この記事では、令和2年9月に施行された改正都市再生特別措置法のうち、立地適正化計画に規定された防災指針について、自治体職員を悩ますこちらの計画作成を勝手に簡単に解説した記事ですwW もしかしたら自治体担当者を悩ますかもしれないので読まない方がいいかもしれません。
こんにちは!やまけんです。
建築や都市計画、不動産などの業務に役立つ情報を発信している元公務員ブロガーです。
「コンサルタントなのに、今回の記事書いたら受注機会が減っちゃうんじゃないの?」と思うかもしれませんが、わたしは身体一つしかないので、出来ることが限られているのでご安心くださいw
それよりも、建築・都市計画に関する技術者不足の町や村職員の方が”とりあえずやりました感のコンサルタント”に税金を詐取されて欲しくないのでこの記事を書いている理由もあります。
”こうした考え方”で防災指針の作成を進めていけばいいんだと思ってくれれば幸いです。なお、そもそもの『防災指針』ってなんなの?と思った方はこちらの2つの記事を読めば理解が深まるはずです。
注)防災指針の作成の手引きを一度はご覧になっていることを前提に書いているので、この記事を読む前に国が公表している『防災指針作成の手引き』をダウンロードして読んでください。
目次
誰でも作成できる
おそらくですが、わたし以外にも行政職員やコンサルタントの方は気付いていると思いますけど、この計画は無難につくることは可能です。
災害リスク分析を行った上で避難を前提としたまちづくりを進めるとして、従来どおり居住誘導区域を設定すれば完了です。
誰も傷つかないで計画をつくるにはこの方法が一番です。
確かにそれでもいいのかもしれないですし・・・担当者としてはそこまで時間をかけたくはない、その気持ちは私も以前、都市計画を担当していたことがあるのですごくわかります。
私が担当なら楽な道を選びそうです・・・( ´△`)
でも、果たしてそれでいいのか?!と悩む気持ちもあるはずです!たぶん・・・w
おそらくこの記事を読んでいるということは、少なくとも従来通りに無難につくるのはよくないのではないかと心の片隅で感じていて、少しでも防災対策になる試みができないか考えた結果じゃないでしょうか。
防災指針の作成方法
防災指針とは、法律においては『居住誘導区域にあっては住宅の、都市機能誘導区域にあっては誘導施設の立地及び立地の誘導を図るための都市の防災に関する機能の確保に関する指針』とされています。
つまり、”誘導区域”の災害リスクの防災力の強化(リスクの低減・回避)のための都市づくりの指針です。
がしかし、都市計画運用指針にも記述がありますが、立地適正化計画自体は都市計画区域を対象としていますので、誘導区域外の区域(市街化調整区域や非線引き区域)のリスク評価を行なった上で都市全体を俯瞰しながら、都市全体の防災力を向上・改善していくことが防災指針の本質であり目的だと思います。
こんなこと言うと怒られそうですが・・・
- ぶっちゃけ、、、国から交付金を受けるために適当につくってしまってもいいんですけど、そんなのタダの紙切れとなり無価値計画で誰も見ないし、計画に基づく施策なんてもは何一つ実行されません。
- 少なくとも絶対にこの都市機能誘導区域を死守するんだ!って地域くらいはつくった方がいいと思います。災害が起きても守るエリアだけは決めておけば地域住民や企業にとって拠り所になります。
防災指針策定の手引きには記載がありませんが、国としては、地域ごとに『災害からいかに早く立ち直るのか』、『そもそも災害を受けない地域にするのか』などを選択し、都市の将来のあり方を示してくださいませってことです。
災害が起きる度に毎回、莫大な復旧予算を使っていられないのは誰もが分かりますよね・・・だからこそ、都市ごとにリスクヘッジを考えていこうということです。
てか、災害が起きてから日常に戻るまでの時間に要する費用と時間は社会全体の損失です。
では、ここから具体的に策定する際の留意点を書いていきます。
防災指針作成フロー
※出典:立地適正化計画策定の手引き(国土交通省)を一部編集
災害リスクの分析
