こちらの記事では、2階以下かつ延べ面積200㎡以下の一戸建ての住宅からシェアハウス(=寄宿舎)に用途変更する場合に必要な遡及(改修)について解説しています。
戸建て住宅からシェアハウスへ用途変更する際に”こんなところ”に注意してくださいね。といった感じで書いてあります。建築基準法以外の法を網羅していませんので予めご了承ください。
こんにちは~やまけん(@yama_architect)です^ ^
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目次
建築確認申請は不要でも法に適合させる
シェアハウス(=寄宿舎)は特殊建築物に該当します。
そのため、寄宿舎で延べ面積が200㎡を超える場合には用途変更確認申請が必要となりますが、2階以下かつ200㎡以下の場合には不要です。一戸建て住宅の場合200㎡を超えるのは極めて稀ですので、戸建て住宅からの用途変更は申請不要となります。
ただし注意して頂きたいのが、建築基準法や法に基づく条例、その他消防法等の関係法令には適合させる必要があります。これを遡及(そきゅう)といいます。
*遡及適用は建築基準法第87条に規定されています。
このため、現存する一戸建ての住宅を手を加えないでそのままシェアハウスとして活用するのは絶対(ほぼ99%)に無理です。中にはそのままシェアハウスとして使っている方もいるとは思いますが、行政に通報が行けば行政指導対象となり、仮に指導に従わないで使用し続ければ告訴され最悪は逮捕となりますのでご注意ください。
それでは、一戸建て住宅からシェアハウスに用途変更すると、どういった改修が必要となるのか特に一般的な戸建て住宅を用途変更する際に法チェックが必要となる法文に関して詳しく解説していきます。
※この記事は、主に適用される法規(遡及適用)のみの解説となりますので、規模等によっては他の法文のチェックも必要となるのでご注意ください。
採光の確保
寄宿舎であるシェアハウスは戸建て住宅と同じく建築基準法第28条第1項の規定により、採光の確保が必要となり、基本的には部屋の面積の7分の1以上の窓が必要となります。
戸建て住宅であれば当初設計時から7分の1以上の採光が確保されていると考えられますので改修不要です。ですが、新たに間仕切り壁を設置したり、納戸・物置を居室に変更する場合には採光の確保が困難となる可能性があるため採光確保のチェックが必要です。
なお、単純に床面積の7分の1以上の窓を確保すれば良いというルールではなく、立地する場所の用途地域、窓と隣地境界線との距離、また庇やバルコニーの形状等によっては確保できない可能性もあるので、新たに間仕切り壁を設置する場合や物置等を改修場合は、専門家(建築士)に相談する必要があります。
*自力でもチェック可能ですので、そうした方はこちらの書籍を購入してチェックしてみてください。
(居室の採光及び換気)
建築基準法第28条第1項、施行令第19条第3項
第28条 住宅、学校、病院、診療所、寄宿舎、下宿その他これらに類する建築物で政令で定めるものの居室(居住のための居室、学校の教室、病院の病室その他これらに類するものとして政令で定めるものに限る。)には、採光のための窓その他の開口部を設け、その採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、住宅にあつては7分の1以上、その他の建築物にあつては5分の1から10分の1までの間において政令で定める割合以上としなければならない。ただし、地階若しくは地下工作物内に設ける居室その他これらに類する居室又は温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室については、この限りでない。
※寄宿舎=シェアハウス
※施行令第19条第3項:寄宿舎の寝室又は下宿の宿泊室 7分の1
寝室以外の部分に対しては7分の1以上の採光要求はありません。
なお、無窓居室にしてしまうと木造建築物では耐えることができない防火避難規定の要求が生じ、その要求の解消は困難となりますので、寝室以外の居室については20分の1以上の窓を確保(寝室以外ではリビングが考えられますが、間仕切り壁などは絶対に設置しない!)が必要です。
2以上の直通階段の設置
建築基準法上は2以上の直通階段の設置は不要のため、地上までの直通階段は建築基準法施行令第120条の規定により直通階段は1つ(内部・外部どちらでも)でOKです。
