宅建業法施行規則第16条4の3(法第35条第1項第14号イの国土交通省令・内閣府及び同号ロの国土交通省令で定める事項)に新たに「3の2」が追加され、これにより、宅地及び建物の売買・交換・賃借を行う物件の位置が洪水ハザードエリアの中であれば重要事項説明が必要となります。
こんにちは!はじめての方は、はじめまして!やまけん(@yama_architect)といいます。建築や都市計画に関する業務経験を生かして建築士や宅建士の業務に役立つ情報を日々発信しています。
それでは、今回公布された重要事項説明について解説します。
目次
新たに加えられた内容
不動産取引を行う対象物件が洪水等ハザードマップ(水防法第15条第3項)の浸水エリアに該当している場合には、そのことについて説明するというものです。(ハザードマップに当該物件の位置を明示して浸水深や避難場所、避難経路などを説明しなさいねということだと思います。)
これまで親切な不動産業者であれば重要事項説明の対象ではなくても、水害ハザードエリアについても説明されてきたところだとは思います。
しかしながら、近年の大雨による被害の大きさを鑑みて、不動産取引時点から購入者に対してリスクを説明することも重要と国は考えたのでしょう。重要事項説明において買主がリスクを認識するよう法令で義務付けされたわけです。
詳しく法令等を確認すると次のようになります。
【新たに加えられる施行規則(施行規則第16条の4の3第3の2号)】
水防法施行規則第11条第1号の規定により当該宅地又は建物が所在する市町村の長が提供する図面に当該宅地又は建物の位置が表示されているときは、当該図面における当該宅地又は建物の所在地
水防法施行規則第11条第1号が重要となりますので次をご覧ください。
【水防法施行規則第11条第1号(市町村地域防災計画において定められた事項を住民等に周知させるための必要な措置)】
法第15条第3項の住民、滞在者その他の者(以下この条において「住民等」という。)に周知させるための必要な措置は、次に掲げるものとする。
一 第2条第1号及び第2号※1、第5条第1号及び第2号※2並びに第8条第1号及び第2号※3に掲げる事項を表示した図面に市町村地域防災計画において定められた法第15条第1項各号※4に掲げる事項(次のイ又はロに掲げる区域をその区域に含む市町村にあっては、それぞれイ又はロに定める事項を含む。)を記載したもの(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。)を、印刷物の配布その他の適切な方法により、各世帯に提供すること。
イ 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第7条第一項の土砂災害警戒区域 同法第8条第3項に規定する事項
ロ 津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号)第53条第1項の津波災害警戒区域 同法第55条に規定する事項※1:洪水浸水想定区域のエリア及び浸水深
※2:雨水出水(内水)浸水想定区域のエリア及び浸水深
※3:高潮浸水想定区域のエリア及び浸水深
※4:洪水ハザードマップに記載する付帯情報(避難所や避難施設、医療・福祉施設の位置などの)
いつから説明が義務付けられるの?
改正省令は令和2年8月28日(金)から施行されます。
8月28日から行う重要事項説明については今回の改正による追加説明が必要な内容を含めて必ず説明が必要となります。
説明する内容
重要事項説明においては、対象物件について洪水等ハザードマップ(水防法第15条第3項)の記載された内容を説明する必要があります。
その内容としての基本的な事項は、次のものです。
- 浸水想定区域の名称(洪水・内水・高潮のいずれか)と浸水深
ただし、国が公表している重要事項説明の解釈においては、このエリア及び浸水深のみならず、洪水ハザードマップに公表されている内容についても説明することが望ましい旨が記載されています。
その内容とは、避難所や避難路、避難経路などの情報です。なお、洪水浸水想定区域については、想定最大規模と計画規模、家屋倒壊等氾濫想定区域があります。
【水防法第15条第3項(ハザードマップ)】
浸水想定区域をその区域に含む市町村の長は、国土交通省令で定めるところにより、市町村地域防災計画において定められた第一項各号に掲げる事項を住民、滞在者その他の者(第15条の11において「住民等」という。)に周知させるため、これらの事項(次の各号に掲げる区域をその区域に含む市町村にあつては、それぞれ当該各号に定める事項を含む。)を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならない。
一 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律第7条第1項の土砂災害警戒区域 同法第8条第3項に規定する事項
二 津波防災地域づくりに関する法律第53条第1項の津波災害警戒区域 同法第55条に規定する事項
重要事項説明時の注意点
宅建業法の省令では市町村の長が提供図面にとありますが、市町村が提供する水防法のハザードマップについては、国や都道府県が公表する水防法の浸水想定区域を反映した市町村ハザードマップの公表が遅れている市町村も見受けられます(やまけん調べ)。
この国及び都道府県と市町村との齟齬を確認するには国交省のホームページをご覧ください。
リンクを貼っておきます。
👉https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/