ほとんどの都市で立地適正化計画をすでに策定しているか、または策定中であると考えられますが、防災指針の策定においては、『都市が抱える課題』に防災上のリスクを踏まえる必要があることから、改めて課題から検討する必要があります。
とは言っても検討する項目としては、災害リスク情報と避難施設を都市計画図・誘導区域図に落としてみて、どの地域においてリスクが高いか、また被害程度などを分析するくらいだと思います。この作業自体は、GISにリスク情報が入っていれば容易に検討可能ですが、GISなどの設備が整っていない場合は業者に委託するしかないと思います。
大切なポイントとして、多くの都市では河川流域沿いに発展したきたはずなので、誘導区域から除外するのは難しいと前提に考える”はず”ですが、まずはその考えを一旦置いてみましょうって話です。というのも、誘導区域から除外は困難だろ?という前提で将来像を描くと妥協計画となってしまいガチです。
では、災害リスク分析についてです。
一般的に考えられる災害リスクは13種類ありますが、都市ごとに指定状況が異なるので注意してください。(洪水浸水想定区域については作成中の都道府県が多いと思います)
区域 | 根拠法令 | 都市計画運用指針における居住誘導区域設定の考え方 | |
---|---|---|---|
レッドゾーン | 災害危険区域(住居系) | 建築基準法第39条第1項 | 法第81条第19項の規定により除外 |
土砂災害特別警戒区域 | 土砂災害防止法第9条 | 法第81条第19項の規定により除外*令和3年10月1日施行 | |
地すべり防止区域 | 地すべり等防止法第3条 | 法第81条第19項の規定により除外*令和3年10月1日施行 | |
急傾斜地崩壊危険区域 | 急傾斜地法第3条 | 法第81条第19項の規定により除外*令和3年10月1日施行 | |
津波災害特別警戒区域 | 津波防災地域づくり法 | 原則として含めない | |
イエローゾーン | 土砂災害警戒区域 | 土砂災害防止法第7条 |
災害リスク、警戒避難体制の整備状況、災害を防止し、又は軽減するための施設の整備状況や整備見込み等を総合的に勘案し、居住を誘導することが適当ではないと判断される場合は、原則として含めない |
津波災害警戒区域 | 津波防災地域づくり法第53条第1項 | ||
洪水浸水想定区域 | 水防法第14条 | ||
都市洪水想定区域 | 特定都市河川浸水被害対策法第32条第1項 | ||
内水出水浸水想定区域 | 水防法第14条の2 | ||
都市浸水想定区域 | 特定都市河川浸水被害対策法第32条第2項 | ||
高潮浸水想定区域 | 水防法第14条の3 | ||
その他 | 津波浸水想定 | 津波防災地域づくり法第8条第1項 |
▶️災害リスクに関するレッドゾーン等の詳細についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
この区域(津波浸水想定を除く。または洪水系想定)のリスクをそれぞれ考えてみます。
表 災害リスクごとの発生確率・被害程度
災害危険区域 | 土砂災害特別警戒区域・地すべり防止区域・急傾斜地崩壊危険区域 | 津波災害特別警戒区域 | 土砂災害警戒区域 | 津波災害警戒区域 | 浸水想定区域(計画規模) | 浸水想定区域(想定最大) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
発生確率 | 低〜高 | 高 | 低 | 高 | 低 | 中〜高 | 低 |
被害程度 | 小〜大 | 大 | 大 | 中 | 中 | 浸水深によって異なる | 浸水深によって異なる |
備考 | * 発生頻度や被害程度は、指定された災害の種類によって異なること。また、自治体の条例により規制する建築物の用途等が設定。 | *1 毎年指定地域が増加しているため注意が必要 | * 発生確率は低いものの、破壊力が高い | *1 に同じ | * 指定自治体は少ない | * 河川ごとに発生確率が異なるため注意 | * 家屋氾濫等倒壊区域は被害程度が大きい。 * 避難を前提とする場合は浸水継続時間にも留意 |
今回の防災指針で各都市が最も検討に時間を取られるのは、水害(洪水・津波)だと思います。
