上記の内容についての悩みを解決する記事です。
元行政職かつ建築確認審査の経験がある私が「工事現場に設ける現場事務所の建築基準法上の取り扱い」について解説しています。
こちらの記事を読めば難解な建築基準法を理解し、仮設建築物(現場事務所)についての設置に向けた検討を楽に進められるはずです。
こんにちは。やまけん(@yama_architect)です^ ^
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建築基準法や都市計画法といった都市づくりに欠かせない法律は、複雑かつ難解なので理解に苦しみますよね。そのような方のために、法律を上手に活用してビジネスや生活に活用してもらいたいと思いつくったブログです。
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目次
最も重要なマインド(最後に読んでください)
まずはじめにお伝えしたいことは古き良き時代の考えは捨てましょうということ。
*上から目線じゃん!と思った方すみません。
ちょっと分かり難いかもですが、この記事を読まれているということは工事現場事務所の法規制について知りたいと思って辿りついたはずなので、その考えのもと、法令遵守でいきましょうということ。(気分を悪くされた方すみません。悪気はないです。)
近年のコンプライアンス重視の傾向は大事なことですが、これまで大丈夫だったからという理由で安易に現場事務所を設置してしまうと、例えばプロ市民と言われる方々から建築基準法の指摘を受け、企業としての社会的信用を失う可能性が大いにありますし、にわか知識のプロ市民から違法性の指摘と同時に恐喝紛いなことを受ける可能性もあります。
私も元行政庁の職員だったので良く分かりますが、違法な現場事務所を設置していると、近隣住民から必ずクレームがあります。
というよりも、何かしら言ってやろ〜とする住民の方って意外にも多いのです…。
当然、間違っていることは指摘して良いですが、単純な話、「あいさつが無かった。気に食わない」とするだけで行政に対してクレームを入れてくる人さえいます…。
悲しいことに、一定数で”建設業・建築業界=悪”という認識の方がいます・・・
それでは、結論から伝えます。
現場事務所は仮設建築物許可並びに建築確認申請は不要
少し専門的な話になります。
工事現場内に設置する事務所を含む仮設建築物に関する一連の規定は、建築基準法第85条に明記されており、そのうち、「工事現場に設ける事務所」に関しては、建築基準法第85条第2項に規定されています。
参考までに法令文を掲載しておきます。ポイントはマーカーした部分です。この部分を読むと、『工事を施工するために現場に設ける事務所、下小屋、材料置き場その他これらに類する仮設建築物』とあります。
これにより法第85条第2項に該当していることが分かります。
[建築基準法第85条第2項]
建築基準法第85条第2項
災害があった場合において建築する停車場、官公署その他これらに類する公益上必要な用途に供する応急仮設建築物又は工事を施工するために現場に設ける事務所、下小屋、材料置場その他これらに類する仮設建築物については、第6条から第7条の6まで、第12条第1項から第4項まで、第15条、第18条(第25項を除く。)、第19条、第21条から第23条まで、第26条、第31条、第33条、第34条第2項、第35条、第36条(第19条、第21条、第26条、第31条、第33条、第34条第2項及び第35条に係る部分に限る。)、第37条、第39条及び第40条の規定並びに第3章の規定は、適用しない。ただし、防火地域又は準防火地域内にある延べ面積が50㎡を超えるものについては、第62条の規定の適用があるものとする。
さらに、上記の法令のうち青マーカーのところも読んでみると、建築基準法第6条は適用しないとあります。この法第6条とは、建築確認申請に関する規定です。
そのため、「工事を施工するために現場に設ける事務所、下小屋、材料置場その他これらに類する仮設建築物」については、第6条が適用されないため、建築確認申請が不要となります。
ポイントは、現場に設ける事務所であること。
また、法第85条第2項の規定に関しては、法文冒頭の応急仮設建築物は建築工事完了3ヶ月後を超えて存続する場合には許可が必要となりますが、現場事務所についてはその規定がありませんので、特定行政庁の許可の必要もありません。
以上から、基本的な考え方として、仮設建築物である現場事務所は建築確認申請は不要となります。ただし、”現場に設ける”という文言について注意してください。
それでは、次の疑問として、「現場に設ける」とは何かです。
補足:現場に設けるとは?
