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【15%が危険な訳】熊本地震のような大規模地震から生命と財産を守るための住宅建築の基礎知識。

この記事では、2016年に発生した熊本地震における木造住宅の被害状況から、住宅建築においてはどのような点に留意すればいいのか、今後、必ず起きる地震被害から住宅・生命・財産を守る方法について解説します。

なお、主に在来軸組工法に関して説明していますのでご了承ください。




熊本地震(益城町)の木造建築物の倒壊・崩壊割合15%

2016年熊本地震の被害状況*出典:熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書(https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000633.html

この15%(正確には15.2%)という値は、熊本地震(益城町)において木造建築物が倒壊・崩壊した割合(297棟/1955棟)です。

この数値を見て、「大地震だし、こんなものじゃないの?どうせ旧耐震耐震基準の建築物でしょ?」と思った方は、次のデータ(結果)に驚くかもしれないです。

実は、新耐震基準以降に建築された建築物でみてみると、約7%(83棟/1196棟)の建築物が倒壊・崩壊しています。この新耐震基準以降の建築物について、大破を含めると約15%という値になります。

大破:柱や耐力壁にせん断ひび割れ・曲げひび割れが生じて構造耐力に著しい低下が認められるもの。

つまり、新耐震基準(1981年6月以降)の建築物であっても熊本地震のような大規模地震に遭遇すれば、全体の約2割は使用し続ける状態に無いまでに建築物が破壊されるということです。

ふつうに怖いですよね。
だって、深夜であれば2階や屋根・天井の荷重により圧死する可能性があるということです。圧死じゃなくても家具倒壊で死亡する可能性も十分あります。

わたしの考えですが、住宅建築では、数百年に一度の大規模地震に遭遇したとしても軽微な被害もしくは無被害を目指すことが大切かなと思います。

というのも、地震保険に入っていて全壊の判定を受けても火災保険契約額の50%が上限ですし、災害救助法が適用されて国から再建に要する費用が出ても最大で300万円です。
修繕や新たに建て替えようにも、住宅に居住することが出来ないため長期的な避難所生活を余儀なくされます。

ましてや自分が思い入れを込めてつくった住宅が壊れてしまうのは大切なモノを失った気持ちに似ていて、ひどく心を痛めてしまい、大きなストレスを感じるはずです。

熊本地震の特徴

2016年に発生した熊本地震(前震と本震)は、1995年に発生した兵庫県南部地震と同じように建築物や工作物に壊滅的な被害をもたらしています。

被害エリアの人口が比較的少なかった為に兵庫県南部地震や東日本大震災のようにメディアにずっと取り上げられるようなことにはなっていないですが、今後の住宅建築(通常の建築物)のあり方を左右する地震被害の結果が生じています。

ちなみに似たような地震として近年ですと、2018年に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震が発生しています。

実はこの胆振東部地震も熊本地震や兵庫県南部地震と同じように中低層建築物に対して大きな被害をもたらす周期1〜2秒が観測された地震動だったのですが、建築物への被害は熊本地震に比べると極端に少なかったようです。

出典:「平成 30 年北海道胆振東部地震による建築物の被害に関する調査結果(*平成30年10月2日 国立研究開発法人建築研究所 国土交通省国土技術政策総合研究所 北海道立総合研究機構建築研究本部)」

理由として考えられているのが、北海道という寒冷地であるため垂直積雪量が大きく、その積雪量にに耐えうる設計とするため、壁量(耐力壁や筋交い)が本州の木造建築物に比べて多く、かつ重量の軽い屋根がだったことが一因と考えられているようです。

本州に比べると北海道の方が耐力壁が多いため耐震性が高かった可能性があるということですね。

確かに胆振東部地震が発生したのが9月で積雪がなかった時期だったのが幸いしたのかもしれないです。なお、死者の多くが土砂災害によるもの(死者42名のうち36名が土砂崩れ)でした。

近年、水害も含めて土砂災害特別警戒区域内での建築物の倒壊例が多くなっているように思います。
>>参考記事:土砂災害特別警戒区域内での住宅建築

ではでは、熊本地震ではどうだったのかです。

地震被害の状況

国では、被害が大きかった熊本県益城町の中心部の建築物のうち2,340棟について調査が行われています。

そのうち、旧耐震基準(1981年5月以前)で倒壊・崩壊したのが220棟、1981年6月から2000年5月(木造建築物のバランス計算や金物が明確に規定された改正)で倒壊・崩壊したのが82棟、現在の基準で2000年6月以降では8棟という結果になっています。

旧耐震基準
1981年5月以前
新耐震基準〜2000年基準
(1981年6月〜2000年5月)
現行基準
220棟82棟8棟
2016年熊本地震において倒壊・崩壊した建築物の棟数

鉄骨造の被害状況についてはこちらの記事をご覧ください。
>>【約8%が継続使用出来ない程度の被害】大規模地震における鉄骨造の被害状況

木造建築物の被害状況

木造建築物の被害状況についてです。下図の左側が木造建築物のうち「無被害、軽微・小破・中破、大破、倒壊・崩壊」を建築基準年ごとにまとめたものです。右側は、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造ごとに被害数をまとめています。

熊本地震における建築物の被害状況*出典:熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書

2340棟のうち、住宅に多い構造である木造では、旧耐震基準での倒壊・崩壊が214棟、1981年6月から2000年5月まででの倒壊・崩壊が76棟、2000年6月以降の倒壊・崩壊が7棟という結果になっています。

