こういうこと言うと怒られそうですが、経営者や経営に関わる企画部門の方は市町村が策定しているまちづくり計画に対してあまり意識が向いておらず損しているなと思います。計画がより実効性の高い計画であればあるほど損している割合は高いです。
少しだけ都市づくりに関して意識を向けるとより稼げるんじゃないかな?と感じたので、都市づくりと深く関係する都市機能誘導施設について説明していきます。
こんにちは!やまけん(@yama_architect)です。
建築や都市計画に関する業務経験を活かしながら建築士や宅建士の役に立つ情報を日々発信している暇人です。
都市機能誘導施設とは?
※作成:やまけん 都市計画と立地適正化計画に係る誘導区域の関係(一般概念)
はじめに都市機能誘導施設について簡単に説明すると、都市機能誘導施設とは、医療、商業、福祉、子育て、行政施設といった私達が日常生活を営む上で必要不可欠なサービス施設等のことをいい、具体的には各市町村が定める都市機能誘導区域の中に誘導・維持を図る施設として位置付けられています。
根拠法は平成14年に施行された都市の再生を目的とする都市再生特別措置法で、立地適正化計画というネットワーク型コンパクトシティの形成を推進する制度として平成26年に施行されているものです。
ちょっと補足すると、国の補助事業の関係から都市機能誘導区域や居住誘導区域が重要視しはじめられてきたので、国内の最大都市圏を除けば、この立地適正化計画を知らない市町村は無いでしょうし、市町村はこの計画の重要性を理解していれば必ず策定していると思われます。
なお、策定していない自治体は、今後も人口があまり減らないところと、もともと市街地の人口密度が高いコンパクトシティの都市です。
立地適正化計画の全体概要について知りたい方はこちらの記事をお読みください。
ではでは肝心の都市機能誘導施設について法解釈を含めながら説明していきます。
法律等における都市機能誘導施設の位置付け
都市機能誘導施設は法律では次のように規定されています。
読んでもらうと分かりますが、法律では病院やホテルといった具体的な施設名を明記しているわけではないことが分かると思います。
【都市再生特別措置法第81条第1項】
市町村は、都市計画法第4条第1項に規定する都市計画区域内の区域について、都市再生基本方針に基づき、住宅及び都市機能増進施設(医療施設、福祉施設、商業施設その他の都市の居住者の共同の福祉又は利便のため必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するものをいう。以下同じ。)の立地の適正化を図るための計画(以下「立地適正化計画」という。)を作成することができる。
”都市の居住者”
とありますが、都市とは都市再生特別措置法でも都市計画法でも用語の定義はなされていません。どういったエリアが都市なのかという疑問があるかと思いますが、基本的にこの法律でいう都市とは計画対象区域である都市計画区域と捉えておけばOKです。
なお、都市とはについて以前書いた記事があるのでこちらの記事をご覧ください。
結論として、法的には医療・福祉・商業施設等と抽象的な表現にとどまっています。では、法律の運用に関する『都市計画運用指針』と『Q&A』からもう少しだけ掘り下げて誘導施設を説明します。
都市計画運用指針では、次のような施設例が記載されています。
- 病院・診療所等の医療施設、老人デイサービスセンター等の社会福祉施設、小規模多機能型居宅介護事業所、地域包括支援センターその他の高齢化の中で必要性の高まる施設
- 子育て世代にとって居住場所を決める際の重要な要素となる幼稚園や保育所等の子育て支援施設、小学校等の教育施設
- 集客力がありまちの賑わいを生み出す図書館、博物館等の文化施設や、スーパーマーケット等の商業施設
- 行政サービスの窓口機能を有する市役所支所等の行政施設
運用指針では医療、福祉、子育て、文化、商業、行政施設が列挙されていることからこれに類似する施設が対象となります。
では次にQ&Aを説明します。Q&Aは国が立地適正化計画の策定にあたり公表しているもので、もう少し施設のイメージがつきやすく明記されています。
Q7:誘導施設として定めることが想定される施設は何ですか?