想定最大規模でまちのあり方を考えれば、ほぼ全ての区域が水没してしまう地域もあると思うので、浸水するからという理由で一律に誘導区域から除外するというのは合理的ではないですよね。だからと言って人命や都市インフラを疎かにすることはできない。
ほんと難しいと思います。
自治体ごとに財政状況も異なるでしょうから、一概に基盤整備で解決するわけにもいかない状況だと思います。
防災まちづくりの将来像
災害リスクを都市計画図などに落としてみると、リスクの高い地域とリスクの低い地域が分かり、そこに都市機能誘導区域と居住誘導区域を重ね合わせることで、地域ごとのリスクの程度が分かるはずです。
そこから”この地域”をどうするのか検討します。
どうするのかというのは、大きくは次の3つです。結局、低減か回避かそのまましかないのかなと思います・・・
- リスクを低減するのか
- リスクを回避するのか
- そのまま(現状維持)にするのか
おそらくですが、はじめに言ったようにこの防災指針を策定する上では、多くの都市で避難を前提とした都市づくりを行うはずです。
というのも悪い良いはどうか別にして、短期的には最もコストのかからない選択です。つまり、生命に関するリスクを回避するということです。
住民に対して説明がしやすいですし、リスクの大きい都市の場合には最良の選択かもしれません。
個人の財産権の及ぶような法規制(災害危険区域の指定)はかなり厳しいと言ったところだと思いますから、財産の保護を目的とした大規模な方針(防災集団移転や建築物の構造規制など)は打ちづらいと思います。
誘導区域設定の考え方(案)と取り組み方針
ということで、作成の手引きや運用指針を考慮すると次のように誘導区域等の設定が考え方の一つとしてありかなと考えています。全ての都市に当てはまるわけではないですが参考程度になれば幸いです。
リスク区域 | 居住誘導区域に含めるかどうか | 理由・補足 |
---|---|---|
災害危険区域 | 除外 | 法令において除外するとされているため、住宅系用途を有する建築物を制限している区域については除外 |
土砂災害特別警戒・地すべり防止・急傾斜地崩壊危険 | 除外 | 法令において除外 |
津波災害特別警戒区域 | 除外 | 発生頻度は低いものの、災害発生時においては破壊力の高さから都市機能を停止させる可能性がある。また都市計画運用指針においても原則除外 |
土砂災害警戒区域 | 除外 | 危険性は高くはないものの発生頻度は高く、また降雨時においては避難対象となることを踏まえ除外 |
津波災害警戒区域 | 含める | 被害程度は中程度であるものの発生頻度は高くはないことから、避難路や避難施設が周囲に確保されていることも持って含める。 |
浸水想定区域(計画) | 除外*1 | *1 浸水深0.5m以上の地域
発生頻度が中・高程度と高く、床上浸水となった場合には官民合わせて建築物の復旧に多大なコストが生じるため、床上浸水となるエリア(0.5m以上)は除外 |
浸水想定区域(想定最大) | 除外*2 | *2 浸水深3m以上の地域及び家屋倒壊等氾濫想定区域
発生頻度は低いものの、万が一発生した場合には垂直避難可能な3m未満(2階建て住宅や避難施設が周囲にあることが前提)を誘導区域に含めるが、3m以上や家屋倒壊等氾濫想定区域は避難な困難となる可能性があることから除外。 |
上記の誘導区域の設定の考え方を踏まえて、地域ごとにリスクを低減・回避する方針を立てるのが、防災まちづくりの将来像と取組方針の検討の大事な部分です。
国では、次にような取組方針のイメージをつくっていますので、参考になると思います。
※出典:立地適正化計画策定の手引き(国土交通省)
具体的な取組及びスケジュールなど
前述の『取組方針』が決まれば、あとは方針に基づく災害リスクを低減・回避等を行う取り組みを記述するとともにスケジュールを記載するだけです。
この最後の検討については、容易に可能だと思ったので説明は省略します。
なお、既にに立地適正化計画を策定していて、防災指針を追加することにより新たに目標値を設けるべきかどうかは具体的に書いてはいませんが、防災指針を策定する以上は、やはり目標値を設けた方が誘導施策を立てる意味が生じるので追加した方が無難なような気がします。
