先日、Yahooニュースで次のようなタイトルを見かけました。
「佐賀県、道路判定誤り住民に1200万円賠償 擁壁工事やり直し」
*引用:毎日新聞 令和6年3月28日19:13分配信
内容としては、、、
・佐賀県東部土木事務所(鳥栖市)が建築基準法第42条第2項道路の判定を誤ったとするもの。
・当初は「道路扱いしない」であったが、近隣住民の指摘を受け再判定を行い2項道路となった。
とするものです。
県建築住宅課によると、2022年10月、東部事務所が建物を新築する住民からの依頼を受け、建物に隣接する幅員4メートル未満の道路を判定。
引用:毎日新聞(https://news.yahoo.co.jp/articles/f38d07210d8bf3a41a450ef2142df3cec4e6c120)
本来であれば建築基準法第42条第2項に規定された「2項道路」と判定すべきところを「2項道路ではない」と判定し、回答した。
2項道路は、道路の中心から2メートル以内に擁壁を設置できないが、東部土木事務所の回答を受け、住民は2メートル以内に擁壁を設置した。
しかし、同年12月に近隣住民からの指摘を受け、都市計画区域に編入された時点の状況を確認したところ、2項道路に該当することが判明。
擁壁の撤去や再工事、建物の再設計の負担が生じたため、24年3月27日に賠償金を擁壁を設置した住民に支払った。
県は再発防止策として、道路判定時のチェックリストに道路整備時期の確認を義務づける項目を追加した。同課は「同様の事案が発生しないよう再発防止に取り組む」としている。
この記事を読んだ限りでは、次のようなケースだったのではと考えられます。
おそらく当初道路判定を依頼した方は建築基準法上の道路に接しており、なんら問題はなかったが、隣接する4m未満の道については建築計画上、建築基準法上の道路の取り扱いを定める必要があったため佐賀県に対し道路協議書を提出し、佐賀県では「建築基準法上の道路扱いをしない」とする判定を行った。
このことから、当該土地の所有者は4m未満の道路境界線沿いに擁壁等を築造したものと考えられます。また、佐賀県が道路判定を行った際には、当該4m未満の道のみを利用する建物は2軒以上なかったものと考えられます。
ところが、おそらくですが、当該道(道路扱いしないとした道)に接する土地の地権者が「昔(昭和40年代)は建ち並びがあった」と佐賀県に対し指摘したことで、再判定が行われ、今回のような擁壁等の撤去等で賠償費が支払われることとなったと考えられます。
なぜ2項判定誤りの事案が起きるのか
この記事を読んだ方の中には「現代でも2項道路の指定を行っているの?」と疑問をお持ちになったのではないでしょうか。
2項道路については、近年(遅くても平成22年)までは、一括指定と言って「都市計画区域内で幅員1.8m以上4m未満」の道(一般的には公図上の道や公衆用道路)については一律に2項道路としていた期間がありました。
建ち並びの有無は別です。自治体によっては”建ち並びがある道”を包括的に指定していました。
概ね建築基準法制定時から概ね平成10年代後半ぐらいまで。これ以降は一件審査のため、現代の建築行政の仕事といえば、道路調査・指定と言ってもいいくらいです。
一括指定は、どこの自治体(特定行政庁)でも行っていた手法で、当時は戦後復興・高度経済成長期で人口増と住宅着工が大きく伸びていた時期です。そのような中、江戸時代の名残として残る無数の幅員4m未満の道の判定を厳密かつ一件毎に指定を行う体制の確保は難しかったものと思います。
加えて、現代と異なり2項道路に接していてもセットバックしない違法建築が常態化していました。過去も建築計画概要書や申請書の副本を見ると配置図に2項道路と書いているのにセットバックしていないのはこのためです。
また、市街化区域であれば一律に2項道路に指定したとしても不利益よりも宅地利用による利益の方が大きいので問題にならなかったのだと思います。
ところがです。
少しづつこの一括指定のあり方に疑問を持つ住民(2方向に接しており2項道路によるセットバックの不利益を受ける地権者)による裁判が起きるようになります。
