上記の悩みや疑問を抱えた方向けに用途地域ごとのデメリット・メリットを踏まえて解説します。
こんにちは!建築士のやまけんです。
元建築行政職の経験等を踏まえて解説します。
それでは、はじめに『用途地域とは』を話しますね。
目次
用途地域とは?
用途地域は都市計画法で指定されるものなのですが、ここで大きく勘違いされる方がいます。
それは、都市計画法で建築が制限されるという勘違いです。
用途地域ではない、市街化調整区域の場合には、その建築は都市計画法で制限されるんですが、用途地域の中においては、建築基準法において制限されます。正確には建築基準法が都市計画法の実行法です。戦前の旧市街地建築物法時代は少し違ったんですけどね。
それはさておき、
都市計画法とは、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るものです。
これだけと意味がわからないと思いますが、簡単に言うと適切な土地利用のコントロールです。適切と言うのは、田畑地域や森林を保全したり、無秩序な道路の狭い乱開発を防止したり、住宅や工場の混在防止などを図るからです。
よく、『どの都市も似たような街なのは都市計画の所為』と批判されますが、都市計画法においては批判の的とされるコンテンツの質は制限しないので、チェーン展開する店舗の立地の制限は無理ですからねー笑。言いたい気持ちはわかりますが、制限することに重きは置かないで『誘導』することに力を注ぐのがいいかもですね。
さておき、現在の日本の都市づくりに関する法規制は用途地域をはじめとする土地利用の制限によってコントロールしています。なお、近年では、都市再生特別措置法の改正によりコンパクトシティの形成を目指す立地適正化計画制度が規定された事で誘導という概念が取り入れられるようになりました。
では本題に戻り、用途地域とは、都市計画法で『地域地区』の一つとされるもので13地域が指定されています。
ここでは、用途地域の概要をお伝えします。詳しい制限内容を知りたい方は、次項をご覧ください。
属性 | 用途地域名 | 特徴 |
---|---|---|
住居系用途地域 | 第一種低層住居専用地域 | 一番上の第一種低層住居専用地域から下段の準住居地域に下がるに従って制限が緩くなる。
第一種住居地域からは住居系用地域としながらも床面積3,000平米以上の店舗なども建築できるようになる。 田園住居地域は平成30年4月に施行された新しい用途地域で田畑の保全と住宅開発の制限が目的となっている。 制限が厳しい上段の低層住居系は閑静な住宅街区やニュータウンなどに多い。 田園住居地域は指定されている例はないが、郊外の縁辺部や農地が残っているところに指定される。 第二種住居や準住居などは工業系用途や商業系用途との干渉地域として道路沿線などに指定されることが多い。 |
第二種低層住居専用地域 | ||
田園住居地域 | ||
第一種中高層住居専用地域 | ||
第二種中高層住居専用地域 | ||
第一種住居地域 | ||
第二種住居地域 | ||
準住居地域 | ||
商業系用途地域 | 近隣商業地域 | 床面積が1万平米を超える大規模な店舗等を建築するには、商業系用途地域が最も最適となる。
風俗営業系施設は原則として商業地域のみで建築することが可能となる。 近隣商業地域は幹線道路沿いや小規模な市街地に指定される。 商業地域は、駅前の市街地(人口規模が小さい市街地を除く)に指定される。 |
商業地域 | ||
工業系用途地域 | 準工業地域 | 準工業は、爆薬系や危険物系工場、風俗系施設を除き何でも建築可能。ただし、中心市街地活性化基本計画の認定を受けている都市は、準工業地域に大規模集客施設(床面積1万平米を超えるもの)の制限を設けている。
工業地域と工業専用の違いの大きなポイントは、工業専用が住宅用途や店舗等の建築が制限される。 準工業は土地利用が行われていない未利用地や鉄道敷地などに指定されている場合が多いが、基本的にどのような用途も建築することができるため、土地利用をコントロールする場合の弊害となっているケースもある。 工業、工業専用は工業団地などに指定されている。 |
工業地域 | ||
工業専用地域 |
用途地域は、住居系用途地域、商業系用途地域、工業系用途地域に区別されます。
住居系は住宅環境を保護する地域、商業系は店舗や飲食店等の商業振興が目的の地域、工業系用途地域は工場や物流倉庫などの立地を促進する地域です。
さらに住居系用途地域は、8地域あり、規模や用途により制限される内容が大きく異なることがポイントです。
住居系用途地域と言っても、床面積1万平米以内であれば建築することができる第二種住居、準住居地域もあり、住環境保護が主となっているものの、必ずしも保護されることが担保されるものではないことに留意しましょう。
用途地域で制限される建築物の用途
ここでは、住宅と事業用建築物(事務所)に視点を置いて解説します。
