この記事では、「低層住宅地内で単独の農業用倉庫は建築できるのか」という疑問に関して、解説を行っています。
先に結論をお伝えすると、低層住宅専用地域での農業用倉庫の建築は原則禁止ですが一部の自治体では例外的に認めています。その一つが福岡県や福岡市となります。この福岡県・福岡市の建築基準法上の取り扱い(運用)に関して解説を行っています。
YamakenBlogでは、過去の建築・都市計画行政職員&コンサルの経験を生かして、難解な建築法規や都市計画法規などに関して解説を行っています。気に入って頂けたらブックマーク登録していただけますと嬉しいです。
補足
今回の記事は、DMでの相談を受けて作成しています。
「単独の農業用倉庫が低層住宅専用地域内になぜ建築できるのか。」です。質問者さんは低層住宅専用地域として農業用倉庫は建築できないものとして認識していたが、近所に「農業用倉庫」が建築されたことを疑問に思ってのことでした。
低層住宅地内では単独倉庫は建築不可
はじめに原則論についての話です。
第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域では、住宅に附属する倉庫・物置を除いて敷地内に単独で倉庫を建築することができない規定となっています。
*営農倉庫はそれ自体が単独として立地でき、住宅に附属しなければならない理由はありませんので、通常は住宅の附属物として建築することはできないルールです。
また、農業用倉庫のように倉庫内での精米を行うのは一般的ですので、原動機(モーター)が使用されるため倉庫というよりは作業場兼倉庫に近いと思いますので、作業場を含むような建物は、パン屋等のごく一部の用途を除いて建築は困難です。
このため、低層住宅地内では農業用倉庫の建築は困難です。
低層住宅地は、住環境保護が主目的のため、住環境を影響を与える可能性が大きい施設は建築が制限されます。低層住宅地の制限についてはこちらの記事で解説しています。
第一種低層住居専用地域の用途規制の原則
福岡県・福岡市の取り扱い
福岡県では、農業用倉庫が建築できるように取り扱いを定めています。その内容は次のとおりです。
福岡県の取り扱い
要旨を読むと、「自己用の農業用倉庫」については、「法別表第2(い)項第10号」に該当するものとしています。第10号とは”附属物”のことです。
つまり、農業用倉庫については住宅に付属する建築物として認めますよというルールにしています。
また、やむを得ない事情で別敷地になった経緯などがあれば、個々の実情に応じて単独倉庫の建築も可能としていています。*単属の倉庫を建築することも認めますよ〜というのは、緩和規定としては大きいかなと思います。
福岡市の取り扱い
また、福岡市についても福岡県同様の取り扱いを行っています。なお、福岡市については、福岡県のような「単独倉庫」までは認めていないです。
福岡県・福岡市の取り扱いに関して(考察)
通常、都市計画において用途地域を指定する際、低層住宅地については、平成初期頃の時点でニュータウンや郊外の住宅団地などを指定しています。低層住居専用地域が誕生する平成初期以前にもそれに近い用途地域もありましたが、低層住居ほどの用途制限の厳しさはありませんでした。
低層住居専用地域については、指定時点である程度のまとまりのある住宅街区として整っているか、または団地整備が予定されているために低層住宅専用地域に指定します。
それ以外は低層住宅専用地域を指定することはほぼありえません。
ですので、行政が進んで営農地を含む土地を低層住宅低層住居専用地域を指定することはないかなと思います。(地権者から要望があれば別です。)
営農地であれば、税制面を考慮し原則は市街化調整区域ですし、三大都市圏であれば生産緑地地区、非線引き用途地域であっても営農者が多く残っているようであれば農用地区等でしょうから市街化を促進する必要性がないです。
このため、福岡のように低層住宅専用地域でかつ営農地というのはよほどの稀な地域なのかなとは思います。例えば、平成初期の低層住宅専用地域指定の際に”エイヤー”で営農土地を指定したとか・・・、地権者の強い要望があったとか、超将来的に住宅団地を予定していたなど・・・(想像の範疇です)
現行法は、田園住居地域が馴染む
現在は、法制度上、平成30年改正から「田園住居地域」を指定することが可能となり、営農者にとっては税制面でも有利です。
このため、低層住宅専用地域内でかつ営農地が多いのであれば、低層住宅地は馴染まないため、速やかに「田園住居地域」に指定するなり、「非線引き白地」や「市街化調整区域」に指定することが望まれるのかなと思います。
ちなみに、この福岡県・福岡市の取り扱い。特定行政庁の取り扱いの裁量の中で緩和して良いのか判断がつきませんでした(法の裁量を逸脱していないのか)。
過去の判例を見ても同様の事例はありませんでした。とはいえ、住宅地の良好な居住環境を確保しようとするエリアで農業耕作機+作業場となれば一定の騒音障害は発生する可能性はありますから場所によっては迷惑施設と認識される住宅団地(街区)もあるだろうなと思います。
本来の正規の運用上は、低層住宅専用地域に特別用途地区または地区計画を指定の上、大臣承認緩和条例の制定です。
または、もう一つ農業倉庫の建築が可能となる方法として、公益上必要な建物として行政の許可(法第48条ただし書き許可)があります。*しかしながら、農業倉庫単体を公益性の理由として設定するのは難しいので48許可は無理かなと思いますので、このため取り扱いで運用しているものと思います。
市街化区域や線引き都市内の農地は都市農地として保護されるべき対象です。できる限り営農者を保護する考えは私も同じです。ですが、前提として、低層住宅専用地域という最も住環境に配慮した市街地に住む居住者との調和・調整が必須です。
このため、適宜、田園住居地域への用途地域の変更等が必要になるかなとは思いますが、現時点では社会問題化していませんので、取り扱いの中で個別ごとに解決を図っていくしかないのかなと思います。
このように、法理解のみでは分からない超例外的に認めている例もあるので住まい探しをする際には注意が必要かなともいます。
ということで以上です。
今回は、第一種低層住宅専用地域・第二種低層住居専用地域であっても「農業用倉庫」の建築が可能な取り扱いの紹介でした。それではまた〜〜!