現在の建築基準法では、『災害が発生する危険性が高い地域「ハザードエリア」』内における、立地及び構造等の制限は、建築基準法第39条(災害危険区域)と建築基準法施行令第80条の3(土砂災害特別警戒区域内における居室を有する建築物の構造方法)の2つ規定されています。
先般の台風19号や西日本豪雨をはじめ、度重なる豪雨を経験した方は、河川がいとも簡単に決壊(氾濫)し、市街地を濁流で飲み込むなんて誰も予想していなかったのではないでしょうか。
この記事では、洪水や津波といった災害が発生する可能性が高い地域(ハザードエリア)の建築物の基準について考えてみました。
目次
はじめに
冒頭でお伝えしたように、現行の建築基準法では、ハザードエリアに関する規定として、法第39条(災害危険区域)と施行令第80条の3(土砂災害特別警戒区域内での居室の制限)が設けられています。
災害危険区域
法第39条の災害危険区域ですが、地方公共団体が、津波・高潮・出水等による危険の著しい区域を条例で指定できるもので、具体的には、住居の用途に供する建築物の建築の禁止や1階部分の住居用途の禁止などが定められています。
この災害危険区域ですが、東日本大震災における津波災害を受けた区域を指定している自治体が多いです。
宮城県のホームページをご覧になると分かりやすいと思います。(津波被災地については、防災集団移転促進事業の補助要件として災害危険区域の指定が必要であったことも指定が進んだ理由の一つです。)
また、京都府舞鶴市では河川出水エリアを災害危険区域として指定しています。
>>https://www.city.maizuru.kyoto.jp/kurashi/0000000885.html
災害危険区域の特徴として、実際に災害が発生したエリアの一部を指定している点です。
いわゆる雨量等の予測に基づくエリア(自治体が公表しているハザードマップなど)については、指定している例はあまり無いです。
災害危険区域の指定がなされれば、当然、住宅の建築は難しくなりますし、災害のリスクが非常に高いエリアとなっているわけなので、もちろん不動産価値も下がります。
ですので、日本のように土地の流動を経済に組み入れ、個人の土地の権利が保証されている場合、資産価値を減少させる行為(手法)については、地権者の反対に合う例が高いと想定されます。
そのため、自治体も災害の危険性が高いと認識はしていても、指定までは困難と考えてしまうのかもしれません。
土砂災害特別警戒区域
次に、建築基準法施行令第80条の3の規定についてです。
こちらは、土砂災害防止法に基づき指定される『土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)』内に居室を有する建築物を建築する場合の構造等の制限になり、具体的には、土砂や石が落下してきても建築物が耐えうるように設計しなければならないとされています。
>>土砂災害特別警戒区域内における建築行為について書いた記事がありますので詳細を知りたい方はこちらをご覧ください。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)で建築する方法と構造制限の解説
ハザードエリアに関する現状の課題
莫大な予算をかけて河川改修や調節池、グリーンインフラの整備など総合的な治水事業を進めるか、出水の恐れがある地域に住宅や居室を有する建築物の建築を禁止もしくは居室レベルの位置を制限(条例等)するかの2択しか方法がありません。
河川改修か立地制限の2択となる問題
河川改修等による方法
この場合、土地利用の制限と比較するとどうしても河川改修になりがちかなと思います。
当然ですよね・・・
だって、自分の土地の権利は守りたいから。住民による合意形成は絶対に不可能です。
これは、行政経験がある私だからこそ言えることですが、『お金や土地の権利』が絡むと簡単には進められません。
それに限られた財政状況では、河川改修等が完了するまで何10・100年というスパンでかかってしまい、その間に水害が発生してしまう恐れがあります。(というか最近の雨の降り方を見ればしますよね。来年または再来年も必ずどこかの地域で河川氾濫があるはずです。)
つまり現状では、ゆっくり河川改修等を進めていくしか手法が無いという結果になってしまいます。
建築基準法における課題
冒頭でお伝えしたように、建築基準法では、災害危険区域という指定するハードルが高い地域と土砂災害特別警戒区域の2種類しかありません。
ハザードエリアについては、この他にも、水防法や地すべり防止法、急傾斜地法、津波防災地域づくり法という法律が存在(令和3年以降は、特定都市河川法に基づく浸水被害防止区域)します。
私の個人的な見解としては、特に発生リスクが高い津波以外については、建築基準法により建築時における安全を確保する必要があると考えられます。
もちろん災害危険区域して一括して指定することが可能であればそれに越したことがないですが、基本的に甚大な被害を受けた地域(実績)については、災害により居住者がいなくなった地域などを指定する傾向にあるため、現状で多くの方が居住する地域を指定するのは極めて困難です。
これらのハザードについては、建築基準法における立地や構造等の制限なされていないという現状がありますが、立地基準については、都市計画法や都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画(居住誘導区域)による手法によりある程度制限していくことは可能ですが、これについても地権者の合意形成は必須となってくるため、指定までの道のりは険しいです。
ではこの課題を解決するための方法を提案します
解決のための提案
台風19号や西日本豪雨をはじめ、河川による水害の危険性が最も高いと認識したのではないでしょうか。津波に比べて発生確率が非常に高く、経済に与える影響も甚大で日常生活を取り戻すために多大な時間を要してしまいます。
それを防ぐには、やはり人や建築物を建築させないのが一番です。
もちろん必要な箇所の河川改修も重要ですが、年々水害の恐れが高まっている中、想定以上の雨量が降ることも考えられるので、安全な地域に移住するか、水害が発生しても被害を最小限に止める減災対策を行うことが重要です。
特に経済に大きく影響を与える市街地の被害を最小限に留めるため、
立地適正化計画で定める居住誘導区域内については、水防法に基づく浸水深や市町村が公表するハザードマップの浸水深以下に居室を有しないことを建築確認申請時に確認する規定を建築基準法に設けるなどが考えられると思われます。
現在でも、都市計画法に基づく地区計画を活用すれば、できなくはないと考えられますが、コンパクトシティの政策と連携した方が合理的です。
水防法等の浸水深については河川改修等によって低減することが可能と考えられるため、自治体が地域ごとに治水事業か土地利用の制限かのどちらかを選択することも容易になるため、経済的な合理性を鑑みて判断することも可能です。
本記事のまとめ
今回の記事では、台風19号をはじめとする豪雨災害を踏まえ、建築基準法に水害に関する関係法令と連携が図れる規定を設けたらどうかという提言でした。
インフラが整ってきたからこそ、水害が最小限に止められたと評価することも可能ですが、今回の豪雨災害のように被害は甚大かつ広範囲に及んでいますから、今後も、水害や土砂災害に対して安全が確保された都市を形成していくことが私達の時代に求められているものと思われます。
ですので、一人一人の災害に対する認識が都市を強化していくことにもつながるため、自治体に制限されるから憎いではなくて、自治体に提言するくらいの姿勢で、住民一人一人がまちづくりに参加していって欲しいと考えています。
だって、住民一人が生きることができるのは頑張って100年ですが、都市はこの先何千年も残るからです。
それでは、今回は以上です。
最後までご覧いただきありがとうございました。