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【原則:2直と竪穴】大阪北区火災と京アニ火災を踏まえた建物改修ガイドラインが公表

2022年12月16日(金)に国土交通省から『大阪市北区ビル火災を踏まえた火災安全改修に関するガイドライン(外部リンク)』が示されました。

令和3年12月に発生した建物火災で階段付近でガソリンを用いて放火。発生源が避難階段に近傍していて、避難経路が塞がれたことで避難することができずに多くの死傷者(容疑者を除いて死者:26名)を出してしまった事件で、建物は現行法では2以上の直通階段が求められるものの1969年に建築された建物のため既存不適格建築物として直通階段が1のみだったという状況です。

ガイドラインはあくまでも任意の指針なので、法令上の拘束力がありませんから気にする必要はないでしょと思いたくなる方もいると思いますが、ガイドラインでは直通階段の設置が求められる建築物で2直の要求がなくても大原則して2以上の直通階段の設置が必要という考えに至っているので、建物オーナーや設計者は気に留めておく必要がありそうです。

また、このガイドラインの沿った改修が令和5年度に予算化される予定となっています。

ということで、前置きが長くなってしまいましたが、この『大阪市北区ビル火災を踏まえた火災安全改修に関するガイドライン』の内容についてちょっとだけ触れていきたいと思います。




ガイドラインのポイントは2つ

ガイドラインを読むとポイントは2つです。

  1. 【2直】直通階段の設置が求められる建築物は2方向避難の原則(2以上の直通階段の設置)
  2. 【竪穴区画】直通階段の竪穴区間が要求されない建物でも竪穴・防煙区画の原則

つまり、2以上の直通階段要求(建築基準法施行令第121条第1項)が無い建築物で建築基準法施行令第120条(=施行令第117条第1項の建築物)でも、原則として2方向避難できるようにすることが望ましいということと、

内部直通階段を防火区画していない建築物(ロ準耐火建築物やその他建築物など、施行令第112条第11項などの適用を受けてない建築物)についても、直通階段とその他の部分は防火区画することが望ましいですね。ということ。

ではどのように書かれているのか、ガイドラインをもとに解説していきます。

とその前に、ガソリン火災の危険が分かる資料が消防庁の資料から読むことができるので抜粋を載せておきます。

火災発生からわずか1分程度で部屋に煙が充満していることが分かりますよね。しかも火災発生源は避難階段の位置。これで逃げるなんて絶対に無理でしょと言いたくなります。

本当に亡くなられた方にはご冥福をお祈りします。

資料:大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会*出典:消防庁(https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/post-109.html

2方向避難の原則

ガイドラインにおける対象建築物として、次(青枠)のように書かれています。

なお、そもそも、直通階段の設置が必要な建築物って何?と疑問に思われる方もいると思いますので、不明な方はこちらの記事も併せてご覧ください。

直通階段の設置が必要となる建築物等は、特殊建築物(1〜4項)、3階建ての建築物、採光無窓の階、延べ面積1,000㎡の建築物

避難階以外に居室がある建築物は直通階段の設置が必要になります。

一般的な2階建ての戸建て住宅であれば直通階段の設置は不要ですが、3階建てのオフィスビルでしたり、2階建ての店舗・飲食店などは直通階段の設置が必要となります。

(1)現行基準においては規模・用途等に照らして2以上の直通階段の設置が求められるものの、新築当時には2以上の直通階段(※)の設置を求められていなかったために直通階段が1の既存建築物(建築基準法施行令第121条第1項の規定について既存不適格である建築物)

(2)現行基準においても2以上の直通階段の設置が求められない規模・用途等に該当するため直通階段が1の建築物
※ 「直通階段」とは、地上又は避難階(地上に通ずる出入口を有する階)に、居室等を介さず各階から直接通じているものを指し、エスカレーターやエレベーターは含まない。
なお、(2)はガソリンによる火災など火災進展が極めて速く延焼の急拡大が想定される特殊な火災への対策を含め、現行基準において要求される水準よりも建築物の火災安全性を向上させる改修についても推進する観点から対象に位置付けるものである。

既存不適格建築物については、原則として違法ではないものの増築等を行えば原則として遡及適用されるので(1)は簡単に理解できます。

ところが、(2)については、本当!?と思う方もいると思います。

つまり、悪質な犯罪者に対抗するために建築物も最低限の設備のグレードをあげようということ。

詳細は不明ですが、ガイドライン策定して改修補助金をつくって改修率が上昇してくれば政令改正ですかね。仮に次同様な事故・事件が発生すれば間違いなく即刻政令改正でしょう。

