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長崎県諫早市の大規模開発から学ぶ都市計画法の課題と地方都市の持続可能な発展

地方都市の発展と活性化には効果的な都市計画が欠かせません。今回の記事では、最近ニュースとなった長崎県諫早市(人口:約13万人)の市街化調整区域での大規模開発を題材に、都市計画法の現行の課題について考察します。

地方都市の行政担当者や建築士、中心市街地活性化に取り組んでいる方々に、ぜひ参考にしていただければ嬉しい限りです。

こんにちは!YamakenBlogへようこそ!

YamakenBlogでは、建築基準法や都市計画法、宅建業法など、まちづくりに関連する難解な法律を、元行政職員の私がシンプルでわかりやすく解説しています。

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はじめに

本記事の目的は、近年、地方都市での市街化調整区域を活用した大規模開発(地区計画)が増える中で、現在の都市計画法が抱える制度上の課題の一つを知っていただき、都市計画について考えるキッカケになればと考えています。

市街化調整区域は、無秩序な市街地の形成を防ぐとともに、農林業や水源涵養機能などを保護するために都市計画法で定められた区域です。

しかし、今回の大規模開発のように、市街化調整区域で地区計画を設定することで大規模開発が可能になるケースも存在します。

これには、「なぜ?」という疑問が生じることでしょう。

現在、地方都市では急速な人口減少が進行しており、市街地を閉じるなら理解できるけど、市街地を拡大させるやり方に疑問を持つ方もいるでしょう。

建築・都市計画行政に10年以上携わってきた筆者が、この課題について解説していきます。大学の講義では学べない問題なのでぜひ学生の方々にも読んで欲しいです。

それでは、ここから本題に入り、地方都市での市街化調整区域を活用した大規模開発と、都市計画法の課題について詳しく見ていきましょう。

大規模開発行為の概要

今回の大規模開発の位置については、大まかな場所は特定できていますが、行政のホームページに住民説明会の情報が掲載されていないため、正確な線引きは不明となっています。

*出典:諫早市都市計画区域図(抜粋)

ニュースによると、開発地域はほぼ市街化調整区域に位置しているとのこと。他のサイトや情報源を調べた結果、開発概要は以下のようになっています。

項目概要
所在地長崎県諫早市長野町
(線引き都市、市街化調整区域)
開発面積商業地区:約7.9ha
業務地区:約8.8ha
住宅地区:約2.7ha
店舗面積48,000㎡
店舗数200店舗
開業予定年月2025年度
都市計画法の手法地区計画(地区計画提案)
引用:https://shutten-watch.com/kyushu/14603,https://news.yahoo.co.jp/articles/1091265af946da2a2f5e4ce65e385bcd827c4da7

諫早市の概要と都市圏

諫早市は、長崎県内で人口約13万人を抱える市で、長崎市、佐世保市に次いで3番目に人口が多い市です。主要産業は「製造業」であり、製造業に関しては県内最大のGDP(293,285百万円)、第2次産業で稼いでいる市です。

都市圏としては、隣接する長崎市を含む4市町で構成される「長崎都市計画区域(人口:約54万人)」に属しています。

都市計画的には長崎市と一体でありながらも、北部に隣接する大村市(人口:約9万人)とも通勤・通学の関係で強い結びつきがあるのが地理的な特徴です。

将来の推計人口は、2040年に約11万人を予測しています。

なお、この予測値については、人口10〜20万人市の平均的な人口減少率(総務省によると2015年から2040年までの間で、マイナス10〜20%が最多で59市)となるので著しく高いとも低いとも言えない平均値です。

項目概要備考
人口138,078人(都計区域内:99,822人)2015年
人口密度50.7人/ha,60,568人2015年
将来人口109,252人2040年
GDP649,688百万円
*製造業:293,285百万円
 長崎県内では最大で全体の36.3%を占める。
 製造業が主要産業の都市
2019年
所属都市圏長崎都市計画区域(線引き都市)
(構成市町村:長崎市,諫早市,長与町,時津町)
所属都市圏の人口541.8千人
(市街化区域人口:514.3千人)
令和3年3月末
市街化区域面積・人口2,288ha,83千人 36.3人/ha
*所属都市圏に占める面積割合23.7%
令和3年3月末
市街化調整区域面積・人口7,401ha,14.7千人 2.0人/ha
*所属都市圏に占める面積割合26.4%
令和3年3月末
※長崎都市計画区域マスタープラン,諫早都市計画マスタープラン,諫早市長期人口ビジョン,長崎県市町村県民経済,都市計画現況調査

都市計画の手法と地区計画提案とは?