(目標値を設けないと、各種施策の実行に対する評価が為されない可能性が高く、タダの計画どまりになりそうです。)
結局、自分達の都市をどうしたいか
気候変動によって、今後降雨量変化倍率は約1.1倍※に増加することが考えられています。
※気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について ~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な「流域治水」への転換~ 令和2年7月 社会資本整備審議会
おそらくですが、毎年度、水害の恐怖に見舞われるとともに、東日本大震災のような地震・津波もいつか必ず来ることが分かっている中では、早期に都市の安全策を図っていくことが必要な状況ですよね。
当然、人命救助が第一になると思いますが、都市のインフラやエッセンシャル施設(日常生活に必要不可欠な施設)が壊滅的な被害を受けることで日常生活に大きな支障を来すことがないようにすることも大切なポイントだと思います。
ですから、次にように戦略を勝手に考えてみました。
なお、市町村内に複数の拠点がない場合は同じ都市計画区域の単位で立地適正化計画を策定することが前提。というのも、一拠点都市はその拠点機能が損傷を受けた際の復旧が大きく遅れるので、できる限り複数拠点を持ってリスクヘッジした方がいいです。
- 人命を最優先に避難路や避難施設を整備する。
- 発災後の早期復旧や最小限の都市機能維持のために必要な計画を描いておく。
- 災害を受けにくい都市機能のエリアを数拠点構築する。
- 拠点ごとに災害リスクを分散・負担させる。
正直、地震や風については建築基準法が守ってくれますが、それ以外の災害リスクについては守ってくれないので、ポイントは水害(洪水・津波・高潮)への対策だと思います。財産への影響を最小限とすることが求められるはずです。
例えば、5年間は、①災害リスクが高い地域の避難体制を確実なものにし、②都市機能誘導区域の安全対策(上流部の河川整備、雨水貯留施設の整備、建築物の浸水対策)に投資を行って地域内のリスクを低減・回避、③これらを市町村内に2拠点以上整備する。その上で、居住誘導区域外の災害リスクの高いエリアから居住誘導区域内のリスクの低いエリアへ移住を促す施策を行う方法もあるのかなと思います。
ですから、地域内での不公平感を無くすためにも、現状だけ捉えて移転を促進する区域を明示するよりも、誘導に視点をおいて、災害リスクの低いエリアの構築に目を向ければ、無意味な各論反対者を抑えるとともに、都市機能の集積・維持にも貢献し、結果的にコンパクトシティの形成を推進できると考えられます。
まとめ
東日本大震災では仙台で被災し、令和元年東日本台風では建築士として協力した身としては、災害リスクを極限まで低減させるべきものだと考えています。特に都市機能が集積する中心部では、地震や水害で都市機能が停止しないように都市を再構築するのが次の時代でも生き残る都市のあり方だと思います。
すでに都市機能が集積している地域で津波や水害により都市機能が停止する恐れがある場合は、治水対策でリスク低減を図ることが現実的ではないと判断するのであれば、リスクが低い地域への遷都も選択肢として持っておいてもおかしくはないと思います
・・・こんなこと言うと、絶対に無理だからと言う人がいますけど、本当にそうかなと過去の歴史を見て思いますw
(個人的考え)
木造建築物の場合は、床上浸水となった場合の被害は甚大です。床を解体し、汚泥を取り除き、床組をやり直し、汚水を吸収した1階壁は全て撤去、電気設備もやり直しです。居住者が多い木造建築物の被害を受けることで、日常生活に戻るまでの期間中の行政コストが増大します。(中には、住宅建築が促進されて結果的に市場が活性化すると考える人もいる・・・)
ですから、防災指針の策定に合わせて流域治水を行っても被害が発生してしまう地域は居住誘導区域から除外することもやむを得ないと考えます。
ということで以上です。防災指針作成の参考になれば幸いです。