政府としては、令和5年度予算案に既存建築物の火災対策改修支援が計上されているので、来月からはじまる通常国会で成立すれば、令和5年度以降オーナーさんも改修しやすくなるはずです。
>>>国土交通省令和5年度概算要求(https://www.mlit.go.jp/page/kanbo05_hy_002899.html)

では、話を戻しまして、

改修方法として次の3つが提示されています。原則は❶または❷です。

ガイドラインで改修工事の実施が求められる3つの改修方法
  1. 直通階段の増設
  2. 避難上有効なバルコニーの設置
  3. 退避区画(不燃・遮煙防火設備・準耐火構造等)の設置

改修方法❶:直通階段の増設

基本的な考え方として、”敷地に一定のゆとりがある場合は”とされていますが、直通階段を増設する方法となります。

内部・外部の別はないので、既存に設置するのであれば屋外階段になります。

ガイドラインには重複距離に関しての特段の記載はないのですが、既存の直通階段とは一定程度離隔した別方向の位置にとされています。

対象建築物の敷地に一定のゆとりがある場合は、既存の直通階段の位置と一定程度離隔した別方向の位置に直通階段を増設することが考えられる。増設する直通階段は、当該建築物の各階へと直接接続することが望ましい。

『直通階段が一つの建築物等向けの火災安全改修ガイドライン』第一第2項第1号

現実的には既存不適格建築物に屋外階段を増設するのであれば構造一体は無理なので、エキスパンションジョイントで設置する形ですね。

2階建てであればなんとかなりそうですが、3階以上ですと各階のどこの位置に外扉を設置するのか、避難経路と構造的・意匠的な取り合いで検討が難しいそうです。

改修方法❷:避難上有効なバルコニーの設置

改修方法❶同様に”敷地に一定のゆとりがある場合”とされています。

避難上有効なバルコニーとは3階以上の共同住宅に住んだことがある方であれば見たことがあるかも。バルコニーから避難ハッチを開けて梯子をおろして下の階に避難する方法となります。

なお、ガイドラインでは、”各階に可能な限り設置することが望ましいが、他方、時間的・ 費用的な負担等から実施可能な改修内容が限られる場合は、当座、実施可能な階に優先的に設置することも考えられる。”とされているので、一応は柔軟に対応できるようになっています。

とはいえ、改修方法❶の直通階段の設置のように、どこの位置にバルコニーを設置するかで悩むところ。

2階建てであれば悩む必要は少なそうですが、各階で外扉の設置位置を揃えないとバルコニーが大きくなり過ぎでしまうので、容易にはいかないかなとも思います。

改修方法❸:退避区画の設置

改修方法❶の直通階段の増設、改修方法❷の避難上有効なバルコニーの設置が困難とされる場合に設けるもので、最もコストが低く抑えられて現実的かなと思います。

内容として細かく規定されているのですが、消防庁さんの方で図解(避難行動込み)で説明しているので、こちらの図をご覧ください。

直通階段が一つの建築物向けの避難行動に関するガイドライン*出典:消防庁(https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/221216_yobou_639.pdf

ポイントしては、既存の直通階段が設置されている方向とは別の方向に退避して消防が救助に来てもらうための区画を設けるとするものです。

区画する壁・戸は、準耐火構造・防火設備(遮炎性能、遮煙性能、常時閉鎖式、自動閉鎖式、煙感知器連動の随時閉鎖式)とすることが求められます。

このほか、消防が救助に来た際に助けるための救助口(建築基準法施行令第111条第1項第2号の幅75㎝、高さ1.2m以上等)を設ける必要があるほか、地上に降下するための避難器具の設置が必要となります。+わかりやすい場所への退避区画の明示です。

実際の火災があれば直通階段(改修方法❶)の方が避難しやすいとは思いますけど、商業ビルが多い地域では建蔽率がほぼ80〜90%近くで建築されていて現実的にスペースの確保が難しいかと思いますので、この❸による方法が現実的ではと思います。

従来から3階建て以上の建築物には非常用進入口の設置が求められていましたが、急激に延焼が拡大するガソリン火災に対しては消防隊が駆けつける前に逃げてってことなんだと思います。