今回活用されている都市計画は「地区計画」です。

地区計画は、街区単位のきめ細かなまちづくりを行うために活用される都市計画制度で、建物の用途や形態に関する制限や誘導、さらには公園や道路などの地区施設の決定も可能です。

一般的には、用途地域でさらに一部の建物用途を制限する目的で活用されることが多い手法です。例えば、住宅団地でアパートやマンションなどを排除し、戸建て住宅以外の建築を制限するために設定したり、商業地域で風俗系施設の用途を制限する際などに使われます。

制限型と緩和型がありますが、用途制限を緩くする緩和型は国土交通大臣承認と地区計画条例の制定が必須で、他の都市計画手法で代用できるためあまり使われません。

基本的には、用途地域制限を補完したり、一定の用途のみを誘導したい場合や、開発行為と一体的に道路や公園などの公共施設を定める場合に活用されます。

今回の市街化調整区域での地区計画制度は内容自体が専門的すぎるため詳細は割愛しますが、簡単に言うと、市街化調整区域内でも地区計画を決定し、地区計画に適合した建築物であれば開発許可が可能という制度(都市計画法第34条)です。
※大原則として、市街化を抑制すべき区域であることを踏まえ、当該開発が市街化調整区域でなければならない理由が必要です。

さらに、土地所有者等の2/3以上の同意を得られれば、所有者・借地権者が行政に対して都市計画の決定を提案できる提案制度も活用されています(ただし、法定手続きとして都市計画審議会に諮らなければならない)。

都市計画提案制度については、別の記事でも簡単に解説していますので、興味があればぜひご覧ください。

人口減少都市における市街化調整区域地区計画制度の課題

地区計画は、決定権者が市町村縦覧や説明会(公聴会)、都市計画審議会などを経ますが、県とは協議のみ(都市計画法第19条)で定めることができる都市計画のツールの一つです。

また、ここが重要で、市街化調整区域であっても、農用地区や農転許可不可土地、保安林、自然公園、災害の恐れのある地域などの他法令により建築物の建築が困難な地域を除けば地区計画を定めることが可能なため、地区計画を指定すれば建築物を建築することが可能となります。

調整区域は原則として建築禁止でしょ!ですよね…

ただし、例外があって、その例外の一つが地区計画となります。

全国の多くの市町村で市街化調整区域内での地区計画制度の運用基準を定めており、どういった開発であれば地区計画を定められるのか方針を示しています。

今回の諫早市も同様に調整区域内での地区計画制度の運用基準を定めており、今回の大規模開発行為もこの基準に適合する方法で地区計画提案を行っているものです。

なら問題ないのでは?と思いますよね。

課題と考えられるのは、地区計画によって建築することができる用途とその手続き(手法)です。

この市街化調整区域の地区計画制度ですが、国が定める都市計画決定を行う際の指針(都市計画運用指針)における市街化調整区域の開発許可のあり方では、次のように書かれています。

”更なる市街化を促進する恐れがないと認められるものについては、開発行為を許可しても差し支えない”という考え方に基づくものであり、つまり、定める地区計画は市街化を抑制すべき区域である前提を逸脱しない行為であることが求められるわけです。

ですので、わたしも行政窓口で相談を受けた経験があるのですが、『土地がないから調整区域で住宅を建築したいい』では市街化区域に建築する理由にはならないということ。

未利用地や低利用地が市街化区域に多数存在(=約100人/haを超えるような超過密な状態ではない限り)しているのであれば、市街化調整区域でなければならない理由にはなり得ないのです。

市街化調整区域においては、災害の発生のおそれのある土地の区域優良な集団農地など長期にわたり農用地として保存すべき土地の区域及び優れた自然の風景を維持する等のため保全すべき土地の区域については開発による新たな市街化を許容すべきでないが、都市計画区域マスタープラン等を踏まえ、区域によっては、計画的で良好な開発行為、市街化調整区域内の既存コミュニティの維持や社会経済情勢の変化への対応、既成市街地の空洞化といった事項を勘案し必要性が認められる開発行為等で、更なる市街化を促進するおそれがないと認められるものについては開発を許可しても差し支えないという考え方・・・(略)・・・既成市街地の空き地、空き家等の低未利用土地の増加につながらないかなどについて総合的に勘案すると同時に、開発予定区域を含む都市計画区域における人口動態等を踏まえ、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域であるという原則にも留意して行うべきである。その際、必要に応じ、法の委任に基づく条例や審査基準の制定等を通じて、 地域の実情等に応じた運用を行うことが必要である。なお、中心市街地の活性化に関する法律に基づき中心市街地の活性化の取組を行おうとする場合には、当該取組の推進のため、特に市街化調整区域における民間開発をコントロールする必要が高く、立地基準への適合性の審査を厳格に行うことが求められる。

