくて良い?
凍結深度が定められていない地域でも、標高の高い地域では、冬期の気温が低いため平地よりも地盤が凍結する深さが大きい場合もあるので注意が必要です。
一般的に標高が100m上がるごとに0.6〜1.0度下がると言われています。
それも一概に言えるものではなく、冬期の平均気温、降水量、土壌の種類、そして雪の被覆など多くの要因に依存します。特に標高が高く乾燥している地域では、放射冷却の影響を強く受けるため凍結深度が深くなる可能性があります。
まとめ・参考書籍
今回は凍結深度についてまとめました。
繰り返しとはなりますが。寒冷地で設計する際には、凍結深度を考慮して設計しないと、構造体に影響を与えるだけでなく、建築物の使用上の問題(傾き)も発生するので注意が必要となります。
業務の参考になれば幸いです。
最後に基礎設計の際の参考となる書籍を置いておきます。