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美術(芸術)作品と都市計画法・建築基準法

先日、国立新美術館で世界的に有名な芸術家の企画展が6月29日(木)はじまるというtweetが流れてきた。ご覧になった方もいるかもしれません。

世界的にも評価されている方で社会への貢献度の高さは理解しているものの、長年にわたり建築・都市計画行政に携わってきた者として、一人の建築士として、このブログで書かいておかないという考えで書いています。

それは、2013年7月号の「新建築」に掲載された東北地方のある都市での作品に疑問を持ったことに遡ります。10年以上建築業界にいる方であれば一度は見たことがあるかもしれません。

すでに疑問を持った方もいるのではないでしょうか。




都市計画法・建築基準法からみる違法性の有無

まず、この作品が立地しているのは、線引き都市計画区域のうち、市街化調整区域・建築基準法第22条区域・山林(保安林外)です。

※〇〇市都市計画情報(抜粋)

この区域の中に、推定床面積として200㎡程度、構造は木造の博物館法に基づかない任意の建物・芸術施設が立地しています。

また、この回廊美術館が立地している自治体の観光サイトでも紹介されており、この作品をつくられた方が世界的に有名なので、地域ではちょっとした観光地となっています。

「新建築」では、施設の概略を次のように紹介されています。

「XXX万本桜プロジェクト」の活動を行う山の一角に建つ.現代美術家のXXX氏設計による長さ99mの回廊美術館.同氏は,第24回高松宮殿下記念世界文化賞の賞金の半額を本作品の建設費と開館祭のための費用として寄付をした.制作期間約3カ月,延べ約400人のスタッフ・ボランティアの手で制作された.柱と床は本敷地から伐採したスギを使用.

https://data.shinkenchiku.online/articles/SK_2013_07_058-0
※出典:https://kankou-iwaki.or.jp/spot/10026
※出典:https://kankou-iwaki.or.jp/spot/10026
※出典:https://kankou-iwaki.or.jp/spot/10026 (農用地区)

論点の一つとして、美術品なの?建築物なの? があげられると思います。

この作品が一つの鑑賞を主目的とした芸術品であり建築物ではないとするのであれば、市街化調整区域内に立地しても、法の建物構造のルールや屋根材のルールなどに明らかに違反しても何ら問題にはならないです。

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一方で、美術作品として回廊を歩きながら作品を眺る構造上、屋根としての効用を有していることから建築物という考えもあります。

建築物であれば、都市計画法も適用されるため都市計画法違反(市街化調整区域内での許可を受けていない建築物の建築)となる可能性があります。
(注)調整区域内は、農林業施設や公益性のある施設以外を除いて建築することはできません。

では、そもそも建築物とは何か。

建築物とは建築基準法では、次のようなものを言います。

土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。

建築基準法第2条第一号

つまり、「屋根+壁」、または「屋根+柱」があれば建築物となります。
今回の事案ですと、屋根+柱です。

ちょっと理解し難いという方はこちらの記事もあわせてお読みいただくと理解が深まるはずです。

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なお、建築基準法では、そもそも論として建築基準法の適用を除外する規定がありますが、それには国宝や重要文化財といった文化財保護法の適用を受ける必要があります。
なお、今回の物件については、歴史的な施設ではないため文化財保護法の適用を受ける可能性はゼロです。

仮にですが、建築物とすれば、鉄筋コンクリートの基礎が無いことや、木造の仕口・金物が法律によらない接合方法、さらに、屋根葺き材が不燃以外という、建築基準法第20条・22条等に違反しています。この他にも材料等で法令に遵守していないことが想定できます。

さらに、建築確認申請手続き違反(そもそも確認申請を行っても適合していないため済証は交付されない=手続きしていない。裏取り済)となり、結果的には、法の目的である最低限の利用者の安全性を確保できていないことになります。

また、市街化を抑制する区域での許可を受けていない開発行為は都市計画法第43条違反が考えられ、都市計画マスタープランであるまちづくりの方針との整合性が図られずに長期的なスパンでみると外部不経済をもたらす原因となります。仮に1ha超であれば林地開発許可の可否も気になるところ。