この「現場に設ける」という部分が実は結構重要なポイントです。
「現場に設ける」に該当しない場合、許可及び建築確認申請が必要となるため、役所での事務手続きが発生します。
なお、事務所等の”等”とは、次のものが考えられますが、事務所以外については個々に役所の判断を仰いだ方が良いと考えられます。
☑︎ 工事の施工に従事する従業員のための宿舎や福利厚生施設、材料加工場等
☑︎ 工事の施工上の必要に応じて現場に設けられる施設
*出典:「建築確認のための基準総則集団規定の適用事例 編集 日本建築行政会議」
「現場に設ける」とは、工事請負契約により工事を実施する区域(敷地)内であると解釈するのが一般的です。
しかしながら、なかには、現場条件から現場外に設置せざるを得ないケースもあったりします。
その場合は、”工事現場との距離や位置関係”によって個々に判断されることなります。
役所(特定行政庁を有する建築指導担当部署)に工事現場と現場事務所設置予定箇所を明示した図面を持参して、相談すればOKです。
多少時間は掛かっても判断してくれるはずです。
問題なのは、許可や確認申請が必要となるにも関わらず後で発覚してしまったケースです。
その場合、違反行為と判断され処罰される可能性もありますから、コンプライアンスを重視している企業の担当者であれば、十分に留意しておいた方がいいと思います。
仮に違反であることが分かった場合には、特定行政庁の指導に従い適切な対応をとるようにして下さい。
なお、「現場に設ける」に該当しないケースでは、建築基準法第85条第2項の仮設建築物には該当しないため、仮設建築物としての許可(建築基準法第85条第6項)が必要となるケースもありますので、どのような対応になるかどうかは特定行政庁の判断となりますので事前に相談するのが得策です。
では、次に、建築基準法において何が緩和されるのかです。次項をご覧ください。
仮設建築物は建築ルールの何が緩和されるのか?
仮設建築物は、どのような仕様でどのようにつくってもOKというわけではありません。建築基準法において適用されない規定(接道など)が決めれているだけです。
緩和される法令は次のものです。ここでは、詳細に記述できないため概要のみ掲載します。
緩和法令 | 内容 |
---|---|
法第6条から法第7条の6 | 建築確認申請、構造計算適合性判定、 完了検査、中間検査、完了検査済証交付前の使用制限 |
法第12条第1項〜第4項 | 特定建築物の定期報告、特定建築設備等の定期報告 |
法第15条 | 建築工事届出、除却届出 |
法第18条 | 計画通知(国、都道府県、建築主事を置く市町村) |
法第19条 | 敷地の衛生及び安全 *詳しくはこちら(過去記事)を読んでください。 |
法第21条 | 大規模の建築物の主要構造部等 *木造大規模建築物の制限に関する規定です。 |
法第22条 法第23条 | 屋根の不燃化(22条)、延焼外壁(23条) *詳しくはこちら(過去記事)を読んでください。 そもそも対象外なので気にする必要はないです。 |
法第26条 | 防火壁 *床面積が1,000㎡を超える建築物が対象です。 まぁ、仮設ハウスの場合にはほぼ無いでしょう・・・ |
法第31条 | 便所 *下水道区域内は水洗便所、区域外は浄化槽にしなさいとするものです。 緩和されますが、基本的には仮設トイレが中心ですし、大規模仮設の場合は周辺環境への配慮から浄化槽が一般的ですね。 |
法第33条 | 避雷設備 *高さ20mを超える建築物が対象です。 詳しく知りたい方はこちら(過去記事)をご覧ください。 |
法第34条第2項 | 非常用の昇降機 *高さ31mを超える建築物対象ですから、無視でOKです。 |
法第35条 | 特殊建築物等の避難等に関する技術的基準 *対象外ですからあまり気にする必要はないですが、詳しく知りたい方はこちら(過去記事)をご覧ください。 |
法第36条 | 建築物の敷地・構造等に関する施行令の規定 |