過去判例で2項道路を調べると数多くの事例を読むことができますが、判例では一括指定による2項道路の判定が誤りであるとされたケースが多く出てきます。
そして、国では、平成19年に2項道路指定の考え方や公表のあり方などを整理した「建築基準法道路関係規定運用指針の解説」を公表・自治体へ通知し2項道路の指定に対する厳密性が強化されました。
さらに、平成22年には省令(指定道路台帳の整備・公表)が改正されたことで事実上一括指定は廃止されています。
現代は、建築や不動産売買の前に2項道路としての要件があるのかどうか厳密に調査が行われます。一件個別審査による方式です。
ですので、現代では過去に一括指定とした道路について再建築の際に道路判定が行われるようになり、その際に厳密に2項道路の要件があるかどうかの調査が行われています。
このため、道路の再判定を行う過程で判定誤りが起こる可能性があります。
2項道路の指定要件・指定道路台帳についてはこちらの記事をご覧ください。
今回の事例のポイント
今回の事案も当初は一括包括指定により2項道路であったものと推測できます。
しかしながら、おそらく当初建築の際に当該道路に接する敷地ではセットバックを行わなかったものと考えられ、現代になって再建築の際に相談したところ、建ち並び(当該道のみを利用する2軒以上)がなくなっていたことから、2項道路の要件を欠いていると判断され「建築基準法上の道路扱いをしない」になったものと考えられます。
ところが、おそらくその道に接する地権者から2項道路にしてもらわないと困るということで、過去(基準時である都市計画区域への編入時)には建ち並びがあったと主張したのだと思います。
接道が取れている敷地か否かで地価が大きく変わってくるため、セットバックしていない建築工事をみて慌てて佐賀県に対して指摘したのだと考えられます。
住宅建築の工程上、最後に工事を行うことが多い塀等の外構工事のときに指摘したことで、撤去・再工事をせざるを得なくをなったことから賠償というかたちになったものと思います。
そもそもは2項道路に指定されていたものだと思いますので、当時、この2項道路に接するすべての敷地でセットバックしていればこのような問題にはならなかったはずです。
セットバックしていれば、過去の経緯等を踏まえて現状で要件を欠いていても2項として指定したのではとは思います。
今回に至っては、
❶行政側で基準時(都市計画区域への編入時)での建ち並び状況の確認が漏れてしまったこと。
❷現時点で建ち並びが消失していたこと。
上記が指定の際の判断を誤ってしまった。
とはいえですが、基準時に建ち並びがあったのかどうか古地図等(都市計画図や航空写真)を用いて判断するため判断が難しい場合もあったりします。
加えて、幅員が1.8m以上あることが前提となるため、当時の幅員を知るすべがないケースもあるので行政側も難しい判断が求められている状況です。
更地として何十年も放置されている土地や道の形態がほぼ消失しているケースであれば現状判断のバイアスがかかるのも事実です。
過去判例を読むと基準時点での建ち並びを指定要件の一つとして重要視していますが、実務的には現状でも建ち並びがあるのかどうは、指定の際の考え方として重要だったりします。
*現代の2項道路指定については、一件審査のため過去判例や現状、過去の建ち並びを踏まえて特定行政庁が指定を行っています。
まとめ
・基準時(都市計画区域への編入時)の建ち並び(2軒以上)の確認を怠ったこと。
・現状での建ち並びから2項道路に指定する必要性は低いと判断した可能性。
2項道路指定の最終判断は特定行政庁のため地域によって判定方法が異なることもあります。
幅員1.8m以上4m未満の道に接している土地の場合には、今回のように後々に覆る可能性もあるので不動産売買時や新築計画時には十分な調査・役所協議が重要となります。
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