👉https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/pdf/08kouzui-hm_r0201.pdf
省令上は、市町村の長が公表しているもの(ホームページなどに公表されているハザードマップ)でOKと読み取れます。
しかしながら、国や都道府県が公表しその後、市町村のハザードマップの改訂までのタイムラグがあるので、市町村が公表していないからといって国や都道府県が公表している浸水想定区域を説明しない場合、市町村が改訂が遅れることによる問題ではありますが、後々問題になる可能性があります。
ですので、取引リスクを減らすためにも、国や都道府県が水防法第14条、同法第14条の2、第14条の3に基づき公表している洪水浸水想定区域※を説明するのが良いのではないかと思います。
また、対象物件の周辺に複数の1・2級河川がある場合、その河川ごとに浸水想定区域が公表されていますのでご注意ください。
※ 水防法の浸水想定区域では次の用語が使われますが、意味は次のとおりですので、クライアントの説明の際に活用ください。
洪水浸水想定区域の種類
- 想定最大規模降雨:想定し得る最大規模の降雨(1,000年に1回程度)
- 計画規模降雨:概ね50~100年に1回程度の降雨(浸水想定区域図に記載されている)
- 家屋倒壊等氾濫想定区域:洪水時に家屋の流出・倒壊をもたらすような氾濫発生区域
氾濫流:家屋の流出・倒壊をもたらす洪水の氾濫流
河岸浸食:家屋の流出・倒壊をもたらす洪水時の河岸浸食
参考:想定最大規模と計画規模降雨の違い
こちらは国交省江戸川河川事務所が公表している江戸川の洪水浸水想定規模の最大降雨と計画規模の違いです。図示しているところが大きく浸水深が異なる箇所ですので、江戸川に限らず、他の河川でも異なります。
重要事項説明の際には想定最大規模しか説明しないとは思いますが、計画規模は大雨特別警報と重複する部分がありますので注意が必要です。
図 江戸川洪水想定区域(計画規模)
図 江戸川洪水想定区域(想定最大規模)
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参考:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)
次の解説が追加されています。
水防法の規定による図面における宅地又は建物の所在地について(規則第16条の4の3第3号の2関係)
本説明義務は、売買・交換・貸借の対象である宅地又は建物が水防法(昭和24年法律第193号)に基づき作成された水害(洪水・雨水出水(以下「内水」という。)・高潮)ハザードマップ(以下「水害ハザードマップ」という。)上のどこに所在するかについて消費者に確認せしめるものであり、取引の対象となる宅地又は建物の位置を含む水害ハザードマップを、洪水・内水・高潮のそれぞれについて提示し、当該宅地又は建物の概ねの位置を示すことにより行うこととする。
本説明義務における水害ハザードマップは、取引の対象となる宅地又は建物が存する市町村(特別区を含む。以下同じ。)が配布する印刷物又は当該市町村のホームページ等に掲載されたものを印刷したものであって、当該市町村のホームページ等を確認し入手可能な最新のものを用いることとする。
当該市町村に照会し、当該市町村が取引の対象となる宅地又は建物の位置を含む水害ハザードマップの全部又は一部を作成せず、又は印刷物の配布若しくはホームページ等への掲載等をしていないことが確認された場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになる。この場合は、提示すべき水害ハザードマップが存しない旨の説明を行う必要がある。
なお、本説明義務については、水害ハザードマップに記載されている内容の説明まで宅地建物取引業者に義務付けるものではないが、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するものであることに鑑み、水害ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましい。
また、水害ハザードマップに記載された浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮するとともに、水害ハザードマップに記載されている内容については今後変更される場合があることを補足することが望ましい。
本記事のまとめと関連記事
これまで洪水ハザードエリアについては重要事項説明の対象からは外れてきたわけですが、今回の改正により重要事項説明の対象となり、買主は水害エリアのリスクを認識するキッカケを得られたことは必要だったと思います。
1,000年に1度程度でしょ?と思うかもしれませんが、甘くみてはいけません。
東日本大震災だってそうした発生頻度だったのですから、明日起きてもおかしくない災害です。
また、想定最大規模以外にも50年や70年に1度の発生頻度が高い水害エリア(計画規模降雨)についても買主は認識することとなるため、水害を意識した建築計画を行う方も増えて、災害に強い都市形成に一躍を担ったのではないかと思います(わたしの勝手な想像に終わってしまう可能性もありますけどね)
ということで以上となります。みなさまの参考となれば幸いです。
なお、こちらのわたしのnoteでは、宅建業の方向けに不動産取引リスクを軽減させるため押さえておいた方がよい災害に関する知識をまとめていますのでよかったらどうぞ。
▶️国交省がホームページに掲載している省令に関するページはこちらです。
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