法第37条 | 建築材料の品質 *建築材料は、日本工業規格・日本農林規格、国土交通大臣が定めるものを使用しなければならないとする規定です。 |
法第39条 | 災害危険区域 *災害危険区域とは、地方公共団体が津波や浸水等の恐れがある地域を指定して、住宅等の建築が禁止されるものです。 |
法第40条 | 地方自治体の条例による制限の付加 |
第3章 | 集団規定 *代表的なのは、接道や用途制限に関する規定です。 これらは適用除外となるため、例えば、接道が取れていない場所や第一種中高層住居専用地域などの事務所を建築することが地域でも建築することが可能です。 注)防火・準防火地域内で延べ面積が50㎡を超える場合には法第63条(屋根の構造)が適用される。 |
大きく緩和されることになりますが、現場事務所は小規模建築物であることが多いため、建築物の技術的な面に関しては緩和されてもさほどメリットは高くないです。
一番のメリットは第3章の規定です。
第3章の規定は、集団規定(接道、用途制限、容積率、建蔽率、高さ制限等)となりますが、仮設建築物の場合には全て適用されないので、現場事務所を設ける場所が狭隘な敷地だったり、用途地域上立地が不可能な場合においても、設置することが可能となります。
緩和されない規定のうち注意した方が良い法令は?
前項では、緩和される規定を説明しましたが、「工事現場に設ける現場事務所」は緩和される規定以外(くどくてすみません。緩和されない規定のこと)は、規模等に応じて適用されることになります。
仮設ハウス自体が既製品のため法令違反となる可能性は低いと考えられますが、気になる方は法チェックを建築士に依頼するなどの措置を取った方が無難です。
一点だけ緩和されない規定のうち、留意するべき点としては、法第20条の規定があります。
法第20条は建築構造に関する規定を定めており、そのうち基礎構造も含められています。
つまり何がいいたいかというと、基礎は適用除外されていないため、原則として建築基準法に基づく基礎の設置が必要となります。かなり、専門的な解説となりますが、ここからはじっくり読んでみてください。
現場事務所の基礎構造
基本的に建築物の基礎は原則として告示に定める仕様にしなければならないとされています。
その告示とは、「平成12年5月23日建設省告示第1347号 建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」です。
この告示の第1第1項の文書を読むと解決しますが、仮設ハウスである鉄骨造の場合、2階建てとした場合は、この告示どおりとしなければならないとされています。つまり一般的な建築物の基礎とする。
この告示仕様を逃れるには、告示第2に基づく構造計算が必須です。
平屋で延べ面積200㎡以下であれば告示仕様とする必要はないですが、それでも、施行令第38第1項の規定により、基礎は、構造耐力上安全であることが求められるため、よくあるような、ただ単に地盤に直置きする行為は建築基準法令に違反する可能性が高いです。
→転倒、滑動、沈下に対して最低限のチェックは必要です。
もちろん法令に違反することも良くないことですが、台風や地震による被害を受けた際に人命に関わる可能性が高いことが一番の問題ですから、行政によるチェック機能はないとはいえ、安全対策だけはしっかりと行った方が得策です。
ただ置いておく場合、突風による転倒や滑動の可能性が非常に大きいので、転倒時の事故防止のために対策は必要となります。
>>>基礎構造に関する参考記事
本記事のまとめ
今回は、「工事現場に設ける仮設建築物(現場事務所)」についての解説を行いました。
ポイントとしては
・仮設建築物(現場事務所)は許可、及び建築確認申請ともに不要
・ただし、”現場に設ける”に該当するかどうかの判断が必要な場合があること
・基礎に関しては原則として適用除外とならないため注意が必要
今回は以上です。
みなさまの参考になれば幸いです。