はじめに住宅からです。
なお、全体的な制限を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
住宅の土地選びで失敗しない用途地域とは
住宅と言っても、大きくは戸建て住宅と共同住宅に分けられます。
戸建て住宅の場合、建築物が低層であることと日常生活において重要なスーパーなどの店舗や診療所などの立地を考慮すると、基本的に住居系用途地域を選ぶと良いです。
その上で自分のライフスタイルに合わせて、どの住居系用途地域を選択するか検討してみるといいでしょう。
共同住宅の場合は、高層建築物である場合が多いので、必然的に高層建築物が建築可能な商業系用途地域や中高層地域などとなる場合が多いです。共同住宅の場合は立地場所自体が利便性の高い地域であることが多いので、その点、土地選びなどであまり悩む必要はないと思います。
私が最もおすすめしないのは、工業系用途地域です。
そのうち、工業専用地域は住宅の建築ができませんが、工業地域や準工業地域は建築することが可能となっています。
工業系用途地域は、工場や物流倉庫などの建築物の立地を図っていく地域ですので、基本的には住環境に問題を抱えている可能性が高いため、おすすめしません。土地が安いからという理由で購入して、その数年後に隣地に化学系の工場が立地したなんてことはあり得る話です。
また、一見して住宅街となっていても工業地域(工業系用途を誘導しようと考えたが、ミニ住宅開発されてしまったところ)となっている地域もあるので注意が必要です。この場合、今後の人口減少に陥る状況を鑑みると、将来にも渡って住宅街区が保全されるとは限りません。
事務所の土地選びで失敗しない用途地域とは
事務所の場合、一部の事務所(銀行の支店、保険代理店、宅建業を営む事務所など)を除き、第二種中高層住居専用地域より制限が緩い地域で建築することが可能です。
一種低層・二種低層・田園住居・一種中高層でも建築することは可能ですが、その場合は住宅併用である必要があります。
とはいえ、事務所においてはどのような事業を営むかによって、どの場所の立地するべきなのか検討する必要がありますので、詳細な検討用地については、コンサルタントや建築士に依頼するのが最も効率的です。
なお、事務所の立地検討の詳細については、こちらのnoteに掲載していますので、良かったら読んでみてください。
2以上の用途地域がまたがる場合
建築士や宅建士ではない方にはマニアックは部分ですが、建築物の敷地に2以上の用途地域がまたがる場合には制限される内容が異なります。
例えばこのようなケースですね。
この場合、敷地面積のうち、過半(50%)を占める地域が適用されます。
上記の場合ですと、近隣商業地域が過半にあたります。そのため、この敷地は近隣商業地域の用途制限の適用を受けることになります。
[建築基準法第91条(建築物の敷地が区域、地域又は地区の内外にわたる場合の措置)]
建築物の敷地がこの法律の規定(第52条、第53条、第54条から第56条の2まで、第57条の2、第57条の3、第67条第1項及び第2項並びに別表第3の規定を除く。以下この条において同じ。)による建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する禁止又は制限を受ける区域(第22条第1項の市街地の区域を除く。以下この条において同じ。)、地域(防火地域及び準防火地域を除く。以下この条において同じ。)又は地区(高度地区を除く。以下この条において同じ。)の内外にわたる場合においては、その建築物又はその敷地の全部について敷地の過半の属する区域、地域又は地区内の建築物に関するこの法律の規定又はこの法律に基づく命令の規定を適用する。
なお、上図における第一種低層住居専用地域の場合は注意点があります。
それは、第一種低層住居専用地域の特徴である外壁後退(法第54条)と絶対高さ制限(法第55条)、北側斜線制限(法第56条)は適用されます。(第一種低層住居専用地域の部分のみ)
本記事のまとめ
- 用途地域は13地域あり、住居系・商業系・工業系用途地域に大別される。
- さらに住居系用途地域は、8地域に別れており、制限される建築物の用途・規模が大きく異なる
- 住宅用の建築用地を検討するならば住居系用途地域を第一に選択する。なお、工業系用途地域は住環境に問題がある若しくは問題が生じる可能性があるので候補地からは除外する。
- 事務所であれば第二種中高層住居専用地域で立地を検討する。
- 用途地域がまたがる場合は敷地の過半を占める用途地域が適用される。
今回の記事は以上となります。
皆さまの参考になれば幸いです。
Photo by John Moeses Bauan on Unsplash
・住宅にはどういった用途地域が適しているの?
・用途地域が2以上にまたがる場合はどちらが適用されるの?