都市計画運用指針(抜粋)

例えばですが、市街化調整区域内でもIC付近に物流施設や工場を誘致することは、効率的な物流配送が可能になりますし、サプライチェーンの日本回帰によって一部の自治体では需要が高まっています。

市街地での再開発による土地確保が現実的に難しく市街化区域と連続していないIC付近であれば、市街化を促進するおそれが少ないことから合理的な立地と言える可能性が高いです。

また、観光地・景勝地においては、立地場所が調整区域ですと何もできないため、地区計画を活用して限定的な建築物を建てることで観光振興に役立ち、結果として地域経済の活性化に寄与されます。

ところが大規模商業施設に関しては、都市計画法の趣旨と都市計画運用指針の考え方を考慮すると、商業床の増加により市内での商業床面積が供給過多となり、既成市街地の空洞化を促進させる可能性を否定できない点があげられます。

特に中心市街地活性化を目指す諫早市(経産省の中心市街地基本計画を作成:計画期間は2020年3月末までで国の補助金を活用済)のような自治体においては、元々が調整区域(郊外)の商業床を増加させる都市計画手法が将来的に問題がないのか疑問が残る点です。

疑問が残る点
  • 中心市街地活性化と郊外開発のバランスをどのように取り、どちらの施策に重点を置くべきかは、短中期のまちづくり計画である立地適正化計画(コンパクトシティの形成)を策定してから考えても良かったのかもと思います。

都市計画区域マスタープラン等との不整合と立地適正化計画の不在

市町村が策定する都市計画マスタープランでは、令和2年3月に一部改訂が行われ、当該開発地は、沿道型活力創出拠点として明示されていることで上位計画との整合が図れています

*出典:諫早市都市計画マスタープラン、土地利用方針図

しかしながら、さらに上位計画である県策定の長崎都市計画区域マスタープランでは、当該開発地は「森林・農地・集落等」の土地利用とされ、整合が図れていないのが実態です(おそらく、次回の計画改訂で修正するはず。)。

*出典:長崎都市計画区域マスタープラン

また、前項で触れた立地適正化計画を策定していない状況です。

立地適正化計画とは多極ネットワーク型のコンパクトシティの形成を推進する計画で、市街化区域内に居住を誘導する居住誘導区域と商業や福祉等の日常生活に必要不可欠な都市機能を誘導する都市機能誘導区域を定め、人口減少下においても市街地の人口密度を維持して、日常生活に必要不可欠な機能を確保しようとするものです。

市街化調整区域には両区域を定めることができない上に、諫早のような1拠点型の都市構造では、郊外への大規模商業施設の誘導は立地適正化計画と矛盾が生じます。

諫早市において立地適正化計画(全国470都市が策定済)が策定されていない背景には、さまざまな要因が考えられますが、その理由は一概には解明できません。

一方で、周辺の長崎市や大村市は積極的に立地適正化計画を策定し、コンパクトシティ形成を目指しています。

同じ都市計画区域に属する長崎市がどのように今回の調整区域の開発行為を見ているか気になるところ。
*同様の事例で福島市と伊達市がありましたが過去記事が消えてました…すみません。

適切な都市計画策と区域区分の見直し

市街化区域から離れた飛地であるケースや早急に物流施設の建設が必要なケースなど、どうしてもやむを得ない場合も除けば、なぜ、本来であれば市街化区域に編入して手続きするような都市計画なのに、調整区域のまま地区計画を先行する手法に対して疑問に思う方もいると思います。

(私自身は人口減少都市では市街地拡大を行うのであれば、未利用地を市街化調整区域にする逆線引きとセットで検討が必要と考えている方です。)

理由はいつくかありますが、最も大きな要因は区域区分を変更する場合には国土交通大臣同意が必要だからです。大臣同意を得るためには調整・協議のために時間とコスト、明確かつ合理性のある理由が必要です。