つまり、木造建築物では、現行基準でも倒壊している建築物があるという事実です。

建築基準法では、数百年に一度発生する極めて稀な地震による力に対して倒壊・崩壊しない。&10年に一度程度の地震による力に対して構造躯体に損傷を与えない性能としています。

それにも関わらず7棟(大破を含めると19棟)が生活することができないレベルの被害を受けていることになります。

では何故、この7棟は倒壊・崩壊してしまったのかです。

現行基準の木造建築物が倒壊した理由

国の調査結果によると、現行の基準である2000年6月以降に建築された木造建築物323棟のうち、7棟が倒壊している結果となっています。

原因としては、3棟が接合部(金物)の仕様が不十分、1棟が地盤が原因(敷地の崩壊、基礎の傾斜)、残り3棟については、”震源や地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が作用した可能性”があるとのこと。でした。

倒壊・損壊率は全体の2.2%という結果なので少ないと思うかも知れませんが、建築基準法では倒壊・損壊することを想定していないレベルの地震において層破壊を起こしてしまっていますから、接合不十分(法律違反の可能性)の3棟と地盤に問題があった1棟を除けば、設計上や施工上の問題があったということなのかなと思います。

ですので、住宅建築においては、耐震設計がもちろん大事ですがそれ以上に設計どおりに建築できているかどうかの確認が特に重要ということです。

とはいえ、2000年基準以降の建築物でも104棟が軽微・小破・中破の被害を受け、12棟は大破してますから、耐震設計も重要であるかが分かると思います。

小破:柱・耐力壁の損傷は軽微であるが相当な補修が必要な状況にあるもの。
中破:柱・耐力壁に典型的なせん断ひび割れ・曲げひび割れが見られ、非構造体に大きな損傷が見られるもの。
大破:柱や耐力壁にせん断ひび割れ・曲げひび割れが生じて構造耐力に著しい低下が認められるもの。

では、どう対処すればいいのか

国の被害調査結果では、被害が少なかった木造建築物についても調査しているので住宅建築の参考になります。

地震被害が軽微であった住宅とは?

等級建築基準法との比較被害状況
耐震等級3(16棟)基準*1.50倍相当無被害:14/16棟 、軽微・小破:2/16棟
耐震等級2(2棟)基準*1.25倍相当無被害:1/2棟 、軽微・小滅:1/2棟
耐震等級1(1棟)基準*1.0軽 微:1/1棟
熊本地震における住宅性能表示制度を活用した住宅の被害状況

住宅性能表示制度(長期優良住宅では一般的に耐震等級2以上)を活用した木造住宅が19棟あり、そのうち、耐震等級3の16棟は14棟が無被害、2棟が軽微・小破、耐震等級2であった2棟は1棟は無被害、残り1棟が軽微・小破であったようです。

このことからも、耐震等級3(建築基準法の基準の1.5倍の建物の強さ)にする必要性が高いといえます。

なお、住宅性能表示により耐震等級3を取得しないでも、仕様規定の計算(壁量計算)において、壁量を1.5倍以上にすることは可能です。

出来る限り地震被害を少なくしたいのであれば、耐震等級3は必須と考えていいと思います。

あとは、地震後の修繕の必要性が無くすためにも制振ダンパーを設置して地震力を減衰させるのがより効果的かと思います。それから、構造計算(許容応力度計算)を行い安全性を確認するのがおすすめです。

地震に関する参考書籍

こちらの書籍では、「なぜ新耐震住宅は倒れたのか」というタイトルで熊本地震で倒壊した住宅について独自に調査を行っています。

>>参考書籍
建築主などの建築に関して基礎知識が無い方々でも分かりやすく解説している書籍なので、手にとって読んでみて、これから自分が建築しようとしている建築物に構造的な問題がないか確認してみることをおすすめします。

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一部を紹介しますと、壁量が建築基準法の2倍以上としていた建築物はクロスにヒビが入った程度の被害で済んだそうです。

また、調査結果から耐震等級2で全壊(ここでいう全壊が罹災でいう全壊であれば50%以上の損傷等)、耐震等級3でほぼ無被害であることが分かったそうです。

さらに、直下率(建築基準法や住宅性能表示には規定がない)と言って、1階と2階が繋がっている柱・耐力壁の割合が低いと耐力壁の効きが悪くなり構造的なバランスが悪くなるとしています。

>>参考書籍
あわせてこちらの木造構造入門書を読むとより構造に関して理解が深まるはずです。

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今回の記事では、地盤に関しては言及していませんが、軟弱地盤である場合には、地震によって揺れが増幅して建築物への大きな被害が発生する恐れがあリます。
また、盛土地盤の場合には、想定以上の地震力によって擁壁が崩壊して、基礎が破壊される可能性があることにも注意が必要かと思います。
これに関してはまた後日、記事にしたいと思います。

この記事は、やまけん(@yama_architect)が書きました^ ^
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YamaKen都市計画(まちづくり)を通じて都市を美しくしたい人
【資格】1級建築士、建築基準適合判定資格者、宅建士など 【実績・現在】元役人:建築・都市計画・公共交通行政などを10年以上経験 / 現在は、まちづくり会社を運営:建築法規・都市計画コンサル,事業所の立地検討,住宅設計など