A: 誘導施設は、都市の居住者の共同の福祉や利便のため必要な施設と規定されており、具体的には、以下の施設が想定されます。また、都市機能立地支援事業等の交付対象となる誘導施設に限定されるものではなく、幅広く定めることが可能です。ただし、専ら都市の居住者以外の者の宿泊のみに特化した宿泊施設や、都市の居住者の共同の福祉や利便に寄与しないオフィス(例えば、都市の居住者に商品やサービスを提供する機能を有しない事務所)等の施設は、誘導施設として想定していません。
- 病院・診療所等の医療施設、老人デイサービスセンター等の社会福祉施設、小規模多機能型居宅介護事業所、地域包括支援センターその他の高齢化の中で必要性の高まる施設
- 子育て世代にとって居住場所を決める際の重要な要素となる幼稚園や保育所等の子育て支援施設、小学校等の教育施設
- 集客力がありまちの賑わいを生み出す図書館、博物館等の文化施設や集会施設、スーパーマーケット等の店舗や銀行等のサービス業を営む商業施設
- 行政サービスの窓口機能を有する市役所等の行政施設
ポイントとしては、”ただし書き”の部分です。
宿泊施設やオフィスは都市機能誘導施設として想定していないとしています。
がしかし! 各都市の都市機能誘導施設を調べてみるとホテルやコンベンション施設、事務所なども設定している都市もあるので、立地適正化計画策定主体の自治体がそれぞれある程度自由に設定するということだと思います。
ということで、まとめると次のようになります。なお、このまとめ表には国の補助事業(都市構造再編集中支援事業)の対象となる誘導施設についても概要を記載しています。
具体的な誘導施設
機能名 | 施設の考え方等 | 具体例 |
---|---|---|
医療 | 医療法に規定される施設 | 病院、診療所、薬局など |
福祉 | 社会福祉、高齢化の中で必要性の高まる施設、子育て世代にとって居住場所を決める際の重要な要素となる子育て支援施設 | デイサービス、小規模多機能型居宅介護事業所、地域包括支援センター、乳幼児一時預かり施設、保育所、認定こども園など |
教育・文化 | 教育施設、集客力がありまちの賑わいを生み出す文化・集会施設 | 幼稚園、小中高学校、大学、専門学校、図書館、博物館など |
商業 | 店舗やサービス業を営む施設 | スーパーマーケット、銀行など |
その他 | 行政サービスの窓口機能を有する行政施設 | 市役所支所など |
※出典:都市計画運用指針、立地適正化計画Q&A、都市構造再編集中支援事業補助交付要綱をもとにやまけんが作成
とういうことで、ここまでが都市機能誘導施設の解説です。
では、最後に何故、経営者や企業の企画部門の方はこの都市機能誘導施設を知らないといけないのか説明していきます。
事業を営む地域(自治体)の立適は必ず把握
各市町村が定める立地適正化計画については、先ほど説明した都市機能誘導施設の他に、市町村としてどのような都市づくりを進めていくかが明記されています。
内容の実現性や確度については市町村によって異なりますが、どのように都市づくりを進めていくかが分かるというところが大切です。行政は民間企業による自市町村内への投資状況や社会情勢を把握した上でどのような計画がより効率的かつ最適な行政運営を行えるかを考えています。
言葉が悪いかもしれませんが、以前は経済成長にあわせて都市は勝手に発展したので、都市計画法により郊外への開発圧力を抑えればよく、極端な話、無難にコンサルに頼んでまちづくり計画をつくっていた都市もあるかなーと思います。
ところが現在は、人口減少と超高齢社会の到来です。自治体では人と企業のパイの取り合い合戦が過熱しており、いかにして自分達の都市に人と企業を呼び込むかを必死に考えているはずです。
少なくとも、人口減少により消滅する可能性が高い市町村は相当な危機感を持ってまちづくりに関する計画を策定していますから、その中でも物理的な将来の都市の構造を示す立地適正化計画は必須です。
繰り返して伝えると、次の内容は必ずチェックすることが将来にわたり効率的な経営をするために必要です。
- 都市機能誘導区域の範囲
- 居住誘導区域の範囲
- 都市機能誘導施設
この3つは必ず確認し、自分達が行う(これから行おうとしている)ビジネスと、立地場所や施設などでベクトルは同じ方向を向いているか必ず確認しましょう。
工場や作業場などの都市機能誘導施設とはならない施設を除けば、計画の方向性と整合していない事業計画は開業時点からリスクを一つ背負っているようなものですから、リスクを減らしてみるためにも市町村が定めるより実行性の高い立地適正化計画に注視してみてはどうでしょうか。
ただ、最後に補足があります。
立地適正化計画はネットワーク型コンパクトシティを推進するための実行計画であり実効性が高ければ高いほど効力を発揮します。ですので、逆の場合、つまり計画が総花的な場合、あまり実効性が担保されていない可能性もあることから、どこまで本気で書いてあるかは最後は経営者において見極めることが必要かと思います。
一点だけ注視するポイントは、誰をターゲットにすえた計画となっているかです。私の経験上、ある特定の層をターゲットしている計画については、公平性が求められる役所においてチャレンジした証ですので本気である可能性が高いです。
ということで以上となります。参考となれば幸いです。