加えて、市街化区域への編入時には用途地域の指定も必要ですので、大規模な商業施設であれば必然的に商業地域への用途地域指定が必要となります。

ですが、人口減少都市では商業地域が不足する理由や国の方針に逆行して市街地を拡大させる理由を説明するのが非常に難しい。(書いても屁理屈にしか読めなくなりそう…)
*壊滅的な津波災害あった後などで一時的に住宅需要が増加し早急な対応が必要なケースであれば別ですが…。それでも商業(店舗)は理由が立ちにくい。

いずれは区域区分を見直して市街化区域に編入するのかもしれないですが、市街地に形成されたあとの編入のため何ら問題はないはずです。

今回の地区計画決定における都市計画審議会においては、新たに商業床(店舗床)を増やすことができる根拠が求められ議論になるのではと思います。

要点のまとめ

少し長くなってしまいましたが、簡単にまとめると次のようになります。

  • 市街化調整区域内は原則として農林業や公益施設以外の建築物の建築等は禁止されているが、地区計画を定めることで建築することが可能。ただし、市街化を抑制すべき区域である観点から慎重な判断が求められる。
  • 3分の2以上の土地所有者等の同意により都市計画提案(地区計画決定)が可能。
  • 地区計画は市町村の決定。図書の縦覧や説明会(公聴会)、県との協議を踏まえ、都市計画審議会の議を経れば決定することが可能。
  • 国の指針では、市街化を抑制すべき区域の範囲であれば自治体の裁量により地区計画を定めて開発許可をすることができる旨が書かれている。なお、市街化調整区域の地区計画制度については自治体単位で運用基準を定めている(大枠は都道府県が指針を策定)。
  • 人口減少都市及び人口減少都市圏で大規模商業施設を立地させるのであれば、上位計画、関連計画である中心市街地活性化基本計画との整合性などを明らかにする必要。

補足

都市計画の手続きとして、市街化調整区域の地区計画制度は合法ではあります。

ただし、その開発計画が自治体のまちづくり計画である4計画(都市計画区域マスタープラン、都市計画マスタープラン、立地適正化計画、中心市街地活性化基本計画)に即している内容である限りにおいてです。

柔軟な地区計画を活用すれば、面倒な区域区分の変更をせずに計画決定し開発することができるのは、提案から計画決定までの期間が短く済みます。そのため、提案を行う事業者、決定を行う市町村、同意のために国と調整しなければならない県にとってはメリットが大きいです。

一方で、都市は複数の市町村で構成されていることを踏まえると商業施設の場合には、広域的視点からの利害調整が必要であり、そうしないと、たまたま開発しやすそうな郊外の土地があったからという理由のみの”開発ありき”のまちづくりでは全体のまちづくり方針と矛盾していき、どこかで綻びが生じます。

短期的には雇用を生み出し地域経済が活性化するでしょう。

しかしながら、地方では、人口減少や超高齢社会の到来は急速に進んでいますよね。

中心市街地と郊外型の開発とのバランスを見誤ると、中心市街地が現在よりも衰退し、適切な人口密度も維持できずに、隣接市町村を巻き込んで商業や医療、福祉、交通、インフラといった面で一定の人口密度に支えらてきた都市機能を維持できなくなります。

結果的に行政の財政状況が悪化し、税負担として国民に降りかかってきます。

一概に全ての地方都市に当てはまる問題ではない点にだけご注意ください。

市街化調整区域の地区計画は市町村の裁量が大きく地域のニーズに即して使うことができるので便利なツールであるものの、その手法の性質から誘導用途によっては慎重な判断が必要となります。
特に人口と世帯数が急速に減少する地方では、広域に影響を及ぼす大規模商業施設の立地に活用する場合は関連するまちづくり計画と整合が確実に図られているのか対外的に市民に理解してもらう必要があります。
個人的には、人口減少都市(線引き・非線引き都市)での大規模商業誘導には立地適正化計画の策定は必須であり、さらには、広域調整を行う県や同一都市計画区域の市町村の同意(協議)を必要とする法改正が求められているのではと感じるところです。

ということで以上です。それではまた!

最後に補足として、今回の開発地ですが、100年確率の計画規模降雨でも浸水する地域となっていますが、土地を嵩上げして対策するのでしょう。(対策しないと運用基準に抵触します。)

※本明川浸水想定区域図(計画規模降雨) 長崎河川国道事務所






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YamaKen都市計画(まちづくり)を通じて都市を美しくしたい人
【資格】1級建築士、建築基準適合判定資格者、宅建士など 【実績・現在】元役人:建築・都市計画・公共交通行政などを10年以上経験 / 現在は、まちづくり会社を運営:建築法規・都市計画コンサル,事業所の立地検討,住宅設計など