ですが、先日、国が公表した大阪北区ビル火災を踏まえたガイドラインによると1以上の直通階段の設置が必要となる2階以上の特殊建築物についても2方向避難が望ましいとの見解が示されています。
2方向避難は義務ではありませんが入居者の安全を確保する観点から対応が必要なケースもあるかもしれないです。
おそらくですが、自治体によっての周知方法や指導ルールなども異なるかと思いますので、心配な場合はガイドラインに基づく2方向避難の必要性について自治体の見解(建築指指導部局)を聞くのも手段の一つとしてありだと思います。
住宅用階段でも一部改修でクリア
一戸建て住宅用と寄宿舎用階段では必要な階段寸法が異なります。
規制の大きさとしては、一戸建て<シェアハウス となります。特に踏面に関しては、一般的な住宅に比べて6㎝以上も差があるので階段改修は難しいと捉えられがちです。
戸建て住宅 | シェアハウス | |
---|---|---|
蹴上(高さ) | 23㎝以下 | 22㎝以下 |
踏面(奥行き) | 15㎝以上 | 21㎝以上 |
屋外階段の幅 | 60㎝以上 | 90㎝以上 |
内部階段の幅 | 75㎝以上 | 75㎝以上 |
ですが、施行令第23条第4項の緩和告示(平成26年国交省告示第709号)により、2階以下かつ延べ面積200㎡以下については、戸建て用住宅の寸法とすることも可能となっています。
ただし、両側への手すりの設置や「十分に注意して昇降を必要がある旨」の表示などが必要となります。詳しくはこちらの記事をご覧ください(既存ストック活用のため近年法令改正されています。)
つまり、手すりの設置等を行えば戸建て用住宅階段を寄宿舎のルールに合わせる形で改修する必要がないということです。
両側手すりの住宅自体が少ないですが、さらに古い住宅(2000年以前)はそもそも手すりが設置されていませんので必ず改修が必要となります。
階段の床表面を防滑性のあるものにしなくてはなりませんので注意してください。
防火上主要な間仕切り壁の設置
建築基準法施行令第114条第2項の規定に基づく準耐火構造以上の壁ですが、「3室以下かつ100㎡以下」で防火区画することが求められます。
戸建て住宅を用途変更する場合は「準耐火構造」の壁により寝室間と寝室と避難廊下との区画(開口部は制限なし)が必要となります。
階ごとに3室以下かつ100以下ということで住宅の規模的に区画しなくてもOKと考える方もいますが、火災時の急激な延焼拡大、避難経路確保のためのもので、このルールは最低限のルールですから、入居者の安全確保や入居者の財産保護のためにも、100㎡以下や3室以下のケースでも寝室間や避難経路は区画した方が防火性能が高まります
※延焼が拡大する前に消防が到着して消火が開始されれば被害は少なく済みます。
また、寄宿舎の場合、長屋や共同住宅と異なり寝室間の防音が求められていませんから、尚更、プライバシーを確保するためにも準耐火構造以上の壁による防火区画は大切かなと思うところです。法律上は、”防火上主要な間仕切り壁”を準耐火構造とするしか書かれていないので悩むところではあると思います。
2 学校、病院、診療所(患者の収容施設を有しないものを除く。)、児童福祉施設等、ホテル、旅館、下宿、寄宿舎又はマーケットの用途に供する建築物の当該用途に供する部分については、その防火上主要な間仕切壁(自動スプリンクラー設備等設置部分その他防火上支障がないものとして国土交通大臣が定める部分の間仕切壁を除く。)を準耐火構造とし、第百十二条第四項各号のいずれかに該当する部分を除き、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。
建築基準法施行令第114条第2項
なお、3室以下100㎡以下の防火区画の考え方については次の書籍に掲載されています。
独自ルールを公表していない自治体の多くは行政庁の会議体である「日本建築行政会議」編集のこちらの書籍をルールとしています。建築士に依頼する場合は必須書籍ですので持っていると思いますが、自力で改修を行う場合にはちょっと高いですが持っていて損はないと思われます。(行政協議・行政相談の際に使える。)
排煙設備の要求がないか検討
排煙とは煙を逃す装置(窓)のことをいいます。
一般的な戸建て住宅(2階以下、延べ面積200㎡以下)の場合には、換気窓として床面積の20分の1以上があれば排煙設備の検討が不要なのですが、寄宿舎の場合には特殊建築物となるため、床面積の50分の1以上の開口部(天井から下方80㎝以内の開口部の面積)が必要となります。
