目次
壁量計算では2000年基準よりも必要壁量が増加
現在の2000年基準に基づく壁量計算(地震力)の考え方です。
新しい基準では、次のような計算式(Lw)または表計算ツール、もしくは早見表を用いることになります。*柱の小径も同様です。
荷重の実態に応じて算定することでより確度(確かさ)の高い必要壁量を算定することができるようになります。
Lwの算定方法以外の簡略化した算定方法として、表計算ツール(Excel)または早見表から算定することができる見込みです。
これらの簡略化した算定方法についてはすでに算定案が公表されており、これを用いて壁量計算(後述する柱の小径計算を含む)を行うことが可能です。
*表計算ツールの公開先:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000166.html
壁量算定の確度(確かさ)からいえば、Lw算定>表計算>早見表となります。
なお、簡単に計算してみたところ、ZEH水準であれば表計算ツールと早見表の結果はほぼ同一の結果となるようです。普段からルート1計算に慣れている方でなければ、計算簡略化のため早見表を用いるのが楽かなという印象です。
2000年基準との比較
ここでは、早見表を用いて新基準と旧基準の壁量を比較してみました。
木造(軸組工法)2階建ての住宅(瓦屋根、窯業系サイディング、非軟弱地盤)
・2階部分の床面積50㎡
・1階部分の床面積100㎡
まずは2000年基準(旧基準となる予定)により必要壁量(地震力)を算定します。
階の床面積に乗ずる数値(㎝/㎡)は、1階で33、2階で21となります。
・1階に必要な耐力壁の量(X方向・Y方向それぞれ)
100㎡*33㎝/㎡*1.0=3,300㎝(33m)
・2階に必要な耐力壁の量(X方向・Y方向それぞれ)
50㎡*21㎝/㎡*1.0=1,050㎝(10.5m)
今回の改正では、地震力に対する床面積あたりの必要壁量は次のように変更となります。
瓦屋根・窯業系サイディング:2階建て
【1階】 床面積に乗ずる数値 (㎝/㎡) | 【2階】 床面積に乗ずる数値 (㎝/㎡) | |
---|---|---|
旧基準 | 33 | 21 |
新基準 | 37 | 32 |
2025年の新基準で算定します。
階の床面積に乗ずる数値(㎝/㎡)は、早見表から1階で37、2階で32となります。
・1階に必要な耐力壁の量(X方向・Y方向それぞれ)
100㎡*37㎝/㎡*1.0=3,700㎝(37m) →増:4.0m
・2階に必要な耐力壁の量(X方向・Y方向それぞれ)
50㎡*32㎝/㎡*1.0=1,600㎝(16m) →増:5.5m
以上から、必要壁量が増加していることが分かります。
ガルバリウム鋼板などの軽い屋根でかつ金属板の軽い外壁の場合を想定して、早見表から「階の床面積に乗ずる数値」を拾い出してみました。
ガルバリウム鋼板・金属系板:2階建て
【1階】 床面積に乗ずる数値 (㎝/㎡) | 【2階】 床面積に乗ずる数値 (㎝/㎡) | |
---|---|---|
旧基準 | 29 | 15 |
新基準 | 29 | 23 |
以上から、1階部分に乗ずる数値は同一ですが、2階部分では新基準の方が大きい結果となりました。
補足:準耐力壁を存在壁量に加えることが可能に
なお、今回の基準から雑壁(準耐力壁)についても一定の条件下で壁量に加えることができるようになる予定です。
このため、既存建築物でも極端な壁量不足となるような事案は少なくなるとは思いたいですが、、、旧基準の建物で通常の建物よりも荷重の大きい建物の場合には新基準を満たないケースが出てくる可能性は否定できないです。
なお、国では、改正法にかかる質疑応答集において基準強化ではなく「基準の精緻化(より極めて詳しく細かいこと)」を図ることが目的としています。ただ、必要壁量に対して存在壁量が基準ギリギリの場合には新基準を満たさないだろうと考えられます。