車や人の集散を想定していない農地や山林保全のための地域であり、インフラが整っていないため自然環境の悪化も想定されます。

ポイントは2つ

今回の事案ですが、ポイントを2つに絞ってみました。

  • 1つ目は、建築物なのか美術品なのか。
  • 2つ目は、なぜ、市街化調整区域に立地させたのか。

建築物と判断されれば明らかな違反なので是正(例えば屋根を撤去し非建築物とする)が考えられます。

一方で、美術品・芸術作品とするならば、人を立ち入れるような仕様にすることは、利用者の安全性を担保していると言えるのか。鑑賞が主目的であるとする判断をどのような基準で行うのか。美術(芸術)作品と建築物の境界線はどこなのかという疑問も残ります。

また、彼は日本の法律に詳しいわけはないので、彼以外のおそらくは地域の協力者が、市街化を抑制する区域である市街化調整区域に、人の集散が想定される機能を有する施設を立地させたのか。

ちなみに、こちらの自治体の市街化区域の人口密度は27人/haと、首都圏や人口規模が同程度の都市の中では下位です。土地を探す時間や賃借・購入するためのコストの問題はあるかもしれませんが、市街化区域内に土地の確保が困難とする証明にはならない可能性が高いです。

著名な方の作品であり自家用車による人の集散を予見できた以上は、インフラが整っておらず環境悪化等により都市が影響を受けやすい調整区域での開発を外せなかったのか。

とはいえですが、建物自体の規模が小さいし、汚水や生活雑排水の流出の恐れも限定的であり社会的影響が低いのであれば問題がないのでは?というのが世間一般の考えにあると思います。

今回の事案は人によって判断が分かれるところがあると思います。

これをご覧になって、みなさんはどう思いますか。

国立の美術館で企画展が開催されるほどの方の作品(芸術性の高さ)というバイアスがかかるのと、むしろ観光地化としてのメリットが高く実態に合わせて行政側が柔軟に対応すればいいのでは?という意見が多数を占めるような感じがします。

個人としては、地方都市によって事情が異なるため、何が正しいのか判断するのが難しいというのが考えですが、建築基準法・都市計画法の所管的立場に立てば、人が立ち入る以上は法令に抵触している可能性のある施設かと思います。

最後に、、、社会的に評価される活動とは切り離して考える

東日本大震災からの復興や東北地方の子供達を元気づけようとする試みは社会的に意義があることですし評価されるべきだと思います。世界的にも評価され、国立新美術館で企画展が実施されるほどなので影響力のある素晴らしい方であるのは事実です。

こうした方以外にも企業として慈善活動に尽力されるも、知識不足によって法令違反の建築物を建築してしまう事例もあります。

また、最近では、市街化調整区域での違法建築問題がニュースとなる機会が増えてきたように感じます。直近では、福岡の自治体の議長による違法賃貸や、岡崎市長自身が市街化調整区域内の違法建築でニュースとなっていました。

地域にとって必要な施設(行政計画との整合が図られた施設)であれば都市計画法の許可を受けて法に適合したものを建築することが建築主の責任です。法律を無視・軽視するのであれば、無視・軽視する理由を社会に向けて発信して理解を求めることも大事だったりします。

急速に社会情勢は変化していますし、一部では法令が社会に対応できていないのも事実です。ですので、一度原則を踏まえた上で課題とされる法令を政治家と協力して国民の理解を得た上で、社会に合わせていく活動も選択肢の一つではと考えられます。

それでは以上となります。
最後まで読みいただきありがとうございました。
(注)こちらの記事は、あくまでも個人的なブログとしての考えであることをご了承ください。






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YamaKen都市計画(まちづくり)を通じて都市を美しくしたい人
【資格】1級建築士、建築基準適合判定資格者、宅建士など 【実績・現在】元役人:建築・都市計画・公共交通行政などを10年以上経験 / 現在は、まちづくり会社を運営:建築法規・都市計画コンサル,事業所の立地検討,住宅設計など