この設備規定をクリアできないと排煙窓ではなく排煙設備の設置が必要となるため、オペレーターの設置や防煙垂れ壁の設置など、詳細な検討が必要となります。
通常、戸建て住宅であれば排煙窓として50分1以上は確保できていると考えられますが、念のための検討は必要となります。
非常用照明装置・火災報知器の設置
建築基準法施行令第126条の4の規定により、寝室への設置は不要ですが、寝室から地上に通じる廊下や階段、通路、共有部分には非常用照明装置の設置が必要です。
なお、告示(H12年建設省告示第1411号)により緩和できる可能性があるのはリビングなどの共有部分のみで、居室からの避難経路については告示を使っても設置を免除することができません。
ちなみに、非常用照明装置の構造は床面において1ルクス以上の照度を確保するなどの基準が設けられていますが、専門知識が必要となりますので、電気設備・消防設備に詳しい方に相談が必要です。
あわせて消防法に基づき寝室へは自動火災報知器の設置が必要となります。古い住宅(2006年6月以前)の場合には報知器が設置されていませんので新たに設置する必要があります。
消防法関連(規模に応じて消火器の設置)となりますので、建築確認申請は不要ですが、消防法上は防火対象物として使用開始届出が必要とな裏ますので、消防設備に詳しい企業等に相談して対応するようにしてみてください。
※なんとかして自力で対応したい方はこちらの書籍を購入することをおすすめします。
用途地域制限
市街化区域や非線引き都市計画区域で用途地域のみ指定している地域では、用途規制が適用されます。寄宿舎であるシェアハウスは工業専用地域を除いてどこでも建築することが可能です。
ただし、自治体の条例や地区計画により寄宿舎を制限している地域もあります。また、建築協定により自治会で寄宿舎を規制している可能性もありますので注意が必要です。
用途地域制限関係は都市計画課に確認。建築協定があるかどうかは自治会や建築指導部局に相談すると確認することが可能です。
接道幅などの制限
建築物は原則として幅員4m以上の道路に2m以上接道する必要があります。このことは不動産オーナーの方であればご存知かと思います。
しかし、このルールは最低限の基準であり一般的な戸建て住宅や小規模な建築物にのみ適用されるもので、ほぼどこの自治体でも特殊建築物(寄宿舎も含む)に対しては、建築基準法第40条、建築基準法第43条第3項の規定により、制限の付加(制限の強化)を行っています。
例えば、寄宿舎を含む特殊建築物については、道路に4m以上に接しなければならないなど。
自治体の建築基準条例によって異なりますので注意が必要です。
この条例に関しては、遡及されるのですが自治体ごとの条例ということもあってつい見落としがちなところですので確認が必要です。
建築基準法による遡及は改修等で対応可能ですが、条例に関しては物理的に困難(接道幅を確保できないなど)となる可能性があるので、接道幅が4m以上確保できていない敷地などの場合は、最も注意が必要です。
浄化槽の人槽(下水区域外のみ)
住宅と寄宿舎では人槽算定の考え方が異なります。
例えば、延べ面積が130㎡の場合、0.07*130=9.1→10人槽の設置が必要となります。
実際に居住する人数にもよりますが、仮に130㎡とすると本来であれば10人槽必要なところに5人槽の容量しかないために、微生物が処理しきれずに汚水を側溝に垂れ流す危険性があります。
特に設置している人槽よりも居住する人数が多い場合は注意です。
算定式 | |
---|---|
住宅(延べ面積≦130) | 5 |
住宅(130<延べ面積) | 7 |
寄宿舎 | 0.07*延べ面積 |
まとめ
2階以下かつ200㎡以下の一戸建て住宅からシェアハウスに用途変更する際の注意点・留意点についてまとめました。
改修を行えば対応できる規定もあれば、建築基準法に基づく条例のように、道路との接道状況(敷地形状)によっては対応が困難となることも考えられます。また、浄化槽地域の場合には容量オーバーとなる可能性があるので注意してください。
なお、オーナー自身で自力で改修等を行う方は、まずは建築基準法第87条を確認するようにしてください。この法第87条に何を遡及すればよいか書かれています。
※法律自体はネットで誰もが閲覧可能です。
ただし、建築基準法や消防法などに違反しないようにしたい方は、地域の条例等にも詳しい地元の建築士に依頼することをおすすめします。
それでは以上となります。参考となりましたら幸いです。