竪穴区画の設置

前項で解説した2以上の直通階段に加えて、このガイドラインでは次のように、直通階段の設置が必要な建築物について、竪穴区画(防火区画の一つ)の設置が必要と、対象建築物を明示しています。

(1)現行基準において規模・用途等に照らして直通階段等の竪穴部分の防火・防煙 区画化が求められるものの、新築当時にはこれらの措置が求められていなかった既存建築物(令第 112 条第11項等の規定について既存不適格である建築物)
(2)現行基準において直通階段等の竪穴部分の防火・防煙区画化が求められない規模・用途等に該当する建築物
なお、(2)はガソリンによる火災など火災進展が極めて速く延焼の急拡大が想定 される特殊な火災への対策を含め、現行基準において要求される水準よりも建築物の 火災安全性を向上させる改修についても推進する観点から対象に位置付けるもので ある。

既存不適格建築物については、現行法に適合させるようにする(対象建築物の規模・用途等に応じて、令第112条第11項、第12項、第13項、第19項第二号)というには分かりますが、対象建築物の(2)については、現行法で竪穴区画が求められていない建築物についても準耐火構造の壁・防火設備(遮煙)で竪穴区画することが望ましいとされています。

これまたガソリンを使った事件である京アニ火災を受けてとのことかと思います。
※京アニの被害を受けた建物はロ準耐火建築物といって、竪穴区画の設置が求められていない建築物であった。

この事件でも1階での火災が防火区画されていない直通階段を通ってあっという間に建物全体に煙が充満してしまい多くの方が逃げ遅れて亡くなってしまいました。

火災があった場合に自動閉鎖する竪穴区画の設置は必要不可欠であったのは事実かと思います。

特に3階建てロ準耐火(事務所に多い)は竪穴区画が不要なので、仮にガソリンを撒かれるような火災があると2・3階からの避難は現実的に不可能に近いですから、直通階段の設置が求められるような建築物は竪穴区画が必要ですね。

ガイドラインの入手方法

このガイドラインは、国土交通省と総務省消防庁の共同所管となっており、国交省公式ページから確認することが可能となっています。

>>>国交省公式ホームページでのリンク先(外部リンク):https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000947.html

なお、同日付で総務省消防庁からは、『直通階段が一つの建築物向けの避難行動に関するガイドライン』が公表されています。防火対象物の管理等されている方は一読されることをおすすめします。>>>消防庁外部リンク(PDF)

まとめ

ポイントは、直通階段の設置が要求される建築物については、内部階段とする場合には竪穴区画を設けること。また、原則として2以上の直通階段を設置すること。

この2点です。

このガイドラインはあくまでも任意です。

国としては今後、誘導策の展開や、建物オーナーに対して周知・徹底を行っていくはずですが、現状では法的な拘束力がないですから守る義務はありません。改修しなくても罰則もありません。

このガイドラインを読んで今すぐに改修しようとはせず、国では、令和5年度予算として支援策を用意するとしているので、その支援策の詳細公表を待って改修検討に入るのが良いかなと思います。

具体的な支援方法も来月の通常国会以降にならないと詳細は分からないと思いますので、気になる方は定期的に国交省や消防庁の公式ページをご覧になることをお勧めします。

なお、このブログでも詳細な支援策が分かればリンク等貼りたいと思います。

それでは以上となります。いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。

個人的には、ガソリンによる通常の火災とは異なるとしても、これまでに多くの方が亡くなっているので、国民の人命が大事だと思うのであれば、直通階段が設置が必要となる建築物で1つでも内部階段とするものは全て竪穴区画や2以上の直通階段を義務化(政令改正)してもいいのでは?と思います。

増税するにしても、こうした国民の命に直結するような施策に対して税金を使って欲しい限りですし、可能な限り支援していくことが大阪北区火災や京アニ火災で亡くなった方のためにもなるはずだと思います。

それではまた〜






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YamaKen都市計画(まちづくり)を通じて都市を美しくしたい人
【資格】一級建築士、一級建築基準適合判定資格者(建築主事)、宅建士など 【実績・現在】元国と地方自治の役人:建築行政・都市計画行政・公共交通行政・まちづくりなどを10年以上経験 / 現在は、地元でまちづくり会社を運営し、都市に関わるコンサルタントや住宅設計、執筆活動を行っています。