ケースバイケースではあるものの荷重の重い建物は必要壁量が増加するため、一般の消費者に分かりやすくお伝えするとすれば耐震基準の強化となります。
これからは2025年4月基準が最新の基準となります。
*個人的には賛成です。
次に平屋の場合です。
平屋のケース
平屋の場合にも同様に必要壁量が増える見込みです。
【瓦屋根・サイディング】 床面積に乗ずる数値(㎝/㎡) | 【金属屋根・金属板張】 床面積に乗ずる数値(㎝/㎡) | |
---|---|---|
旧基準 | 15 | 11 |
新基準 | 23 (床面積100㎡で8m増) | 16 (床面積100㎡で5m増) |
今回の算定方法は早見表を用いて比較したため、実態の荷重を反映した確度の高い算定方法よりも安全側の数値となっていると考えられます。
2025年3月以前に建築した既存建築物が新基準を満たすかどうかは荷重実態を踏まえたLwの算定により検証するのが良いかと思います。
柱の小径計算の改正
柱の小径についても同様に実態に応じた算定か、早見表の活用または表計算ツールを使うことになります。
表計算ツールを軽く触って見ましたが、瓦屋根の2階建てで1階部分で120㎜、2階部分で105㎜という結果でしたので従来の基準とあまり変わらないように思います。
関連記事
当初の予定では多雪区域で積雪荷重を考慮する関係上、瓦屋根や土壁等の場合には柱の小径が135㎜以上になるのでは?と考えていましたが、積雪荷重は考慮されないことでほぼ従来どおりかと思われます。
また、住宅性能表示(耐震等級2・3)の算定にあたっても積雪荷重は考慮しないとする方針が国から示されています。
補足:壁量計算で可能な建物は縮小
従来は500㎡以下・2階以下の木造であれば壁量計算でも足りていたものが、床面積の基準が引き上げられ、300㎡以下となります。
このため、例えば、木造平屋であっても300㎡超となれば構造計算(許容応力度計算:ルート1)が必要となります。
逆を言えば、壁量計算・バランス検討等でOKな規模は、木造2階建て以下、床面積300㎡以下、高さ16m以下に該当するものに限られることになります。
ただし、従来は高さ13m超は構造計算が必要となりましたが、今回の改正により16m超にあらためられます。
二級建築士の業務範囲も拡大することになるため木造普及という面では良い改正なのではと思うところです(2025年4月施行予定)。
関連記事一覧
その他・耐震等級について
耐震等級2や3を取得するための壁量計算・柱の小径計算についても2025年4月から新基準が適用されます(長期優良住宅へも影響)。新たな算定方法の考え方の方針はすでに公表されています。
こちらについても支援ツールを整備するとしているので今後、情報が公開されましたら当ブログでも発信していく考えです。
いずれにしても、新基準に対して1.25倍(等級2)、1.5倍(等級3)が適用されます。
ですので、これから住宅設計(耐震等級2・3を取得予定の建物)を予定している設計者の方は、お客さんが2025年4月基準の情報をメディアから得たあとに再設計とならないようあらかじめ新基準にて安全側に設計しておいた方が良いかなと思います。
経過措置が設けられる予定
令和5年12月に国が公開した資料によると1年程度の経過措置期間が設けるとしていますので、2026年3月ごろまでは旧基準で設計してもOKというような流れになりそうです。
あくまでも”検討をしている”なので確実ではありませんので注意が必要です。その際、準耐力壁を加えるなどの良いとこ取りなどは不可となる予定。
また、新基準を満たさない建築物については既存不適格建築物になることが考えられますが、これについても考え方を整理するとしています(質疑応答集)。
ということで以上となります。
今後、建築設計に必要な情報が新たに公開されましたら情報をアップしていく予定です。今後とも当ブログをよろしくお願いいたします。